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高校最後の夏休み
二話
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その後直ぐに沙羅がやって来た。
姫川と沙羅はお茶を飲みながら、居間の畳に腰をおろして話をしていた。
祖母は話に参加したり、店に立ったりと忙しなく動いている。
「彼氏とは上手くいっているのか?」
姫川が尋ねると、沙羅が
「うん、別に。普通に仲がいいけど?」
とあっさりと答える。
「もう少し何かないのか。話が直ぐに終わるだろ。」
姫川が呆れたように言うと、
「そんな漫画みたいに、いろんな事は起きないしね。平凡なもんよ。でも一緒にいる時間は楽しいけどね。」
素直ではないが、優しい沙羅の笑顔に姫川は安心する。
「そうか、それならよかった。」
「それより歩はどうなのよ?」
突然、沙羅が姫川に話を振る。その時丁度祖母も店から戻ってきた。
突然の沙羅の切り返しに姫川は今日、壇上で正木にキスをされた事を思い出した。
途端に顔が真っ赤になっていく。それを見た沙羅と祖母は目を丸くした。
「ちょっとちょっと、その反応何?絶対に何かあったでしょ?」
「ない!何もない!只、急に聞かれて驚いただけだ。」
姫川が手を振りながら、必死に弁解する。その慌てた様子で、2人は絶対に何かあったと確信した。
「えっ?もしかしてあの生徒会長さんと何かあったとか?」
「っ!?」
沙羅の鋭い質問に姫川の息が一瞬止まる。
「わかりやすい・・・」
沙羅が呆れたように姫川に言った。
「言っとくけど、俺の意思ではないからな。あっちが勝手にしてきたんだ。」
何をされたのか、沙羅には凄く気になり問いただそうとしたが、隣で姫川の一言を聞いた祖母が申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね。歩に無理をさせているよね。私たちの為に苦労かけて申し訳ない。」
と謝った。途端に部屋の空気が重くなる。祖母は姫川を歳明治学園に入学させたことにずっと責任を感じていて、姫川が帰ってくると必ず一回は謝罪をする。その度に重苦しい空気が漂うのだった。
沙羅がこの空気をどうしたものかと考えていると、姫川が口を開いた。
「大丈夫だよ。3年になって、信頼できる友達が沢山出来たんだ。確かに色々大変な事もあるけど、俺は今、あいつらと一緒にいる事が凄く楽しいんだよ。」
高校生活で初めて聞くその言葉に祖母は涙を浮かべた。
「そうか・・・よかったねぇ。歩。」
嬉しそうに微笑む祖母に姫川も優しい笑みを返した。
少し和んだ2人の雰囲気に沙羅は安心する。
「信頼できる友だちって生徒会の人?」
以前話に上がっていた生徒会の人たちの事を沙羅が話題に出すと、姫川はゆっくり首を横に振った。
「生徒会の連中はまぁ、信頼できる奴はいる事にはいるが、そんないい関係ではない。俺が言ってるのは風紀委員の皆のことだよ。毎日、一緒にトラブルを乗り越えるうちに仲良くなったんだ。まさか俺もあの学校でそんな友達ができるとは思ってなかったよ。」
姫川の言葉に沙羅が笑顔を見せる。隣の祖母も口を開いた。
「そうかいそうかい。信頼できる友だちが出来てよかったよ。一緒に困難を乗り越えた仲間はきっと一生の友達になれるからねぇ。」
祖母はしみじみそう言うとまた店の方に戻って行った。
「でも、あいつらが信頼してるのは仮の俺なんだよな。いつも片意地はって、冷静で冷徹な俺。本当の俺を知ったら、幻滅するかも。」
そう寂しそうに言う姫川に喝を入れるように、沙羅が姫川の背中を強く叩いた。
「痛っ!」
驚いたように姫川が声を上げる。
「あんたが信頼した友達でしょ。それで幻滅するわけないじゃない!信じてあげなさいよ。」
沙羅の言葉にフッと笑うと姫川は、
「そうだな•••」
と一言だけ返した。
姫川と沙羅はお茶を飲みながら、居間の畳に腰をおろして話をしていた。
祖母は話に参加したり、店に立ったりと忙しなく動いている。
「彼氏とは上手くいっているのか?」
姫川が尋ねると、沙羅が
「うん、別に。普通に仲がいいけど?」
とあっさりと答える。
「もう少し何かないのか。話が直ぐに終わるだろ。」
姫川が呆れたように言うと、
「そんな漫画みたいに、いろんな事は起きないしね。平凡なもんよ。でも一緒にいる時間は楽しいけどね。」
素直ではないが、優しい沙羅の笑顔に姫川は安心する。
「そうか、それならよかった。」
「それより歩はどうなのよ?」
突然、沙羅が姫川に話を振る。その時丁度祖母も店から戻ってきた。
突然の沙羅の切り返しに姫川は今日、壇上で正木にキスをされた事を思い出した。
途端に顔が真っ赤になっていく。それを見た沙羅と祖母は目を丸くした。
「ちょっとちょっと、その反応何?絶対に何かあったでしょ?」
「ない!何もない!只、急に聞かれて驚いただけだ。」
姫川が手を振りながら、必死に弁解する。その慌てた様子で、2人は絶対に何かあったと確信した。
「えっ?もしかしてあの生徒会長さんと何かあったとか?」
「っ!?」
沙羅の鋭い質問に姫川の息が一瞬止まる。
「わかりやすい・・・」
沙羅が呆れたように姫川に言った。
「言っとくけど、俺の意思ではないからな。あっちが勝手にしてきたんだ。」
何をされたのか、沙羅には凄く気になり問いただそうとしたが、隣で姫川の一言を聞いた祖母が申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね。歩に無理をさせているよね。私たちの為に苦労かけて申し訳ない。」
と謝った。途端に部屋の空気が重くなる。祖母は姫川を歳明治学園に入学させたことにずっと責任を感じていて、姫川が帰ってくると必ず一回は謝罪をする。その度に重苦しい空気が漂うのだった。
沙羅がこの空気をどうしたものかと考えていると、姫川が口を開いた。
「大丈夫だよ。3年になって、信頼できる友達が沢山出来たんだ。確かに色々大変な事もあるけど、俺は今、あいつらと一緒にいる事が凄く楽しいんだよ。」
高校生活で初めて聞くその言葉に祖母は涙を浮かべた。
「そうか・・・よかったねぇ。歩。」
嬉しそうに微笑む祖母に姫川も優しい笑みを返した。
少し和んだ2人の雰囲気に沙羅は安心する。
「信頼できる友だちって生徒会の人?」
以前話に上がっていた生徒会の人たちの事を沙羅が話題に出すと、姫川はゆっくり首を横に振った。
「生徒会の連中はまぁ、信頼できる奴はいる事にはいるが、そんないい関係ではない。俺が言ってるのは風紀委員の皆のことだよ。毎日、一緒にトラブルを乗り越えるうちに仲良くなったんだ。まさか俺もあの学校でそんな友達ができるとは思ってなかったよ。」
姫川の言葉に沙羅が笑顔を見せる。隣の祖母も口を開いた。
「そうかいそうかい。信頼できる友だちが出来てよかったよ。一緒に困難を乗り越えた仲間はきっと一生の友達になれるからねぇ。」
祖母はしみじみそう言うとまた店の方に戻って行った。
「でも、あいつらが信頼してるのは仮の俺なんだよな。いつも片意地はって、冷静で冷徹な俺。本当の俺を知ったら、幻滅するかも。」
そう寂しそうに言う姫川に喝を入れるように、沙羅が姫川の背中を強く叩いた。
「痛っ!」
驚いたように姫川が声を上げる。
「あんたが信頼した友達でしょ。それで幻滅するわけないじゃない!信じてあげなさいよ。」
沙羅の言葉にフッと笑うと姫川は、
「そうだな•••」
と一言だけ返した。
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