風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

八話

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「どこまでついてくるつもりだ?」
あれから自分の後をずっとついてくる正木を無視し続けていた姫川だが、とうとう痺れを切らして声を掛けた。
「•••。」
姫川の問いかけに何も答えない正木は代わりに、手を開いて首を傾げて見せた。その姿に姫川は大きな溜息を吐く。
「俺は久々にあいつらに会って、ゆっくり話したかったんだ。お前とは、2学期になったらまた毎日顔を合わせるだろ。何で休みまでわざわざ俺と食事なんて•••。」
「俺の気持ちは知ってんだろ?だったら毎日でも顔を合わせたいって思うのも理解して貰いたいものだけどな。」
姫川の言葉に正木が少し口角を上げて答える。
「俺は、お前の気持ちを受け入れた訳じゃないぞ。」
「あぁ、だから受け入れてもらえるよう俺も精一杯の努力はしたいんだよ。」
「•••。」
ああ言えばこう言う正木に今度は姫川が黙る。
「別に飯じゃなくてもいい。お前と2人で話せるなら、そこら辺の椅子でもベンチでも何でもいいんだ。正直、お前に会えない夏休みがこんなにも退屈なものだとは思わなかった。やっぱり今の俺には姫川が必要不可欠らしい。」
あまりにも率直な正木の言葉に姫川の顔が段々と赤くなる。それを愛おしそうに見つめる正木の瞳に姫川の心臓が煩く音を立て始めた。
「もう、わかったから、これ以上やめてくれ。俺も小腹が空いたし、飯でも食おう。」
降参とばかりに姫川が正木をご飯に誘うと、正木が意地悪な笑顔で返す。
「何だ?これからがいいところだったのに。俺の気持ちはもう聞かなくてもいいのか?」
姫川はこれ以上、赤い顔を見られないよう、さっさと踵を返すと
「あぁ、もう十分だ。」
と短く言葉を返してそのまま歩き出した。
その後ろ姿を、嬉しそうな顔で正木が見つめる。あんなに退屈だった夏休みが、姫川に会っただけで途端に楽しいものに変わる。
馴々しく、友達と戯れあっていた事には腹がたったが、結果的にこうして姫川と2人で行動できる事を正木は嬉しく感じてもいた。
そして、何よりいつもの制服やスエット姿ではなく、プライベートの姫川を拝めたことが正木には堪らなかった。髪も下ろして、私服に身を包む姫川はいつもより幾らか雰囲気が優しい。そしてそんな姿を知っているのがあの学園で自分だけだと思うと、気分が高揚する。
夏でも長袖のシャツを着て、隙のなさそうな姫川が半袖のTシャツという格好なのも、なんだかいつもより無防備な気がして、正木の頬を緩めさせていた。
しかし、一方の姫川はそんな事を正木が考えているなど知るはずもなく、未だに、動揺する心を落ち着かせるのに必死で、振り返ることさえ出来なかった。
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