翠眼の魔道士

桜乃華

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第九十一話 因果

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 セシリヤの希望はティルラの治めていたティエールについての情報だ。ミラから聞いていた情報を話しつつ、その他の情報が欲しいと伝えるとヴァシリーは唸りながら眉根を寄せた。ソファーへと背を預けて組んだ足を揺らす。

 「ミラが話した通りだな。現状、クエスト管理協会本部ですらティエールの情報を掴めていない。あそこは魔族たちの巣窟だ。俺の部下も数名送り込んじゃいるが、ほとんど情報が来ない。ま、死んじゃいないだろうけどな」
 「そう……」
 「セシリヤ……」

 視線を落としたセシリヤを気遣うようにティルラが見上げた。ティルラは息を吸って吐きだすと声を張り上げた。

「ティルラを連れて旅をしながら元に戻す方法を探せばいいじゃない。その中でどうしてもティエール……だっけ? そこに行かないといけないなら行くだけよ」

 セシリヤが目を丸くしてティルラを見た。自分がティルラに向かって言った台詞だ。相手は腰に両手を当ててフンス、と鼻を鳴らしている。静かに聞いていたヴァシリーが興味深そうに双眸を細めて二人を見ていた。

 「そうだったわね。そんなこと言ってた気がするわ……」

 ほんの少し赤くなった頬を隠すようにそっぽを向くセシリヤにヴァシリーが声を殺して笑う。けれど、すぐ表情を消した。

 (セシリヤと女神ティルラねぇ……。師匠よ、なんの因果だよこれは……)

 ヴァシリーは息を吐きだすと乱暴に頭を掻いた。

 「あー。盛り上がってるところ悪いが……」

 セシリヤとティルラがヴァシリーへと視線を向けたのと同時に扉が勢いよく開いた。今度はそちらへ三人の視線が向く。開かれた扉の先ではミラとラウラが息を切らしていた。

 「なんだ、もう来たのか」
 「やっぱりあんたの仕業か! セシリヤさんを追いかけようとすれば職員たちに阻まれて大変だったんだからな!」
 「ほんと、せっかく身だしなみを整えてきたというのに乱れたじゃないですか。責任取ってくれます? ヴァシリー様」

 髪をいじるラウラに「俺⁉」と自分を指すヴァシリーにラウラは静かに頷いた。

 「まあ、いい。お前たちも座れ。話しの続きをする」

 そう言うとミラとラウラはセシリヤの両サイドに座った。

 「いや、だから! あんた達は距離が近すぎるのよ!」

 声を上げたセシリヤに構わず二人はさらにくっつく。ラウラが右腕に、ミラが反対の腕に自分の腕を絡ませてセシリヤの身動きが取れないようにする。二人は満足そうにニコニコと笑っていた。対して挟まれているセシリヤの頬は引きつっている。

 「……。話の続きだが」

 (構わず続けた!)

 ヴァシリーは何も見なかった、と言わんばかりに続きを話しはじめた。
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