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【第一部】
俺の『おにいちゃん』side 黒川 理央
しおりを挟むイルカショーが終わって金条華が行ったというクリオネのコーナーに廉と向かう。
すれ違う人はみんな廉を見てから俺を見る。
『あの子、彼女かな?』『いやでも男の子の制服だよ!』とか『背高い人めちゃくちゃ綺麗だね』とかコソコソ言ってるのが聞こえる。
俺は見られても気にしない、むしろ見てって思う。
俺の廉はこんなにかっこいいんだよって世界中に自慢したいくらい、廉が大好き。
「廉、イルカショーすごかったねえ!」
「お前が前に座るせいで濡れた」
「えへへ、ごめんね」
みんなに見せ付けるように廉にくっついて見上げる。
廉の口調は冷たいけど態度はいつも優しい。くっついても『離れろよ』って言いながら俺を振り払ったりしない。
『本当のお兄ちゃん』とは比べ物にならないくらい優しいんだ。
だから俺は廉と出会わせてくれた黒川のお父さんが大好きだし、廉が大好き。
この女みたいな顔のせいで施設で誰とも仲良くなれず、部屋の隅っこで小さくなるしかできなかった俺を見つけてくれたのは廉だった。
あの日の事は今でも忘れない。
*
桜が咲き始めた頃、少し空いた窓からは暖かい風が吹いてきていた。
施設の子はお絵描きとか積み木とか思い思いに遊んでいたけど、俺はその日も部屋の隅っこで小さくなっていた。
その時、黒川のお父さんが廉を連れて施設に来たんだ。
初めて見た黒川のお父さんは明らかに金持ちって感じの見た目で、『あーいう人に選ばれた子はシアワセになるんだろうな』って小学生ながらに思った。
少しすると黒川のお父さんと廉はみんなが遊んでいる部屋に入ってきて施設の先生と一緒に近くの子に話しかけたりしていた。
あーいいな、俺もあの人と話して気に入られたら…って思ってたその時、廉が俺を指さして黒川のお父さんに何か言ったんだ。
廉の真っ黒な瞳とぱちっと目が合ってドキンと心臓が跳ねた。
うそ!俺が選ばれるの?そう思ったけど勘違いだったらどうしようと思って、やっぱり俺は小さく体育座りをしていた。
すぐに俺の前に来た黒川のお父さんは屈みながら俺に『キミ、僕達の家族になるかい?』って言った。
俺は迷わず頷いた。
首がちぎれるほど何度も何度も頷いた。
その後に『キミが前に居た家よりも痛くて辛い事もあるけど大丈夫?』って言われたけど何でもよかった。
俺は嬉しくて泣きながら『連れてって』って言った。
そしたら廉がちょっと笑いながら俺に手を差し出した。俺はその手をぎゅっと握った。
その日、俺は黒川のうちの養子になった。
普通養子になるなら数日間は手続きとか色々ありそうだけど黒川のお父さんは裏技を使ったって廉から聞いた。
それからの日々は本当に楽しかった。
大きい家に優しい黒川のお父さんとかっこいい廉。
痛くて辛い事なんて何も無かった。
これは黒川のお父さんに後から聞いたんだけど、廉は双子で俺にはもう一人のお兄ちゃんがいるらしい。
黒川のうちで暮らし始めて10年近く経つけどその人は一度も見た事ない。
でもそんなのどうでもいい。
俺には廉がいるから。
*
「──あぁ???!!探せ!!!」
クリオネコーナーに向かう途中、廉のスマホが鳴る。
仕事かもって出た廉は、水族館の中なのに電話に向かって大声を出す。
その顔は怒っているのか焦っているのか心配しているのか分からない、俺が初めて見る表情だった。
「ど、どうしたの」
「華がいなくなった」
どきん!と心臓が大きく鳴る。
廉は俺が立ち尽くしてるのなんかに気付かず水族館の出口へ向かう。
俺もハッとしてその背中を追いかけた。
ねぇ金条、お前どんな手使って廉に取り入ったの?
お前が知り合うよりずっとずっとずーっと前から廉と一緒にいるのに。
悔しいよ。
それから廉は何人かに電話をして車を走らせる。
いつもは安全運転なのにアクセル全開で次々と車を追い越していく。
ハンドルを忙しなく左右に動かしながら『凛堂じゃなくて早野か白林に頼めばよかった』とか『護衛全員騙して連れていきやがって』とか色々独り言を言ってるし、何回も苛ついた様に舌打ちを繰り返す。
こんな廉、見たことない。
俺のお兄ちゃんなのに、あの金条華とかいうやつに取られた。
俺の世界は廉だけなのに。
ちょっと顔が綺麗でΩだからって。
俺はβだから廉とは番になれない。
まぁΩでも廉と戸籍上は兄弟だから結局番にはなれないんだけど。
あぁ、悔しい、悔しい。俺の廉なのに。
夏休み明けから金条と同じ高校に転校するらしいけど精一杯文句言ってやる。
これから廉はお前のなんだから少しくらい我慢してよね。
俺だって応援してないわけじゃないんだよ。
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