翠眼の魔道士

桜乃華

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第八十三話 魔封じのペンダント

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 他の職員たちが顔を見合わせる。

 「え? 今から総帥様と翠眼の魔道士が一戦するって?」
 「おい、マジかよ……」
 「滅多に見られないわよ、こんなの……」
 「ちょっと、上のやつらにも知らせて来いよ」
 「私行ってくる!」

 別の女性が階段を駆け上がっていくのを視界の端に捉えたセシリヤは深く、重い溜息を吐いた。ただでさえ、ヴァシリーとの戦闘は疲れるのにこれ以上ギャラリーが増えるのは正直言って嫌だ。またどんな噂を流されるか……考えただけでも気が重くなる。

 「ヴァシリー、やるならさっさとやるわよ!」

 これ以上ギャラリーが増える前に、と心の中で付け足す。

 「おっ! 可愛い妹弟子はやる気だな~俺は嬉しいよ」
 「違うけど……まあいいわ。それで、一戦ってどうするわけ?」

 セシリヤの問いにヴァシリーは腰に下がっている剣の柄に手を掛けながら口角を上げた。

 「もちろん、これだ」
 「ええー、剣で勝負するの?」

 不満そうなセシリヤを無視してヴァシリーが先ほど闘技場まで案内してくれた女性へ耳打ちする。女性は頷くと小走りで去って行った。

 「私、剣なんて持ってないわよ?」

 両手を広げて見せたセシリヤにヴァシリーは「大丈夫、大丈夫! 今用意してもらってるからな!」と笑い声を上げた。先ほどの耳打ちは剣を持ってくるように頼んでいたのか、とセシリヤは眉を寄せた。相手がヴァシリーであれば剣術以外はないと思っていたが、出来れば避けたかったのに……とセシリヤは溜息を吐く。

 「だいたい、お前は師匠から剣の稽古だってつけてもらってるはずだろ? なんで剣を持たないんだよ」
 「なんでって……重いじゃない。荷物にしかならないわよ! それに、剣は使いたくないというか……」

 セシリヤは口ごもった。そうしている間に女性が数名引き連れて戻ってくる。彼女たちは剣を数本ずつ抱えていた。

 「あの、これでよろしいでしょうか?」
 「ああ。ありがとよ、お嬢ちゃんたち。あとは危ないから離れてな」

 そう言いながらヴァシリーはセシリヤへ剣を選ぶように促した。セシリヤはしぶしぶいくつか剣を手に取り自分に一番馴染むものを選ぶ。最終的に選んだのはブロードソードだ。ソードベルトを腰に着けてブロードソードを装着するとヴァシリーは待ってました、と言わんばかりにセシリヤと向き合う。

 「一ついい?」
 「なんだ?」
 「魔法の使用はOK?」

 セシリヤの問いにヴァシリーはあっさり許可を出した。

 (え⁉ いいの? セシリヤに魔法の使用を許可しても勝てる自信があるってこと⁉)

 ティルラが目を丸くする。セシリヤは用心棒や土人形相手にも引けを取らない魔法を使う。対峙しているヴァシリーはどう見ても生身の人間で、魔力を感じない。彼は剣のみで魔法を使うセシリヤとやり合うつもりなのだ。

 「そ。なら遠慮なく!」

 言うが早いかセシリヤは詠唱を省略して空中に炎の矢を出現させるとヴァシリーへ向けて放った。

 (ええ⁉ ちょ、ええ⁉ この子、いきなり魔法ぶっ放したんですけど⁉)

 炎の矢がヴァシリーへ放たれた衝撃で周囲が炎上する。彼は矢を全て打ち払ったわけでもなく、直撃していた。だが、セシリヤは視線を外すことなく剣を抜いて構えていた。

 「いきなり魔法を撃ってくるなんてセシリヤちゃんは怖いね~」

 炎の中からヴァシリーが軽口をたたきながら出てきた。火傷を負ってもいなければ、服も損傷はない。まったくの無傷だ。

 「やっぱりね。持ってると思ったわよ。魔封じのペンダント」
 「いいだろ? 師匠からの贈り物だ」

 ニッ、と笑ったヴァシリーは首から下がる金色のペンダントを取りセシリヤへと見せた。
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