翠眼の魔道士

桜乃華

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 アンディーンが浄化された直後、その気配を察知した女は一瞬だけ、目を丸くした。それも束の間、アメジスト色の双眸を細めた。

 「浄化されちゃったのね。でも……」

 形のいい唇を白い指で撫でた女は口角を上げた。

 「浄化が出来るなんて女神クラスくらい。という事は、あれが目覚めた可能性がある」

 「あれ、とはたしかお前が魔石に封じた女神の事か?」

 横目で女は相手を見た。先ほどまで誰もこの部屋にはいなかったはずだ。

(勝手に人の部屋に入り込むなんて相変わらず悪趣味ね、こいつ)

 「そう睨むでないフラビィよ。別に儂はおまえが魔石を待ち帰るのを失敗したことを言及してはおらぬよ」

 「……」

 無言のフラビィに男はわざとらしく肩を竦めて見せるとソファーから立ち上がった。

 「あなたはさっさと自分の仕事に戻ったらどう?」

 早くここから出て行けと言わんばかりのフラビィに相手は苦笑を見せる。

 「そうさな。あちらの様子も気になることじゃし、そろそろ戻ろうかの……。あのお方の期待を裏切る真似だけはするでないぞ、フラビィ」

 「分かってるわよ……早くここから出て行け陰険じじい……」

 「なんと口が悪いことか。まことに残念じゃ」

 わざとらしく溜息を吐いた男はやれやれ、と言いながら部屋から出て行った。


 「今度こそあの女神をこの手で葬り去る。それがあのお方のご命令とあらば……」

 でも、それは本当にあのお方の命令なのだろうか。いまいちあの爺のことは信用できない。あのお方の代理として出てきた爺は魔族たちへ命令を下している。それが気に食わない。

 「まあいいわ。あの爺の腹の中を探るのは後。まずはあの女神を……」

 フラビィは窓に爪を立てて低く呟いた。






 「さてさて、次はどうするか。そうだ、そろそろヤツを目覚めさせるか」
 廊下を歩きながら男は口の端を吊り上げた。
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