翠眼の魔道士

桜乃華

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第四十六話 魔術障壁

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 魔術障壁の前に立つと意識を集中させて魔術構造を探る。魔法は潜在的なもので扱える者は限られるが、魔術は別だ。術式や魔術道具があれば極端に言えば誰でも扱える。目の前の障壁は魔法を編み込んだものではなく、何かを媒介として術式を組み込んであるようだ。

 「うーん……。これ、複雑すぎて解除するにも時間が掛かりそうね」

 ――セシリヤ様、私にも調べさせてください

 そう言われてセシリヤはブレスレットを魔術障壁へとかざした。アクアマリン色の石が淡く光ると中からアンディーンが姿を現した。目を丸くしているセシリヤを一度見たアンディーンが悪戯が成功した子供のように微笑むと魔術障壁へと触れた。バチッ、と電気が走ったように弾かれてアンディーンは手を引いた。

 「……」

 「アンディーン、大丈夫?」

 問えばアンディーンは「はい……」と返すが、ワントーン声が低い。

 「どうする? 時間は掛かるけど術式解除する?」

 「でも、大道芸を任されているミラはどうするの? そろそろギャラリーが飽きる頃だと思うのだけど?」

 ティルラから指摘されてセシリヤは「確かに……」と考え込む。

 「セシリヤ様、術式の解除は諦めましょう」

 意外な提案にセシリヤは目をしばたたかせた。ミラの事を考えればこれ以上時間を掛けるわけにはいかないが、せっかくここまで来て解決できないのは悔しい。クルバたちが何度も水を汲みに行かなくて済むように、数年前までの生活を取り戻してほしいだけなのに。セシリヤは唇を噛んだ。

「そんな顔をしないでください。解除を諦めるだけであって、水のことは別です。たしか、ここに到着する前に一か所水が溜められそうな窪みがありましたよね?」

 「え? うん。あったわね」

 記憶を辿り一か所該当する場所があったことを思い出す。特に何もなくて早々に立ち去った場所だ。

 「そこまで戻りましょう。あと、私のいる洞窟から水晶持って行きましたよね?」

 「ダメだった……?」

 肩を揺らしたセシリヤが腰に下げていた麻袋に触れた。中には水晶がいくつか入っている。いいえ、とアンディーンは首を左右に振った。

 「それを使いますので。持っていて構いません」

 そう言って石の中に戻ったアンディーンにセシリヤは安堵の息をそっと吐いた。アンディーンに考えがあるのだろうと、判断して指定された場所まで向かうことにした。

 (……また、あいつら出てくるのかしら)

 僅かに残る不安を胸にセシリヤは走った。
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