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第八十二話 地下闘技場
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「おい、そこまでにしろ。これ以上セシリヤさんに近づくな」
怒りを滲ませる声音に視線を向ければミラが睨んでいた。ラウラはふっ、と笑うと「あら、やだ。怖い……」と口にするが、怖がっている様子はまったくない。
「だいたい、いつまでセシリヤさんにくっついているんだ。さっさと離れろよな」
「いいじゃない。せっかくのこの子との時間、邪魔しないでほしいわね」
金色の髪を上げながら挑発的な視線を向けてくるラウラに、ミラも負けじと応戦する構えを取った。モンタナでの続きと言わんばかりに二人は言い争いを再開する。間に挟まれていたセシリヤは溜息を吐くとそっと二人から距離を取った。
状況について行けていなかった職員の一人がセシリヤを見てポツリ、と零す。
「そう言えば、先日ここに来た冒険者よね、あの子」
「ああ……。本部から来たミラ様と騒いでた……」
「あと大道芸してなかった?」
「どこかで見た容姿じゃない?」
ひそひそと声を落として職員たちが話す。ミラと話していた時には他の冒険者の対応をしており、そこまで容姿をじっくりと見ていなかった。それ以前にミラとの会話が気になりすぎてそれどころではなかったというのが本音なのだが……。もう一度セシリヤをジッと職員一同見つめた。
「白銀の髪に翡翠色の瞳にセシリヤと言う名前……翠眼の魔道士か!」
「って、あの⁉ いや、噂とずいぶん見た目違わない?」
驚いた一人が一度冷静になり目を凝らす。髪と瞳の色は噂と違わないが、何かが違うと首を傾ける。
「筋肉隆々?」
「高身長?」
「目つきは悪く、睨んだものを石に変える……?」
口々に自分たちが知る噂を言って全員で首を傾けた。どれも当てはまらない。
「いや、あいつが翠眼の魔道士で合ってるぞ」
いつの間に移動してきたのか、口を挟んだのはヴァシリーだった。驚いた職員の一人が椅子から勢いよく落ちた。
「にしても、あいつの噂ろくでもねーな」
本人の耳に入ったら相当怒りそうだな、とヴァシリーはくっくっと笑いを抑えながら言った。視線に気付いたセシリヤが近づいてくる。職員全員、口をキュッと閉じた。
「おい、セシリヤ。あいつらの喧嘩まだまだ続くだろ? その間にやろーぜ」
口の端を吊り上げたヴァシリーにセシリヤは心底嫌そうな顔をする。その向かいで職員たちは「何を⁉」と興味半分、恐怖半分と感情がごちゃ混ぜになっていた。
「なあ、そこのお嬢ちゃん」
「は、はい!」
突然話しかけられた受付の女性は上ずった声で返事する。
「ここには冒険者たちの実力を測るための闘技場があるだろ? そこに案内してくれ」
クエスト管理協会には本部だけに限らず支部にも冒険者たちの実力を測るための闘技場が作られている。その実力を以ってクエストの難易度も振り分けられるのだ。女性は立ち上がると緊張しているのかぎこちない動きで歩き出した。その後ろをヴァシリーとセシリヤはついていく。
「ねえ、いいの? あの二人置いたままで」
「ん? ああ、大丈夫、大丈夫。あいつらはお前がいなくなったと気付いたらすぐに追いかけてくるだろうから」
笑いながら言うヴァシリーにセシリヤは「そうだけど、なんか後々面倒くさいことになりそうなんだけど……」と不安を口にした。
「こちらです」
地下へと続く階段を降りた先で電気をつければ、四百平方メートルほどの闘技場がセシリヤたちの視界に映る。それだけでテンションが上がったのかヴァシリーは口笛を吹きながら肩を回した。
「えっと、あの……ヴァシリー様たちは今から何を……」
勇気を振り絞り女性が問うた。セシリヤたちの後を気になった職員たちが付いてきており、「よし! よく言った!」と女性に対して賞賛の声を送っている。
「ああ、今から俺とこいつが一戦交える。OK?」
ヴァシリーの返答に女性は目を丸くしながら、遅れて一度頷いた。
怒りを滲ませる声音に視線を向ければミラが睨んでいた。ラウラはふっ、と笑うと「あら、やだ。怖い……」と口にするが、怖がっている様子はまったくない。
「だいたい、いつまでセシリヤさんにくっついているんだ。さっさと離れろよな」
「いいじゃない。せっかくのこの子との時間、邪魔しないでほしいわね」
金色の髪を上げながら挑発的な視線を向けてくるラウラに、ミラも負けじと応戦する構えを取った。モンタナでの続きと言わんばかりに二人は言い争いを再開する。間に挟まれていたセシリヤは溜息を吐くとそっと二人から距離を取った。
状況について行けていなかった職員の一人がセシリヤを見てポツリ、と零す。
「そう言えば、先日ここに来た冒険者よね、あの子」
「ああ……。本部から来たミラ様と騒いでた……」
「あと大道芸してなかった?」
「どこかで見た容姿じゃない?」
ひそひそと声を落として職員たちが話す。ミラと話していた時には他の冒険者の対応をしており、そこまで容姿をじっくりと見ていなかった。それ以前にミラとの会話が気になりすぎてそれどころではなかったというのが本音なのだが……。もう一度セシリヤをジッと職員一同見つめた。
「白銀の髪に翡翠色の瞳にセシリヤと言う名前……翠眼の魔道士か!」
「って、あの⁉ いや、噂とずいぶん見た目違わない?」
驚いた一人が一度冷静になり目を凝らす。髪と瞳の色は噂と違わないが、何かが違うと首を傾ける。
「筋肉隆々?」
「高身長?」
「目つきは悪く、睨んだものを石に変える……?」
口々に自分たちが知る噂を言って全員で首を傾けた。どれも当てはまらない。
「いや、あいつが翠眼の魔道士で合ってるぞ」
いつの間に移動してきたのか、口を挟んだのはヴァシリーだった。驚いた職員の一人が椅子から勢いよく落ちた。
「にしても、あいつの噂ろくでもねーな」
本人の耳に入ったら相当怒りそうだな、とヴァシリーはくっくっと笑いを抑えながら言った。視線に気付いたセシリヤが近づいてくる。職員全員、口をキュッと閉じた。
「おい、セシリヤ。あいつらの喧嘩まだまだ続くだろ? その間にやろーぜ」
口の端を吊り上げたヴァシリーにセシリヤは心底嫌そうな顔をする。その向かいで職員たちは「何を⁉」と興味半分、恐怖半分と感情がごちゃ混ぜになっていた。
「なあ、そこのお嬢ちゃん」
「は、はい!」
突然話しかけられた受付の女性は上ずった声で返事する。
「ここには冒険者たちの実力を測るための闘技場があるだろ? そこに案内してくれ」
クエスト管理協会には本部だけに限らず支部にも冒険者たちの実力を測るための闘技場が作られている。その実力を以ってクエストの難易度も振り分けられるのだ。女性は立ち上がると緊張しているのかぎこちない動きで歩き出した。その後ろをヴァシリーとセシリヤはついていく。
「ねえ、いいの? あの二人置いたままで」
「ん? ああ、大丈夫、大丈夫。あいつらはお前がいなくなったと気付いたらすぐに追いかけてくるだろうから」
笑いながら言うヴァシリーにセシリヤは「そうだけど、なんか後々面倒くさいことになりそうなんだけど……」と不安を口にした。
「こちらです」
地下へと続く階段を降りた先で電気をつければ、四百平方メートルほどの闘技場がセシリヤたちの視界に映る。それだけでテンションが上がったのかヴァシリーは口笛を吹きながら肩を回した。
「えっと、あの……ヴァシリー様たちは今から何を……」
勇気を振り絞り女性が問うた。セシリヤたちの後を気になった職員たちが付いてきており、「よし! よく言った!」と女性に対して賞賛の声を送っている。
「ああ、今から俺とこいつが一戦交える。OK?」
ヴァシリーの返答に女性は目を丸くしながら、遅れて一度頷いた。
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