風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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嵐のような怒涛の1学期

四十四話

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姫川が多目的教室から出ると、ちょうど佐々木が親衛隊達を解散させて戻ってくるところだった。
「3人での話し合いは大丈夫だったの?」
佐々木が姫川の身を案じて、声を掛ける。
「あぁ、特に問題はなかった。佐々木も悪かったな。俺が休んでる間にこんな事になってしまって。」
その言葉に佐々木が首を傾げた。
「そう言えば何で午後は授業を休んでたの?」
姫川は墓穴を掘ったと焦った。まさか午後の授業の間、正木の部屋に居たとは何となく言いにくかった。
「いや、少しお腹の調子が悪くてな。」
「へぇ、もう大丈夫なの?」
「あぁ、少し休んだら良くなった。」
姫川が誤魔化すように言うと、佐々木が目を細める。
「そっか。まぁそういうことにしとくよ。」
どうやら佐々木は姫川が本当の事を言っているとは思っていないようだったが、姫川の気持ちを汲んでそういうことにしてくれたようだ。
「じゃあもう今日は風紀委員会は休んだらいいんじゃない?俺が他の皆には伝えておくし。」
佐々木の思わぬ提案に姫川は目を丸くする。
「えっ?いやそれは流石に申し訳ないだろ。」
姫川が断ろうとすると、
「さっきの親衛隊の対応も大変だったろうし、どうせ夏休みまでは委員も暇だしさ。」
と更に言う。確かに姫川は流と出ていった正木の事も気にはなっていた。それに体調も悪そうだったので、一回連絡を取ってみるかと考えを改める。
「じゃあ、佐々木の言葉に今日は甘えさせて貰うかな。ありがとう。」
姫川がお礼を言うと佐々木はヒラヒラと手を振りながら去っていった。
そんな後ろ姿を姫川は見送る。人の気持ちを察して色々と気を配ってくれる佐々木に、姫川は思わず笑みが溢れた。

佐々木を見送った後、姫川は直ぐに正木に連絡を取った。すると部屋に戻っているという旨の簡素なメールが返ってきた。姫川は、もう一度正木の自室まで行く事にした。流の事も気になったし、柏木の事も一度正木に相談しときたかった。
寮に着くと、自分の部屋を素通りして正木の自室の前までいく。軽くドアをノックすると、暫くしてドアが開いた。
「おぉ、来たか。入れよ。」
正木はどこか落ち込んだような顔に見えた。只、体調が悪いだけなのか、流との話し合いが上手くいかなかったのか、姫川には判断がつかなかった。
そこから特に会話はなく黙ったまま正木は自室のベッドに潜り込む。
姫川からも特に話を切り出す事もなく、無言で静かな時間だけが過ぎていく。その時、
「俺は普通の家庭に育ったし、やっぱり姫川や流のような立派な家庭で育ってないからあいつの気持ちが分かってやれないのか?俺はあいつに全く信頼して貰えてなかったんだな。」
正木が布団を被ったまま、まるで独り言のように呟く。
「お前は何を言ってるんだ?」
余りにもらしくない正木の言葉に姫川が聞き返すと
「流と話すことなんて全然出来なかったんだ。俺の言葉に耳を傾けようともしない。最終的にはリコールしてくれって俺に頼んできた。俺たちとは一緒には居たくなんだとさ。」
と正木が自嘲気味に言った。
「居たくない?本当に流がそう言ったのか?」
「あぁ、貴方たちと一緒には居られないって言われた。」
それを聞いて姫川は眉根を寄せた。
「おい、しっかりしろよ。いつもは自信満々で、何を言われても動じない奴がどうしたんだよ。気落ちしている暇なんかないだろ。」
姫川は頭を掻きながら尚も正木に言う。
「あいつは居たくないじゃなくて、居られないって言ったんだろ?だったら本当はお前たちと一緒にまだ生徒会に残りたいと思ってるんじゃないのか?そもそも、リコールの話が出た時に正木を襲ったのだって、信頼していた正木が自分を裏切ったと思ったからこそだろ。お前が流を側に置きたいと思っているのならお前の本当の気持ちをきちんと流に伝えてやれよ。家柄とか、育ちとかそんなものは関係ないんだよ。お前がそれに縛られて変に落ち込んでるだけだろ。」
姫川の言葉を聞いて正木がそろそろと布団から顔を出した。
「体調も悪いし、気持ちも沈んでいる俺によくそこまでハッキリと物が言えるな。もう少し優しく慰めてやろうとか思わないのか?」
正木が恨めしそうな顔で姫川を睨む。
「優しさを俺に求めるな。何か間違ってること言ったか?」
「いや•••ちょっと俺も感傷的になっていたようだ。今ので頭だ冴えたよ。」
正木が少し笑って言った。大分いつもの調子に戻ってきたようだ。
「大丈夫だ。きっと生徒会のメンバーは、皆お前の事を信頼してるよ。そうじゃなきゃあんな個性的なメンバーが纏まらないだろ。」
姫川が言い終わった瞬間フワッと体を抱きしめられた。
「おい!急に何してー」
「ありがとう。」
急に抱きついてきた正木に姫川が抗議の声を挙げようとした瞬間、正木がお礼を言った。心からのその言葉に姫川は抵抗をやめる。少し熱い体温を感じながら、正木の気が済むまで姫川はそのままじっとしていた。
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