風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

二十一話

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抽選会も終わり、生徒たちが返った校舎内で、正木は生徒会や風紀のメンバーとスポーツ大会の片付けをしていた。
その間も正木はずっとイライラしていた。思えばこのイライラは、校舎裏で柏木と姫川が密着していたのを見た時から始まった。短パンの下の太もも辺りを直に触られ、顔歪ませる姿を柏木が楽しそうに見ていた。ああいう顔を自分以外の誰かに見せることに正木は何故か異様に腹が立った。
姫川は恋愛事が苦手な様でそういう雰囲気になるといつもの冷静で威圧的な顔が一気に崩れる。顔を真っ赤にして焦る姿は側から見ても嗜虐心をそそる。
もし、自分ではない他の誰かがそれを見て変な気を起こしたらと考えると、正木はイライラを抑えることが出来なかった。正木は悶々と考える。
あいつ、今日はいつもより雰囲気が柔らかかったし、時々笑顔も振り撒いていた。それを周りの生徒が見逃す筈がない。この大会で姫川の事が気になり始めた人間も少なからずいるだろう。それを証拠に、閉会式後の抽選会で風紀のメンバーも入れてほしいと申し出る生徒まで出てきた。
そこまで考えて正木は一度思考を止める。何故自分はこんなにも姫川に腹が立っているのかわからなくなってきたからだ。そもそも、風紀を今日の大会に参加させようと思ったのは、姫川の印象を少しでも良いのもにする為だ。その点で言えば正木が思っている以上の成果を上げることができた。しかし、実際にそれを目の当たりにするとなんだか正木は気持ちがモヤモヤした。この気持ちの正体がわからず更にイライラする。
「くそっ!」
と一言呟くと、これ以上変な事を考えなくて済む様、片付けに没頭した。

生徒会と風紀委員、総勢10名でスポーツ大会の片付けをし、終わったのは1時間が経過した頃だった。スポーツ大会にも出場した風紀委員たちはヘトヘトの状態で風紀委員室へと辿り着いた。牧瀬や三田が学園備え付けのスーパーでジュースやお菓子を買ってきてくれ、それを広げて皆で打ち上げをする。
「今日はお疲れさま!かんぱーい!」
紙コップにジュースを注いだところで三田が乾杯の音頭をとり始める。それに合わせて5人は紙コップで乾杯した。
「しかし、まさか俺たちもボランティアの子達とデートすることになるとはなぁ。」
三田が満更でもなさそうに言う。
「確か来週の日曜だったかな。ごめんね。姫川。俺が勝手に答えちゃって。」
佐々木が軽い感じで姫川に謝る。しかしきっと本当に悪いとは思ってないのだろうと姫川はため息を吐きながら言葉を返す。
「いや、別にまぁボランティアの人達には世話になったし、問題ない。」
姫川のデートの相手は2年生であまり見たことのない大人しい感じの子だった。四番目に当選した彼が、まさか自分の名前を呼ぶとは姫川も思っていなかったが優しそうなその子の姿に少し安心していた。
「でも、なんで急に僕たちともデートしたいって思ったんだろうね。僕たち親衛隊もいないし。生徒会のメンバー程人気もないだろうしね。」
牧瀬が不思議そうに首を傾げる。確かにあまりに急な提案だったので牧瀬がそう思うのも無理はない。
「それは姫川のせい。姫川が目を覆いたくなる様な妖しい笑顔を見せてた。」
庄司が姫川を横目で見ながら答えた。
「妖しい笑顔とはなんだ。別にそんな顔した覚えはない。しかも俺のせいなわけないだろ。庄司だって、佐々木だって他の生徒から人気あっただろうが。」
姫川が必死に抗議の声を上げる。
「いや、俺たちも人気ないことはないと思うよ。」
姫川が言った中に自分が入っていなかった事を三田が悲しそうに突っ込む。牧瀬も複雑そうな顔をしていた。
「まぁ、いいじゃんいいじゃん。こうなったら来週の日曜楽しむだけだって。俺たちも人気が出て悪いことなんてないんだから。」
佐々木が勝手に締め括ろうとする。すると牧瀬がそのままサラッと話題を変えるように、
「でも、最近姫川くんって雰囲気が柔らかくなったよね。2年生の頃や3年になったばかりの頃なんて、話しかけるのでさえビクビクしてたもん。」
と姫川の話題を振ってきた。
「確かに!特にあの転校生が来た辺りから、メッチャ喋るようになったよね。」
三田も楽しそうにその話題にのっかる。2人からそう言われて姫川は暫し考える。
確かに自分はあまり人と深く関わらない様この2年間過ごしてきた。ただ成績の順位だけ落とさぬよう、後は何事もなく卒業できれば良いとしか考えてなかった。でも、柏木がこの学園にやってきて状況が一変した。予想出来ぬ出来事の連続に疲弊しっぱなしだった。しかし、その一方で風紀のメンバーとの絆は深まっていった気がする。
そこまで考えて初めて姫川は、風紀のメンバーに心を許している事を知った。この学園に自分の居場所はないと思っていたが、このメンバーと会えた事で最近はそう思う事もなくなっていた。そして何よりここで過ごす時間が楽しいと思えるようになっていた。
姫川は優しく微笑むと
「そうだな。確かに最近は一緒にいると楽しいし、俺はお前達の事がだいぶ好きなようだ。」
と言った。それを聞いた風紀のメンバーが驚いたように一瞬固まる。三田や牧瀬は少し頬を染めている。
「ほら、見てあの顔。こういう顔をスポーツ大会でもしてたんだよ。」
庄司が目を逸らしながら言う。
「まぁ、これは予想外というか確かに目に毒だな。しかし、姫川。よくそういう事を恥ずかしげもなく堂々と俺たちに言えるな。」
佐々木も呆れた様に、でも少し照れながら言い返してくる。
「別に告白でもあるまいし、恥ずかし事なんかない。」
姫川がなんでもない事のように言い返すと、佐々木も少し笑い姫川の肩に手を回す。
「いつも仏頂面が多いのに、ツンデレにも程があるだろ。まぁ、俺たちも好きよ。姫川の事は。」
佐々木が同意を求める様に周りに目を配る。すると、庄司や三田や牧瀬も首を縦に振った。
5人の絆を確かめた所でまた打ち上げを再開した。始まる時より雰囲気が良くなった5人は終始和やかな会話で打ち上げを楽しんだ。
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