翠眼の魔道士

桜乃華

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第八十四話 ヴァシリー戦 1/4

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 魔封じのペンダントは身につけた者をあらゆる攻撃魔法から護るものだ。魔法で攻撃する者としては厄介な物である。ヴァシリーが総帥の座に就く際、ブレーズが「適当に作ってたら出来たからやる」と言って渡したものだ。初めてヴァシリーと戦った時にはそれの存在を知らず、魔法を使った後に油断して後れを取った。
 得意げな表情を見せるヴァシリーにセシリヤは「いや、別に」と真顔で返す。「なんだよー、つれないな」と口を尖らせる兄弟子をセシリヤは剣を握ったまま見据えた。

 (だから! その師匠って何なの⁉)

 適当に作って魔封じのアイテムなんて普通作れるか! とティルラは一人でツッコミを入れた。

 「んじゃ、今度は俺の番ってことでいいんだよな?」

 ヴァシリーは柄に手を掛けたまま地面を蹴った。一気にセシリヤと距離を詰める。素早い動きで剣を鞘から抜くとそのままセシリヤへ斬りかかった。ブロードソードとロングソードの剣身がぶつかり金属音が鳴る。

 「っ、……!」

 衝撃にセシリヤは歯を食いしばり両手で握る柄へと力を込めて剣の軌道をずらした。けれど、ヴァシリーはすぐに剣を持ち替えてセシリヤへ斬りかかろうとする。剣先がセシリヤの服を掠めるギリギリのところで風魔法を使って後方へ飛んだ。相手の打撃の重さに手が痺れている。こんな感覚は久しぶりだ。セシリヤは何度か手を開閉してギュッと握りしめた。

 「相ッ変わらず一撃が重いんだから!」

 相手を睨みながら悪態を吐くセシリヤにヴァシリーは「少しは感覚を思い出したか?」と剣身を肩に乗せながら笑う。

 「そう簡単に思い出せないんですけど!」

 相手に聞こえるように大声で返すと、「そうか、じゃあ思い出してもらうまでだ」と零して再び地面を蹴った。風の魔法を使ったわけでもなく、ただの脚力だけで距離を取ったセシリヤへ向かってくる。間合いに入ったヴァシリーは踏み込んで下方から剣を振り上げた。それを上体を逸らして躱したセシリヤへ間髪入れずに振り下ろす。とっさに地面へ手を付き、身を屈めたセシリヤが再び躱した。ヴァシリーが口笛を吹いている間にセシリヤが空いている足で相手へ蹴りを入れる。もちろん、それがダメージになるとは考えていない。ヴァシリーを蹴った反動を利用して少し距離を取った。息を吐きだして剣を握りしめたセシリヤが駆け出し一気にヴァシリーへ斬りかかる。相手も剣身でいなしながら軌道を変えて身を屈めた。セシリヤも同じように腰を落として次の攻撃へと備える。ヴァシリーが足元を狙い、剣を横に振るった。剣身で受け止めようとすれば、相手の力の方が遥かに上であるため押し負けるのが目に見えている。そのまま両脚切断、とはなりたくないセシリヤは地面に手を付いた。

 「岩よ、我が盾となれ」

 ヴァシリーの剣が届くよりも先に地面が隆起して彼の剣を阻む。
 けれど、勢いのある攻撃は簡単に岩を砕く。それだけの腕力が彼にはある。だからセシリヤはすぐに後方へ飛びながら宙に氷の矢と炎の矢を出現させてヴァシリーへ放った。
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