騎士アレフと透明な剣

トウセ

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第八章

騎士アレフとウサギの友達 (3)

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ここで言う歓声と関心は、大層名誉なことであるだろうが、アレフにとっては、水の中で呼吸するような感覚だった。

アレフは呼吸が整えらないまま、ショーたちと共に、二列になり、闘技場の中心まで歩いて行った。

対面には自分たちよりもはるかに長身の二足歩行で、狼のような鋭い目、口からこぼれる牙、少し飛び出た口と、鋭い爪。

なにより、ライオンのようなたてがみは、獣の如き風格を感じ、同じ言語を喋るような見た目をしていないと、アレフは思った。

「ライオン?」

「ライオンってなんだよ。彼らは獣人、ガガゼゼだよ」

アレフが思わず漏らした言葉を、ワッカは拾い上げた。

よく見れば、獣人たちの毛色は、皆異なっており、白色や黄土色の毛並みを持つものもいれば、緑色の毛並みをした獣人もいた。

アレフたちと獣人たちが闘技場の中心に集まると、一列に整列した。

アレフは向かいにいる白い毛皮の獣人をまじまじと見た。

獣人たちはアレフたちと同じような服装をしていた。

鋼の胸当てと籠手、身長ほどの槍を持ち、左手にはグローブを付けていた。

アレフの正面にいる獣人がグルルと唸りながら、アレフを威嚇するように、口角を持ち上げ、鋭い牙を見せつけた。

その姿を見たアレフの手は汗でびしょ濡れだった。

「おいバカ、その顔は止めろって言ってるだろ。向かいの子が怖がってるだろ」

そう言って正面に立っている白色の毛をした獣人の腕を突いたのは、隣にいる黄土色の毛の獣人だった。

白色の毛の獣人は、ハッ、と我に返ると、しょんぼりとした顔つきで、「ごめん。緊張して」と謝罪をすると、目を閉じて深呼吸をし始めた。

アレフは目の前の二人の獣人を見て微笑み、あの白い毛の獣人となら仲良くできそうかも、と考えていると、アレフたちと獣人の間に、リーフが入ってきた。

普段から来ている白いシャツに黒色のネクタイを締め、紺のスーツを着た姿でリーフが、アレフたちと獣人たちを見渡せる位置まで移動すると、一つ咳払いをした。

「ごほん。皆さん、準備はよろしいですね。これから、第二試合、エルトナム学院赤の騎士たちと、グランロッソ学院の騎士たちの試合を始めます。それでは、お耳を拝借」

リーフが内ポケットから皇帝のアーティファクトを取りだし、口元に当てた。

アレフにとってはよく見る光景だったが、獣人たちはそういう訳ではなく、白色の毛の獣人に至っては「あれが……」と感嘆の声を上げていた。

「一つ、命に関わる怪我は、即退場とし、治癒した状態で控え室へ転送する。一つ、行動不能による怪我も、治癒した状態で控え室へ転送する。一つ、呪いによる行動不能も控え室へ転送とする。一つ、痛覚残留を無くす……」

呪いによる行動不能というのは、かつてリィンが受けた青皮膚の呪いへの対策だろうか……、とアレフは考えながら、リーフの言葉に耳を傾けていた。

宣言をし終えたのか、リーフが皇帝のアーティファクトを口元から離すと、「それでは各員、所定の位置へ」と言ってその場から立ち去っていった。

「さあ、みんな、思う存分戦うぞ」

ショーの掛け声と共に、アレフを中心とした陣形を取り、剣を構えた。

今までの木剣と違い、鈍色に輝く刀身を見つめては、アレフは自分の手が震えていることに気づいた。

震えている右手を左手で支えるようにして、剣を握り直した。

「それでは第二試合開始!」

闘技場全体に響き渡る試合開始の宣言。

観客席からは鼓膜が破れんばかりの歓声が聞こえた。

「さあ! エルトナム学院赤の寮の騎士対グランロッソ学院の騎士との試合が始まりました! おっと、さっそくグランロッソ学院の騎士ガルガニアがアーティファクトの先制攻撃を仕掛けた! もの凄い大きさの火の玉をエルトナム学院の騎士たち向かって放った! 騎士ぺレスはガガゼゼ族の中でも、秀でてアーティファクトの扱いが上手いそうです! おっと、エルトナム学院の騎士ショー・ミグルドが先頭に出たぞ! 大きな火の玉を目の前に、アーティファクトを使用している! これは……、風のアーティファクトだろうか。火の玉がエルトナム学院の騎士たちに向かって飛んで行っているが、徐々に高度を上げて……。ああ、空へと飛んでいきました! その隙にと、広がっていたグランロッソ学院の騎士たちは、エルトナム学院の騎士たちを捉えた! さぁ、ここから、グランロッソ学院が得意とする接近戦の始まりです!エルトナム学院の騎士たちはどのように対応していくのでしょうか!」

テスタロッサ闘技場のヒノキで造られた観客席に座っているエトナは、実況を聞きながら、覗き込むように闘技場の中心で戦っているアレフたちを見ていた。

歓声は試合開始時からすでにピークに達していた。

エトナは隣に座っているマースに声をかけようにも、普段の三倍ほど大きな声で話しかけないと、こちらの声に気づいてくれないことに、エトナは少し嫌気がさしていた。

「ねえ! マース!グランロッソ学院と使っている武器が違うけどいいの?」

「もちろん大丈夫ですぞ。なんでしたら、こちらも槍だったり、短剣だったり、使ってもいいですから」

マースは持参していた小型の望遠鏡を覗きながら、高い上体をエトナに寄せて、頷きながら答えてくれた。

「へぇ……」

エトナが感心していると、テスタロッサの中心で大きな爆発音が聞こえた。

歓声が一瞬どよめきに変わる。

「おっと! またもやグランロッソ学院からの強烈な一撃だ! アーティファクトを組み合わせて爆風を起こしたぞ!これによって、エルトナム学院の騎士たちの陣形が大きく崩れた! これは大丈夫か!?」

エトナは爆発音の後、すぐにアレフを探してはワッカと共にガガゼゼ族の攻撃を避けている姿を見て、少しばかり安堵した。

「おっ、盛り上がってるネ」

エトナの傍に寄ってきたのは、両手に飲み物が入っている紙コップを四つ抱えて、売店から戻ってきたリィンとマーガレットだった。

偶然、マーガレットに見つかったのだろう。

荷物持ちとなっているリィンは、出場用の礼服に着替えていた。

だが、人数分の飲み物を持っている姿はただのファンにしか見えなかった。

「マース先生。どうぞ、ジンジャエールの紅蜂の体液入りです」

「おお、すまなかったですな。買い物に行かせてしまって」

「いいえ、私たちからの申し出ですもの。それに奢ってもらって、ご馳走様です」

「なんのこれしき。まだ食べたいものなどあったら、いつでもいいって下され」

リィンから飲み物を取っては、少し幅のある観客席通路を通って、マーガレットはマースに飲み物を手渡した。

マースは受け取った飲み物のストローを少しかき回し、ストローに口を付け飲み始めた。

その光景を見たエトナは、隣に座ったリィンに声をかけた。

「紅蜂ってなに?」

「生でも食えル、めっちゃ甘い蜂」

エトナの質問にリィンは何食わぬ顔で答え、「はいどうゾ」とエトナにサイダーの入った飲み物を渡した。

さすがにこれには入ってないよね、と思いながら、エトナはストローを使って少しかき回し、サイダーを飲み始めた。

「さぁ、エルトナム学院の騎士たちはなんとかグランロッソ学院の騎士たちの苛烈な攻撃を耐えているが……、なかんか厳しい展開だ! エルトナム学院はなんとか状況を打破できる起点が欲しいところだ!」

実況の迫真に迫った実況に、エトナの隣に座っているリィンは鼻で笑った。

その姿をエトナは見逃さなかった。

「なんか面白いところがあったの?」

「イヤ、これから面白くなるところだヨ。ちゃんとアレフのことを見てナ。ほいこれ、望遠鏡」

何処からともなくリィンは望遠鏡を取りだしてはエトナに渡した。

エトナはリィンが言ったことを頭の中に留めながら、小型の望遠鏡を覗き込んだ。
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