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第五章
決闘騎士の資格(1)
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九月になると待ちに待った授業開始日になった。
アレフは空色の制服と赤色のマントを羽織り、赤の寮の一年生と共にキリンツ・ベレーが担当する基礎教養学の教室へと足を運んだ。
教室に行くまでの間、みんなは期待を胸に和気あいあいと談笑しながら、初めて受ける授業を楽しみにしていた。
「そ、それでは皆さん、改めまして。き、基礎教養学についてお教えします。き、キリンツ・ベレーと言います。ど、ど、どうぞ。よろしく」
どぎまぎした態度を取るベレーに教室中が騒めきだした。
「なにあれ?」「おっかしいの」と教室中が騒いでいるのにも関わらず、ベレーは「教科書の三ページから……」と声が消えていくと同時に、チョークを取っては黒板に文字を書き始めた。
ベレーが黒板にひたすらに文字を綴っては何かぶつくさ話さしている様子が、教室の後ろの席で座っていたアレフには見て取れた。
アレフは隣で眠りこけようとするリィンを叩き起こしては「なんか言ってない?」と尋ねた。
「何かって何ヨ。周りの声で聞こえないけド」
「口元動いていない? やっぱりなんか喋ってるよ」
アレフとリィンは目を細めて、ベレーの口元に注目した。
確かに何か話しているように見えるが、何を言っているかまではやはり聞き取れなかった。
「教科書の中身を復唱しているだけじゃないノ?」
「そうじゃない気がする」
「じゃあ、なんなのヨ」
アレフはリィンとの中身のない話をしていると、視界の端で何かが動いた気がした。
アレフは気になった方を見ると、教室の壁に設置されている本棚がかすかに動いているのが見えた。
「おい、あれ見ろって」
「もう~、なにヨ~」
また寝ようと机に頭を擦り付けていたリィンを叩き起こし、アレフは本棚の方を指をさした。
音もたてずガタガタと次第に大きくなっていく揺れに対して、リィンの意識は覚醒していった。
「あの本、生きてル……」
アレフとリィンは目配せした。
瞬間、ベレーが大きな声を上げた。
「と、突撃!」
ベレーの掛け声とともに、本が一斉に生徒に目がけて飛んで行った。
喋っていた生徒や授業に興味を無くした生徒の頭に次々と本が飛んで行った。
アレフとリィンの所にも本が突撃してきたが、間一髪のところで二人は机の下に隠れることに成功した。
頭上を飛ぶ本が、風を切り、縦横無尽に教室内を飛び回る光景に、叫ぶ生徒もちらほらいた。
「や、止め!」
ベレーの発言に、飛び回っていた本は一斉にピタッと止まると、のんびり本棚へと戻っていった。
アレフたちが机の下から本の帰省を覗いていると「わ、私の授業では、お、おしゃべりはダメです!」とベレーの怒鳴りつける声が聞こえた。
机から顔を出した二人は、怒っているベレーと気を失っている生徒を交互に見ては困惑した。
「えっと、俺らはどうすればいいですか?」
「あ、あ、え、ええと……」
ベレーは自身のしたことを一通り確認した後に「き、気絶している生徒は、ほ、保健室へ運んでください」と言っては、頭を抱えながら教壇の隣にある扉へと消えていった。
アレフたちの最初の授業は、気を失った生徒を保健室へ運びに行く、という授業となった。
アレフたちは校医たちと協力して、保健室へ一通り生徒を運んだあと、アレフとリィンは赤の寮へ戻っていた。
「一限目の授業のおかげで、二限目の薬学の授業は無くなってしまった」
アレフは談話室のソファーに寝そべりながら嘆いた。
アレフは薬学という、アインでは絶対にできないであろう授業を楽しみにしていた。
だが、基礎教養学の授業での惨劇で、大半の生徒が気絶してしまったことで、薬学担当のグレイアロウズは「授業にならん」と言って、ベレーと同様に教壇横の扉の奥へと消えていった。
「マ、無事だったのが俺らだけじゃ、そりゃあ、やってくれんわナ」
対面のソファーにあぐらを組んで座っているリィンが笑いながら話した。
「保健室には運んでいるんだし、お昼には目を覚まして三限には帰って来るでしョ」
「そうであって欲しいなぁ……」
アレフはうじうじしながら呟いた。
「アレフは勉強好きなのカ?」
「いや、違うよ」
「じゃあ、何でそんなに授業を受けたがるんダ?」
「アインじゃ学ばないことだからだよ」
「ん? アレフってアインの出身なのか?」
リィンの言葉に、アレフは顔を上げた。
「教えてなかったってっけ?」
「初耳」
リィンは首を横に振りながら答えた。
アレフが学院に来てからのことを思い出すが、確かにリィンにアイン出身であることを伝えたことはなかった。アレフは上体を起こし、リィンの方を見た。
「俺とエトナは数日前にセフィラのことを知って、アインからここに来たんだ」
「へぇ、アインってどんなところなんダ?」
妙に食いつきの良いリィンにアレフは素直に答えた。
「どうって言われても、まあ、普通だよ」
「普通ってどんなダ?」
「えっと…」
アレフはセフィラに来てからの出来事が新鮮すぎて、アインでの生活を少し忘れかけていた。
「小学校に行ったり、買い物したり、車で移動したり……」
「おお、車! セフィラに車ってないんだヨ! どんな乗り心地だった? 飛んだ?」
リィンが楽しそうに笑顔を作りながら、這い寄るように傍に寄ってきたために、アレフは思わず戸惑ってしまう。
「飛びはしない、道の上を移動するだけ」
アレフの質問に納得したようにリィンは頷いた。
「なるほど。聞いていた通りだ」
じゃあ、飛んだ? と言う質問はするなよ、と思うアレフだったが、リィンの反応にいささか疑問がわいた。
「そんなに不思議なことか? 車が動くことって」
アレフの言葉にリィンは目をキラキラさせて語りだした。
「あたりまえだヨ。だって鉄のカタマリが物凄い速度で動くんだろ? ケンタウロスの比じゃないんだろ? 凄いっテ!」
興奮冷めやらぬリィンの勢いに、アレフはにやけてしまった。
「変カ?」
「変じゃないけど、セフィラだって馬で何日も台車引っ張ったりするだろ? そっちの方が凄いと思うけど」
アレフは率直な感想を口にした。
移動手段で馬を使うのはアインでもあることにはあるが、何日間も働かせることはまず聞いたことがなかった。
アレフの言葉にリィンは腕を組みながら答えた。
「馬は生きてるからナ。生きてるものは休めばまた動く。でも車は生きていなイ。鉄の塊だからナ。だから、アインの人は機械を信頼しているのに驚きだナ」
アレフはリィンの楽しそうに話す姿に、どこか既視感を覚えていた。
自分がセフィラに来たときは、ああいう風に楽しんでいたっけ、と思い返すと、再びアレフはにやついてしまう。
「アレフ、さっきからにやついてばかりで気持ち悪いゾ」
「いや、ごめん」
アレフとリィンのたわいない話しが続いている所に寮の扉が開いた。
寮の扉を開けたのは、先ほどの授業で気を失ったエトナだった。
額をさすりながら戻ってきたエトナは、エトナの後ろには同じように気絶した生徒が数名おり、アレフとリィンに頭を下げながら、他の生徒が帰って来るまで、談話室で待機するのだった。
アレフとリィンが昼食を講談室で食べては、寮に返ってくる頃には全員が戻っていた。
談話室には帰ってきた一年生と、それを楽しそうに話している二年生だった。
「さっそく、ベレー先生に教科書をけしかけられたんだって? やっぱりみんな食らうよなー。あの人声小さい割にやることは大げさなんだから」
背の高い二年生が一年生に話しかけていた。
「そうそう。去年なんて、僕ら全滅したからね。その無事生還した男二人ってのはどいつだ、ベネット?」
もう一人の背の高い二年生が鼻の穴にティッシュを詰め込んだベネットに話しかけていた。
どちらも似たような顔をしていることに気づいたアレフは、彼らが双子であると思った。
ベネットは帰ってきたアレフたちを見つけると黙って指をさした。
背の高い二人がアレフを見たときには、双子は何やら悪だくみしてそうな笑顔をしては、アレフたちに近づいた。
「君がアレフ・クロウリーで」
「こっちがリィン・マオか」
「そうですけど……」
アレフは引き気味に返事をした。
「ノーノ―、そんな怖がらないでおくれ。俺はワッカ・フル―マニーで」
「俺がワット・フル―マニーっていうんだ。いい名前だろ?」
「そうですね」
双子のニタニタ笑顔は止まず、アレフたちの肩に手を置いた。
「ベネットを看病してくれてありがとうな。まあ、あいつの自業自得だけど」
「そうそう、あいつは運がないから、喋ってなくても本が突っ込んでくるのさ」
「やめてよ」
ベネットがふてくされながら話した。
双子はお互いに腕を組み、ぐるぐるとアレフたちの前で回ってはアレフは既にどちらがワッカで、どちらがワットなのか分からなくなっていた。
「さて、ベレー先生の初見殺しを見事避け切った者たちよ」
「俺たちからとあるお願いがあるのでーす」
双子はぐるぐる回るのを止め、アレフたちを見た。
「君たちは闘技場を見たことあるかい?」
「ありますよ。ガイアに見せてもらいました」
「ほうほう。なら話が早い」
双子は懐から柄を取り出すと、それを木剣に変えた。
「君たちには是非とも」
「決闘騎士の試験に参加してほしいんだよね」
「いいんですカ!」
リィンが大声で喜んでいた。
談話室にいる一年生からはざわめき声が発生した。
全くの状況が分からないアレフは、戸惑いながらも質問をする。
「決闘騎士の試験ってなんですか? そもそも決闘騎士をそんな知らないんだけど」
「おや、知らないのかい」
アレフから見て、多分ワットが口を開いた。
「決闘騎士の試験は、まあ、来てからのお楽しみさ。僕らが行う決闘騎士とは、他学院対抗でお互いに戦うんだ。普段は練習で黒の寮の生徒と戦うけど」
アレフから見て、多分ワッカが剣を振り回しながら言った。
「本来なら一年生をスカウトすることはないんだけど、君たちの勘の鋭さに、大将とリーフ先生が小耳に入れてね。是非って、なぁ、ワット」
ワッカが剣を振り回しているワットに問いかけた。
アレフの勘は悪いようで、ワッカとワットの見分けは出来なかった。
「たまたまですよ」
アレフが謙遜するが、リィンがアレフの腕をつかんで「俺たちやりまス!」と啖呵を切ってしまった。
「良い威勢だ!」
「その調子!」
アレフは重いため息を付いた。
「僕たちはまだ、決闘騎士学を学んでいないだろ? どうやってやるのさ」
アレフはリィンに問いかけるが口を開いたのはワットだった。
「決闘騎士学は今日の三限にあるんだってね。ルールとかは俺らが教えるから、とりあえずどういうものかは授業で聞いてよ」
ワッカがそう言うと、授業十分前の予鈴が鳴った。
ベネットや他の一年生が部屋に戻っていく姿を見ては、アレフは内心焦りだしてしまう。
「さ、行っておいで。今日の授業終わったら闘技場に集合!」
双子が言葉を揃えて言った。
アレフは空色の制服と赤色のマントを羽織り、赤の寮の一年生と共にキリンツ・ベレーが担当する基礎教養学の教室へと足を運んだ。
教室に行くまでの間、みんなは期待を胸に和気あいあいと談笑しながら、初めて受ける授業を楽しみにしていた。
「そ、それでは皆さん、改めまして。き、基礎教養学についてお教えします。き、キリンツ・ベレーと言います。ど、ど、どうぞ。よろしく」
どぎまぎした態度を取るベレーに教室中が騒めきだした。
「なにあれ?」「おっかしいの」と教室中が騒いでいるのにも関わらず、ベレーは「教科書の三ページから……」と声が消えていくと同時に、チョークを取っては黒板に文字を書き始めた。
ベレーが黒板にひたすらに文字を綴っては何かぶつくさ話さしている様子が、教室の後ろの席で座っていたアレフには見て取れた。
アレフは隣で眠りこけようとするリィンを叩き起こしては「なんか言ってない?」と尋ねた。
「何かって何ヨ。周りの声で聞こえないけド」
「口元動いていない? やっぱりなんか喋ってるよ」
アレフとリィンは目を細めて、ベレーの口元に注目した。
確かに何か話しているように見えるが、何を言っているかまではやはり聞き取れなかった。
「教科書の中身を復唱しているだけじゃないノ?」
「そうじゃない気がする」
「じゃあ、なんなのヨ」
アレフはリィンとの中身のない話をしていると、視界の端で何かが動いた気がした。
アレフは気になった方を見ると、教室の壁に設置されている本棚がかすかに動いているのが見えた。
「おい、あれ見ろって」
「もう~、なにヨ~」
また寝ようと机に頭を擦り付けていたリィンを叩き起こし、アレフは本棚の方を指をさした。
音もたてずガタガタと次第に大きくなっていく揺れに対して、リィンの意識は覚醒していった。
「あの本、生きてル……」
アレフとリィンは目配せした。
瞬間、ベレーが大きな声を上げた。
「と、突撃!」
ベレーの掛け声とともに、本が一斉に生徒に目がけて飛んで行った。
喋っていた生徒や授業に興味を無くした生徒の頭に次々と本が飛んで行った。
アレフとリィンの所にも本が突撃してきたが、間一髪のところで二人は机の下に隠れることに成功した。
頭上を飛ぶ本が、風を切り、縦横無尽に教室内を飛び回る光景に、叫ぶ生徒もちらほらいた。
「や、止め!」
ベレーの発言に、飛び回っていた本は一斉にピタッと止まると、のんびり本棚へと戻っていった。
アレフたちが机の下から本の帰省を覗いていると「わ、私の授業では、お、おしゃべりはダメです!」とベレーの怒鳴りつける声が聞こえた。
机から顔を出した二人は、怒っているベレーと気を失っている生徒を交互に見ては困惑した。
「えっと、俺らはどうすればいいですか?」
「あ、あ、え、ええと……」
ベレーは自身のしたことを一通り確認した後に「き、気絶している生徒は、ほ、保健室へ運んでください」と言っては、頭を抱えながら教壇の隣にある扉へと消えていった。
アレフたちの最初の授業は、気を失った生徒を保健室へ運びに行く、という授業となった。
アレフたちは校医たちと協力して、保健室へ一通り生徒を運んだあと、アレフとリィンは赤の寮へ戻っていた。
「一限目の授業のおかげで、二限目の薬学の授業は無くなってしまった」
アレフは談話室のソファーに寝そべりながら嘆いた。
アレフは薬学という、アインでは絶対にできないであろう授業を楽しみにしていた。
だが、基礎教養学の授業での惨劇で、大半の生徒が気絶してしまったことで、薬学担当のグレイアロウズは「授業にならん」と言って、ベレーと同様に教壇横の扉の奥へと消えていった。
「マ、無事だったのが俺らだけじゃ、そりゃあ、やってくれんわナ」
対面のソファーにあぐらを組んで座っているリィンが笑いながら話した。
「保健室には運んでいるんだし、お昼には目を覚まして三限には帰って来るでしョ」
「そうであって欲しいなぁ……」
アレフはうじうじしながら呟いた。
「アレフは勉強好きなのカ?」
「いや、違うよ」
「じゃあ、何でそんなに授業を受けたがるんダ?」
「アインじゃ学ばないことだからだよ」
「ん? アレフってアインの出身なのか?」
リィンの言葉に、アレフは顔を上げた。
「教えてなかったってっけ?」
「初耳」
リィンは首を横に振りながら答えた。
アレフが学院に来てからのことを思い出すが、確かにリィンにアイン出身であることを伝えたことはなかった。アレフは上体を起こし、リィンの方を見た。
「俺とエトナは数日前にセフィラのことを知って、アインからここに来たんだ」
「へぇ、アインってどんなところなんダ?」
妙に食いつきの良いリィンにアレフは素直に答えた。
「どうって言われても、まあ、普通だよ」
「普通ってどんなダ?」
「えっと…」
アレフはセフィラに来てからの出来事が新鮮すぎて、アインでの生活を少し忘れかけていた。
「小学校に行ったり、買い物したり、車で移動したり……」
「おお、車! セフィラに車ってないんだヨ! どんな乗り心地だった? 飛んだ?」
リィンが楽しそうに笑顔を作りながら、這い寄るように傍に寄ってきたために、アレフは思わず戸惑ってしまう。
「飛びはしない、道の上を移動するだけ」
アレフの質問に納得したようにリィンは頷いた。
「なるほど。聞いていた通りだ」
じゃあ、飛んだ? と言う質問はするなよ、と思うアレフだったが、リィンの反応にいささか疑問がわいた。
「そんなに不思議なことか? 車が動くことって」
アレフの言葉にリィンは目をキラキラさせて語りだした。
「あたりまえだヨ。だって鉄のカタマリが物凄い速度で動くんだろ? ケンタウロスの比じゃないんだろ? 凄いっテ!」
興奮冷めやらぬリィンの勢いに、アレフはにやけてしまった。
「変カ?」
「変じゃないけど、セフィラだって馬で何日も台車引っ張ったりするだろ? そっちの方が凄いと思うけど」
アレフは率直な感想を口にした。
移動手段で馬を使うのはアインでもあることにはあるが、何日間も働かせることはまず聞いたことがなかった。
アレフの言葉にリィンは腕を組みながら答えた。
「馬は生きてるからナ。生きてるものは休めばまた動く。でも車は生きていなイ。鉄の塊だからナ。だから、アインの人は機械を信頼しているのに驚きだナ」
アレフはリィンの楽しそうに話す姿に、どこか既視感を覚えていた。
自分がセフィラに来たときは、ああいう風に楽しんでいたっけ、と思い返すと、再びアレフはにやついてしまう。
「アレフ、さっきからにやついてばかりで気持ち悪いゾ」
「いや、ごめん」
アレフとリィンのたわいない話しが続いている所に寮の扉が開いた。
寮の扉を開けたのは、先ほどの授業で気を失ったエトナだった。
額をさすりながら戻ってきたエトナは、エトナの後ろには同じように気絶した生徒が数名おり、アレフとリィンに頭を下げながら、他の生徒が帰って来るまで、談話室で待機するのだった。
アレフとリィンが昼食を講談室で食べては、寮に返ってくる頃には全員が戻っていた。
談話室には帰ってきた一年生と、それを楽しそうに話している二年生だった。
「さっそく、ベレー先生に教科書をけしかけられたんだって? やっぱりみんな食らうよなー。あの人声小さい割にやることは大げさなんだから」
背の高い二年生が一年生に話しかけていた。
「そうそう。去年なんて、僕ら全滅したからね。その無事生還した男二人ってのはどいつだ、ベネット?」
もう一人の背の高い二年生が鼻の穴にティッシュを詰め込んだベネットに話しかけていた。
どちらも似たような顔をしていることに気づいたアレフは、彼らが双子であると思った。
ベネットは帰ってきたアレフたちを見つけると黙って指をさした。
背の高い二人がアレフを見たときには、双子は何やら悪だくみしてそうな笑顔をしては、アレフたちに近づいた。
「君がアレフ・クロウリーで」
「こっちがリィン・マオか」
「そうですけど……」
アレフは引き気味に返事をした。
「ノーノ―、そんな怖がらないでおくれ。俺はワッカ・フル―マニーで」
「俺がワット・フル―マニーっていうんだ。いい名前だろ?」
「そうですね」
双子のニタニタ笑顔は止まず、アレフたちの肩に手を置いた。
「ベネットを看病してくれてありがとうな。まあ、あいつの自業自得だけど」
「そうそう、あいつは運がないから、喋ってなくても本が突っ込んでくるのさ」
「やめてよ」
ベネットがふてくされながら話した。
双子はお互いに腕を組み、ぐるぐるとアレフたちの前で回ってはアレフは既にどちらがワッカで、どちらがワットなのか分からなくなっていた。
「さて、ベレー先生の初見殺しを見事避け切った者たちよ」
「俺たちからとあるお願いがあるのでーす」
双子はぐるぐる回るのを止め、アレフたちを見た。
「君たちは闘技場を見たことあるかい?」
「ありますよ。ガイアに見せてもらいました」
「ほうほう。なら話が早い」
双子は懐から柄を取り出すと、それを木剣に変えた。
「君たちには是非とも」
「決闘騎士の試験に参加してほしいんだよね」
「いいんですカ!」
リィンが大声で喜んでいた。
談話室にいる一年生からはざわめき声が発生した。
全くの状況が分からないアレフは、戸惑いながらも質問をする。
「決闘騎士の試験ってなんですか? そもそも決闘騎士をそんな知らないんだけど」
「おや、知らないのかい」
アレフから見て、多分ワットが口を開いた。
「決闘騎士の試験は、まあ、来てからのお楽しみさ。僕らが行う決闘騎士とは、他学院対抗でお互いに戦うんだ。普段は練習で黒の寮の生徒と戦うけど」
アレフから見て、多分ワッカが剣を振り回しながら言った。
「本来なら一年生をスカウトすることはないんだけど、君たちの勘の鋭さに、大将とリーフ先生が小耳に入れてね。是非って、なぁ、ワット」
ワッカが剣を振り回しているワットに問いかけた。
アレフの勘は悪いようで、ワッカとワットの見分けは出来なかった。
「たまたまですよ」
アレフが謙遜するが、リィンがアレフの腕をつかんで「俺たちやりまス!」と啖呵を切ってしまった。
「良い威勢だ!」
「その調子!」
アレフは重いため息を付いた。
「僕たちはまだ、決闘騎士学を学んでいないだろ? どうやってやるのさ」
アレフはリィンに問いかけるが口を開いたのはワットだった。
「決闘騎士学は今日の三限にあるんだってね。ルールとかは俺らが教えるから、とりあえずどういうものかは授業で聞いてよ」
ワッカがそう言うと、授業十分前の予鈴が鳴った。
ベネットや他の一年生が部屋に戻っていく姿を見ては、アレフは内心焦りだしてしまう。
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