風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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高校最後の夏休み

三十話

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「えっ?」
思ってもみない人物だったのか、惚けたような声が電話口から返ってきた。
「おそらく、流の件もあいつが裏で色々動いていた可能性が高い。でも、証拠がないから、お前達には言えずにいた。まぁ、言っても信じられないだろうと思うし。」
「・・・」
呆然としているのか佐々木からの返事はなかなか返ってこなかった。暫くして、
「何で?そんな素振り全くなかったけど、姫川、柏木と何かあったのか?」
と佐々木が言った。姫川はこれ以上隠しておけないと覚悟を決める。そして、今まで自分が見てきた出来事を佐々木に話した。
話しているうちに夏休みで実家に帰っていたこともあり、忘れかけていた嫌な感覚が再び蘇ってくる。
姫川は無意識に校庭裏で柏木に舐められた首を拭った。思い出しただけで体が震える。しかし、そのことだけは佐々木に言うことはできなかった。
姫川の話を静かに聞いていた佐々木だったが話し終えると、
「何でそれを早く俺たちに言わないんだよ!」
と声を荒げた。
「お前1人で抱える問題じゃないだろ!どうしてそんな大事な事を今まで黙ってたんだよ!」
普段あまり声を荒げることのない佐々木に怒られ、姫川は眉を下げた。
「すまない・・・」
素直に姫川が謝ると電話口から佐々木の溜息が聞こえた。
「はぁ、そうやって何でもかんでも1人で抱え込まないでくれ。頼むから俺たちにきちんと助けを求めてくれよ。」
懇願に近い佐々木の言葉に姫川は胸が痛む。
「わかった。悪かった。まだ確証はないがもし柏木がこの件に関わっているなら、あいつは風紀の人間に危害を加えようとしたということだ。それだったら俺もあいつを許さない。遅くなったが佐々木も協力してくれるか?」
「当たり前だろ。」
姫川の言葉に当然のように佐々木が言葉を返す。その言葉に姫川も安心した。
「じゃあ取り敢えず佐々木は、夏休みの間もし柏木が早めに寮に帰ってくるようなら、動向を探ってもらえないか?俺も後1週間ほどしたら、そっちに戻る。その間だけでも頼めるか?」
「あぁ。俺がきちんと見張っとくから、お前は実家でゆっくりしてきなよ。」
佐々木のありがたい申し出に姫川は顔を綻ばせる。「ありがとう。言葉に甘えてあと1週間はゆっくりさせてもらうよ。」
「俺が動向を探って、柏木をクロだと判断したら、その時は他の風紀のメンバーにもこの事を話すがそれでいいな?」
佐々木は念を押すように姫川に言った。
「あぁ、それで問題ないよ。」
姫川がそう返した時、ホームにアナウンスと共に軽快なメロディーが流れる。姫川が乗る電車がやってきたようだった。
「悪い。電車が来た。」
姫川が言うと、話もほとんど終わっていたこともあり、佐々木が直ぐに電話を切ろうとした。そんな佐々木に
「佐々木、確かに動向を探ってほしいと言ったがくれぐれも柏木と1人で接触したり、無茶なことはするなよ。」
と姫川が釘を刺す。すると、
「姫川にだけは言われたくないわ。」
と笑って佐々木は電話を切った。
果たして柏木の事を佐々木に話したのが良かったことなのか姫川には分からなかった。でも、1人で抱えていたことを佐々木に共有したことで少し気持ちが軽くなったのも事実だった。
電車が走り出す。
姫川はシートに身を預け、数駅の間疲れた体を休ませた。
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