翠眼の魔道士

桜乃華

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第五話 女神ーティルラ 1/2

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 ティルラと名乗る女性は魔石の中で胸を張っていた。

 「……女神ティルラって誰?」

 セシリヤが真顔で問う。

 「え……?」

 胸を張ったまま固まったティルラが壊れた機械人形のようにぎこちない動きでセシリヤを見上げて「ウソでしょ……」と小さく呟いた。信じられないものを見た、と言わんばかりの表情にセシリヤは首を傾ける。

 「知らないものは知らないんだから、仕方ないでしょ?」

 ため息混じりに言うセシリヤにティルラの肩が揺れる。小刻みに震える相手にセシリヤが言葉を探す。けれど、適当な言葉が見つからず口を閉ざした。

 「……、るわよ……」

 「なんて?」

 小さく呟かれた言葉を聞き返すセシリヤに向かってティルラが顔を上げるとエメラルド色の瞳がセシリヤを捉えた。彼女は大きく息を吸うと「分かるまで教えてあげるからそこに座りなさい!」と大声で怒鳴った。

 「……っ」

 耳をつんざくような声にセシリヤは片耳を抑えた。

 (うるさ……)

 「今、うるさいって思ったでしょ⁉」

 「……思ってない。思ってないです」

 涙目で見上げてくるティルラにセシリヤは視線を逸らしながら返す。正直に言うとうるさいと思ったし、面倒くさそうなのでこのまま置いて宿に帰ろうかなとセシリヤは考えていた。クエスト管理協会へ討伐完了の報告を済ませたいし、一応師匠にも連絡しておきたい。セシリヤの考えなど知る由もないティルラは「いい? 私は女神ティルラ」と自己紹介を始めており、長くなる予感しかしない。

 「あの」

 口を挟むセシリヤにティルラの眉が上がる。

 「そろそろ宿に戻りたいのでこれで失礼しま……」

 「待って! お願い待って!」

 魔石を地面へ置き、去ろうとするセシリヤをティルラが止める。声が必死だ。

 「お願い、私をここから連れて行ってください!」

 数分前までの態度とは打って変わり、低姿勢の自称女神にセシリヤは足を止めた。ティルラの表情が明るくなる。

 「今まで私はただの魔石だったんだけど、あなたの魔力で話せるまでに回復したの」

 (……勝手に人の魔力を吸収したんですけどね?)

 セシリヤは喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。とりあえず続きを聞いてみよう、と静かにティルラの次の言葉を待った。

 「あなたなら私を元に戻せるかもしれない! お願い、私をあなたの旅に同行させて!」

 (えぇ……。面倒くさそうだから断りたいんだけど)

 顔に出ていたのだろう、ティルラが畳みかける。

 「私を元に戻せたらあなたの願いを叶えるから」

 「願いを……?」
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