崖っぷち貴族の私が「悪魔令嬢」の侍女になりました!

もりの

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あなたこそ運命の人ですわ!

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 「一体どういうことですの……? わたくしの片翅かたはねの君は……?」

 抵抗する間もなく椅子に座らせられ、紫のドレスの令嬢は混乱している様子でぶつぶつと呟いていた。しかし混乱の最中にあっても彼女のエメラルド色の瞳は真っ直ぐリリアーナを見つめ続けている。

 レティシアはリリアーナの後ろに座ってぷるぷる震えながら、でもやっぱり令嬢が気になるのか、時折顔を覗かせ様子を伺っている。リリアーナは怯える主人を背に庇いつつ、どう言い訳したらいいものかと、頭をフル回転させていた。

 「……先程のご無礼をお許しください。レティシア様にどのようなご用事でしょうか」
 「いいえ、レティシア様に用はないわ。わたくし、あなたを探しにきたの。まさか女性だったとは思わなかったけれど」

 ……ですよね~。

 リリアーナは冷や汗をかきながら頭の中で相槌を打った。

 そう、このご令嬢はリリアーナに会いにきたのだ。いや、正確に言えば舞踏会の時の「男装していたリリアーナ」か。リリアーナが女性だったことに驚いているということは、十中八九そういうことだろう。

 一部で噂になっているということは知っていたが、まさかモンフォルル家に直接乗り込んでくる者が現れるとは。

 「あなた、舞踏会でレティシア様のパートナーだった方よね? レティシア様の“片翅”として舞うあなたを一目見てからずっと……お会いしたかったわ」

 なるほど、蝶の家紋を持つモンフォルル家の一人娘、レティシアのパートナーだから「片翅の君」か。そんな異名までついていたとは。

 性別が違うというのに、リリアーナを「片翅の君」と信じて疑わない令嬢。彼女は「レティシアなど眼中にない」といった様子で、リリアーナに向かってうっとりと微笑んだ。

 まずいことになった。

 リリアーナは極力澄ました顔を保ちながら内心焦っていた。これが公になってエデンガード王の耳にでも入ってたら、リリアーナは間違いなくクビだし、家族は露頭に迷うし、なにより巻き込んでしまったレティシアの名誉まで傷つけることになってしまう。

 自分がクビになるのはいい。けれどそれだけではすまないのは頂けない。周りに迷惑がかかるどころの話ではない。なんとか誤魔化さないと。

 しかし、リリアーナを見つめる令嬢の目には一切の疑いがない。なんの根拠があるのか分からないが、下手な嘘では通用しなさそうなほどの自信を感じた。

 リリアーナはその真っ直ぐな目に怖気付きそうになりながら微笑んだ。普段は思っていることが顔に出てしまうリリアーナも、侍女の仮面を被っている間は愛想笑いが得意になる。

 「あれは、田舎に住んでいる兄でして」
 「そんなはずないわ」

 極力真実に近い嘘をついたつもりだったが、ピシャリと言い切られてリリアーナはたじろいだ。令嬢は自分の目を指先して不遜に笑う。

 「わたくし、一度見たものを忘れないの。もしかして、わたくしをご存知なくて?」

 ギラリと輝くエメラルドグリーンの瞳。レティシアのサファイアのような瞳も珍しいが、こんなに色濃い緑の瞳も相当に珍しい。それこそ一度目にしたら忘れられないだろう。それを覚えていないということは、会ったことも見かけたこともないということ……の、はずだ。

 ということは、風貌だけで分かるほどに有名な家の出なのだろうか?

 リリアーナはもう一度、彼女の姿を頭から足の先までじっくり観察した。

 モンフォルル家に勤めている人間ならもうピンときているのかもしれない。しかし残念ながらリリアーナは貴族の端くれとは言え田舎生まれ田舎育ち。城下に出てきたのもつい最近のことで、そういう貴族間の情報にはめっぽう疎かった。

 一応、後ろですっかり小さくなっているレティシアをチラリと見やると、彼女はぷるぷると首を横に振った。ですよね、知ってました。

 「……申し訳ございません、存じ上げておりませんでした」

 正直に伝えると彼女は意外そうな顔で「あらそう?」とだけ言った。玄関ホールであれだけ暴れ回っていたのだから、怒鳴られてもおかしくないと思ったが、彼女は静かに立ち上がって優雅に一礼した。

 「わたくしはキャロライン・パープラー。パープラー家の長女よ。以後お見知り置きを」
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