翠眼の魔道士

桜乃華

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第二話 怪鳥ーパンディオン 1/3

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 “依頼が届いております。以下のクエストを受けますか?”
 クエスト管理協会から支給されている一枚のカードに書き込まれたメッセージを見たセシリヤは追加されたクエストの内容に目を通した。

 「えっと、なになに……盗賊退治に怪鳥討伐……」

 セシリヤは唸った。どれも難易度は高めで報酬も悪くない。ここから一番近いのは怪鳥の討伐だ。剣士の一人でもいてくれれば楽なのだが、如何せん自分は魔導士。だが、生活がかかっているためセシリヤは拳を握るとカードに触れた。

 “クエストを受け付けました。お気を付けて”
 メッセージに「はーい」と返してセシリヤは宿屋を後にした。


 宿屋を出てから半日ほど歩いたところに人が立ち入れなくなった洞窟がある。そこにはクエストにあった怪鳥が住み着いて一月経過しており、近くの村や街が襲われていた。人を喰らうことはせず、ただ暴れまわるだけ。けれど、被害は日々拡大していた。

 「怪鳥相手か……腕が鳴る、じゃなかった……まあ、なんとかなるでしょ」

 腰に手を当てたセシリヤは洞窟を見上げて口角を上げた。

 中の造りは単純。天井は崩れて天窓が開いており、青空が見えている。直径はおおよそ四十から五十メートル、高さは七十メートルほど。天窓を一周するように木が生えており、風に揺らされた葉が音を奏でた。セシリヤは洞窟内をぐるりと見渡した。障害となる岩もほとんどなく、黄褐色の壁には蔓が張り、地面からは木の根がいくつか見えているだけだ。

 「怪鳥の姿はなし。戻って来るまで待つとしますか……」

 そう零したセシリヤの頭上から風が吹き、肩まである彼女の髪を揺らした。地面に落とされた影が次第に大きくなっていき、セシリヤの影と同化した。すぐに重力魔法を自身に掛けて飛ばされないようにして見上げれば、目的の鳥がこちらを見下ろしていた。

 「これが……怪鳥。ギルドからの報告と随分違う大きさじゃない?」

 カードに記載されていた大きさは全長約五八〇センチメートルだったはずだ。けれど、目の前にいる相手はその倍はある。地面に降り立ち奇声を上げた怪鳥を見据えたセシリヤは「あとで絶対にクエスト管理協会に苦情入れてやる」と頬を滑る汗を拭いながら呟いた。
 目の前の小さな人間を敵と認識した怪鳥が両羽を広げ、何度か羽ばたかせると巨大な躰を浮かせた。それだけで強風がセシリヤを襲う。今、重力魔法を解除すれば簡単に飛ばされるのは明白。怪鳥が地面から離れている距離は目測で三メートルほどだ。ギリギリで行けるだろうと踏んでセシリヤは口を開いた。

 「くっ……、木の根よ、彼の者を捉えよ! バインド!」

 地面から出ていた根が生き物のように動き始め怪鳥の両脚を捉えた。驚いた怪鳥は奇声を上げながらもがく。けれど、太く大きな根はびくともしない。

 「よしっ! とりあえず、これ以上高く飛ばれることはない。けど、風は……強っ!」

 もがきながらも羽ばたこうとする怪鳥から絶えず風が送り込まれてセシリヤは重力魔法を解けずにいた。

 「ああ! もう! 風、邪魔なんだけど!」

 そう言うとセシリヤは目の前に岩の壁を作った。同時に重力魔法を解くと岩を背に腰を下ろした。はぁー、と重い溜息を吐く。管理協会からの情報から予測していた敵の強さだともう少し楽できると思っていたのに、と悪態を吐きたくなる。まあ、悪態を吐いたところで状況打開にはならないのだが。セシリヤは岩陰から怪鳥を見た。先ほどから変わらず抵抗して風を巻き起こしている。

 「それにしてもあの鳥、どこかで見た気がするのよね……。ん?」

 眉を寄せたセシリヤの足元に拳くらいの石が転がってきた。それを手に取った瞬間、石が光り、セシリヤから魔力を吸い始めた。
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