騎士アレフと透明な剣

トウセ

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第四章

エルトナム城と呪いの大穴(6)

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講堂で食事を終えた後、アレフはリィンと別れて三階の学院長室に向かった。

学院長室の扉は堂々とした佇まいの木製の扉で、他の扉と違いドアノブがついていなかった。

アレフが扉の前であたふたしていると、螺旋階段から闘技場で見かけたリーフが登ってきた。

「おや、ここは学院長室ですが、どうしましたか?」

「すみません。リーフ先生。実はローレンス学院長に呼ばれたんですけど、扉の開け方が分からなくて」

アレフが頭を下げると、リーフは軽く手を振った。

「学院長室の扉はアーティファクトなんだ。君は一年生だろう? 知らなくても当然だ」

「一年生って、なんでわかったんですか?」

「闘技場に来て案内されていただろう」

リーフはアレフにほくそ笑むと、学院長室の扉を見た。

「開け方には少しコツがあってね。見ていてごらん」

リーフは扉の前に立つと、扉の前に手を当てた。

指先が触れている所から、少しばかりの光がこぼれた。

リーフは手を右にぐるっと回すと、扉からガチャリと音が鳴った。

音が鳴ると同時に触れていた箇所から扉が崩れ落ちるように崩壊していく。

ガタガタと音をたてていき、数秒後には扉は跡形も無く消えていた。

「扉に手を当てて、右に回すと扉が開きます。簡単ですが、少しだけ指先に力を入れるのがコツです」

リーフはアレフを見て唇を広げると、アレフも同じように返した。

「私もちょうど学院長に用事がありましたので、一緒に行きましょう。ついて来て下さい」

リーフは学院長室に入っていくと、後を追うようにアレフも付いて行った。

学院長室に入ると壁際にはびっしりと本が埋まっており、正面にはソファーとテーブル、それに加えて宝箱のようなものが幾つか放り出されていた。

アレフが宝箱を覗こうとするが、アレフの真上から声をかけられる。

「おお、リーフ先生にアレフか、よくぞ参った」

ローレンスは二階の吹き抜けから顔をひょっこり出すと、階段を降りてアレフたちの元に寄った。

リーフがローレンスに頭を下げると「そんなにかしこまらんでも良い」とローレンスはリーフに微笑みかけた。

「ローレンス学院長、お呼びでしょうか?」

「うむ。リーフ先生は騎士団総長ゆえ、呼ばせてもらった。さて、アレフよ」

ローレンスはアレフに向き直り、懐から白い花を出した。

リーフが目を丸くし、驚いたのをアレフは見逃さなかった。

「この花は間違いなくダァトから貰ったものなのだな」

「はい。そうです。ローレンス学院長」

アレフは正直に答えた。

リーフが「失礼」と言ってローレンスから白い花を取る。

リーフはそれを手にとってはまじまじとアレフを見た。

「ローレンス学院長。私を呼んだ理由というのは」

「そういうことじゃ」

ローレンスとリーフはお互いに何か理解したそぶりを見せては、少しばかり緊張しているアレフに説明し始める。

「この花はセシリアの花と言って、貴重な物なんだよ、アレフ君」

「そうなんですね」

少し慌てながらも話し始めるリーフに、アレフもただ相槌を打つしかなかった。

「そう。貴重なんだ。どこに生息しているか分からない花でね。マニアからの情報だと、蜜を吸えば、天国に行くような甘味と、不老不死になれる効果を持つ、三大珍味の一つなんだ。私もね、これを見るのは……」

「うんちくを話すのは後にしてくれ。リーフ先生」

ローレンスはあきれたようにリーフの話を遮った。

そのやり取りにアレフも緊張していた硬い表情を解いた。

「セシリアの花は確かにセフィラに存在するが、誰も見つけたことはない。栽培しようにも、根がないと育てられない」

ローレンスはリーフが持っているセシリアの花を見てそう言った。

すると、ローレンスは部屋にある戸棚から、何重にもかけられた鍵のかかった戸に手を当て、何か小さな声で唱えると戸にかかっていた鍵は床に落ちた。

落ちた鍵を気にもせず、ローレンスが戸から何かを取り出した。

ローレンスはそれを手に持ってはアレフの前に差し出した。

「セシリアの花だ」

ローレンスが持っているのは、アレフと同じ形と色をしたセシリアの花だった。

「そうこれもセシリアの花。私の他にも、リーフ先生も持っておるぞ」

アレフはリーフを振り返っては、リーフは得意げな顔を見せた。

アレフはローレンスの顔を見ては困った顔をした。

「えっと、どういうことですか?」

「このセシリアの花を持っている人たちは皆、、騎士団総長になれる者の証なのじゃ。かつての先人たちがそうだったようにの」

アレフは思わず目を真ん丸にして驚いた。

「ダァトが、こちらの方に決断した、って言ったのは」

アレフはどもりながらもローレンスに質問をした。

「ダァトがお前さんに騎士団総長の資格を見出した、ということじゃろうな。だが、それはお前さん次第じゃな。そもそもアレフはまだ騎士の見習いであるからのう」

ローレンスはアレフに微笑むと、リーフが持っているセシリアの花を手に入れては先ほどの戸棚の方へしまい込み、また何か呟くと、落ちていた鍵が勝手に戸棚まで吸い寄せられ、何重にも鍵をかけていた。

「この花は貴重ゆえ、アレフを襲うものが出てくるかもしれんから。預からせてもらうぞ」

「はい」

不老不死という言葉に少しばかり興味があったアレフだったが、鍵のかけられた戸棚を見て少しばかり後悔をした。

「さて、ここからが本題じゃ。ダァトがアレフにセシリアの花を運んできたのには訳がある。もちろん、ダァトがこちらの方を選んだ、という言葉もあるが、私はダァトとある約束をしておってな。次にセシリアの花を持ってきた人間には、とある意味が込められているのじゃ」

「とある意味ですか?」

リーフがローレンスの質問に食らいついた。アレフも思わず生つばを飲んだ。
「そうじゃ、とある意味じゃ」

ローレンスは戸棚から目を離し、アレフとリーフを見た。
「七年前の戦争はまだ終結していない、という意味じゃ」

アレフは学院長から一足先に退出した。

アレフはローレンスが放った「七年前の戦争が終結していない」という言葉を気にしていた。

七年前の戦争はアレフの両親が亡くなった日でもある。

思い出せない記憶を精一杯掘り返そうと躍起になるが、そんなことは叶わないまま、いたずらに時間だけが過ぎ去っていった。
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