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第八十話 じゃんけん
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「ごちそうさまでした。さ、支部に行きましょうか」
食事を終えて両手を合わせたセシリヤにようやくか、とヴァシリーが立ち上がる。
「おい、そこの二人! いつまで喧嘩してんだ、行くぞ!」
「行くぞ、と仰いますが、転移魔法を使うのは誰だと思っているんですか?」
「ほんとほんと。まあ、僕がセシリヤさんと組むんですけど」
「は? 何を言い出すのかと思えば……セシリヤと組むのは私よ」
ヴァシリーの一声に二人は喧嘩を一時中断してヴァシリーへと矛先を変えたのも束の間、第二ラウンドが始まりそうな雰囲気だ。ヴァシリーは溜息を吐きながら頭を乱暴に掻くと、セシリヤを呼んだ。
「なに?」
「お前のことで喧嘩が始まったんだ。なんとかしろ」
「なんとかって……」
巻き込まれたくない、というのが本音だ。けれど、このままだとクルバたちに迷惑をかけてしまう。セシリヤがクルバとペレシアへと視線を向けると、二人は案の定状況についていけずキョトンとしていた。
「はぁ……」
溜息を吐いてセシリヤが「ミラ! ラウラ!」と二人の名前を呼んだ。すぐに二人が反応して近づいてくる。
「なんですか?」
「なに? セシリヤからの頼み事なら聞いてあげる」
(近い、近い、近い! この二人はなんでこんなにパーソナルスペースが近いの!)
「じゃんけんで勝った方に送ってもらうっていうのはどう?」
「じゃん……」
「けん……」
ミラとラウラは互いに睨み合い、片手を出した。火花が散る。
「はーい、じゃんけん始めまーす。じゃーんけーんぽん」
睨み合う二人を無視したセシリヤはほぼ棒読みで掛け声をかけた。慌てて二人が各々の手を出す。
あいこを繰り返すこと数十回。ようやく決着がついた。床に両手を付いて悔しがっているミラをラウラが高笑いをしながら見下していた。
「おー、決まったならさっさと行くぞー」
「そうね……、さっさと行きましょ。ラウラ、よろしく」
「ええ、セシリヤ。さあ、掴まって」
手を差し出したラウラにヴァシリーが「あぁー⁉ お前、俺の時は掴まれとか言わなかったじゃねーか!」と文句を言っている。
ラウラは何を言っているんだ、と言いたげにヴァシリーを見て鼻で笑った。
「はっ、ヴァシリー様に転移魔法を使うのにわざわざ掴む必要性を感じませんので」
「お前はもう少し優しく言えないのか⁉」
涙目のヴァシリーをラウラは無視してセシリヤの手を握った。
「あぁー⁉ ラウラー! お前、僕のセシリヤさんの手を気安く握るんじゃない!」
今度はミラが声を張り上げた。セシリヤの眉がうるさい、と言いたげに寄せられる。
「あら、文句があるならじゃんけんで負けた自分に言うのね」
言い返されてミラはグッと押し黙る。奥歯を噛みしめたミラは勢いよく立ち上がった。
「分かったよ、僕がこの人を送ればいいんだろ! くそー!」
半泣きで魔法陣を展開するといじけて床に文字を書いているヴァシリーの襟を掴んで消えた。消える間際にヴァシリーからカエルが潰されたような声が聞こえた気がしたが、確認しようにも彼の姿はここにはない。セシリヤは何も見なかった、聞かなかったと自分に言い聞かせてそっと目を閉じた。
「はあ、うるさいのがやっといなくなったわ。さ、セシリヤ、行きましょう?」
やや大きな溜息を吐いてもう一度手を差し出してきたラウラにセシリヤはクルバたちの方を向いた。
「え、あ、うん……。クルバさん、ペレシアさん、お騒がせしました!」
頭を下げたセシリヤにクルバたちが返事をする間もなく魔法陣が光り二人の姿が消えた。セシリヤたちが出て行った後、状況について行けなかったクルバとペレシアは互いに顔を見合わせて苦笑するのだった。
食事を終えて両手を合わせたセシリヤにようやくか、とヴァシリーが立ち上がる。
「おい、そこの二人! いつまで喧嘩してんだ、行くぞ!」
「行くぞ、と仰いますが、転移魔法を使うのは誰だと思っているんですか?」
「ほんとほんと。まあ、僕がセシリヤさんと組むんですけど」
「は? 何を言い出すのかと思えば……セシリヤと組むのは私よ」
ヴァシリーの一声に二人は喧嘩を一時中断してヴァシリーへと矛先を変えたのも束の間、第二ラウンドが始まりそうな雰囲気だ。ヴァシリーは溜息を吐きながら頭を乱暴に掻くと、セシリヤを呼んだ。
「なに?」
「お前のことで喧嘩が始まったんだ。なんとかしろ」
「なんとかって……」
巻き込まれたくない、というのが本音だ。けれど、このままだとクルバたちに迷惑をかけてしまう。セシリヤがクルバとペレシアへと視線を向けると、二人は案の定状況についていけずキョトンとしていた。
「はぁ……」
溜息を吐いてセシリヤが「ミラ! ラウラ!」と二人の名前を呼んだ。すぐに二人が反応して近づいてくる。
「なんですか?」
「なに? セシリヤからの頼み事なら聞いてあげる」
(近い、近い、近い! この二人はなんでこんなにパーソナルスペースが近いの!)
「じゃんけんで勝った方に送ってもらうっていうのはどう?」
「じゃん……」
「けん……」
ミラとラウラは互いに睨み合い、片手を出した。火花が散る。
「はーい、じゃんけん始めまーす。じゃーんけーんぽん」
睨み合う二人を無視したセシリヤはほぼ棒読みで掛け声をかけた。慌てて二人が各々の手を出す。
あいこを繰り返すこと数十回。ようやく決着がついた。床に両手を付いて悔しがっているミラをラウラが高笑いをしながら見下していた。
「おー、決まったならさっさと行くぞー」
「そうね……、さっさと行きましょ。ラウラ、よろしく」
「ええ、セシリヤ。さあ、掴まって」
手を差し出したラウラにヴァシリーが「あぁー⁉ お前、俺の時は掴まれとか言わなかったじゃねーか!」と文句を言っている。
ラウラは何を言っているんだ、と言いたげにヴァシリーを見て鼻で笑った。
「はっ、ヴァシリー様に転移魔法を使うのにわざわざ掴む必要性を感じませんので」
「お前はもう少し優しく言えないのか⁉」
涙目のヴァシリーをラウラは無視してセシリヤの手を握った。
「あぁー⁉ ラウラー! お前、僕のセシリヤさんの手を気安く握るんじゃない!」
今度はミラが声を張り上げた。セシリヤの眉がうるさい、と言いたげに寄せられる。
「あら、文句があるならじゃんけんで負けた自分に言うのね」
言い返されてミラはグッと押し黙る。奥歯を噛みしめたミラは勢いよく立ち上がった。
「分かったよ、僕がこの人を送ればいいんだろ! くそー!」
半泣きで魔法陣を展開するといじけて床に文字を書いているヴァシリーの襟を掴んで消えた。消える間際にヴァシリーからカエルが潰されたような声が聞こえた気がしたが、確認しようにも彼の姿はここにはない。セシリヤは何も見なかった、聞かなかったと自分に言い聞かせてそっと目を閉じた。
「はあ、うるさいのがやっといなくなったわ。さ、セシリヤ、行きましょう?」
やや大きな溜息を吐いてもう一度手を差し出してきたラウラにセシリヤはクルバたちの方を向いた。
「え、あ、うん……。クルバさん、ペレシアさん、お騒がせしました!」
頭を下げたセシリヤにクルバたちが返事をする間もなく魔法陣が光り二人の姿が消えた。セシリヤたちが出て行った後、状況について行けなかったクルバとペレシアは互いに顔を見合わせて苦笑するのだった。
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