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第四話 白銀の殺戮王
しおりを挟むクオン、彼はいったい何者なんだろうか?
私は信じられなかった、私たち姉妹が苦戦し、あまつさえ殺されかけた奴等をいとも簡単に殺し尽くしたことが。
すると、彼の手から大剣が消えて、私たちの方に振り向いた。
私は咄嗟にエリーを庇った。
「っ!来ないでください!」
すると男は止まった。
「…………助けてやったのに、随分と酷い言い草じゃないか?」
「っ!その点は感謝しています、ですが!その戦闘能力は看過できません!その強さと言い、魔法陣から現れたことと言い、貴方はいったい何者なんですか!?」
「何者か、か。」
「…………そうです、あいつらはこの国の近衛隊くらいの強さでした、そいつらをまるで羽虫のように叩き潰した貴方はいったい何なんですか?」
「……………そうだな、俺は差し詰め異世界の魔王ってとこかな。」
「っ!異世界の魔王?」
「そうだ、俺はこことは異なる世界で何千万人者人々を殺した、俺は魔王、白銀の殺戮王と呼ばれていたよ。」
「………………」
「どうだい?これで満足したかな?」
「…………………」
(魔王、魔王って、世界で一番危険な存在じゃないの!魔王がなんで魔法陣から出てきたの?)
レナリアがエアリアに抱きついたまま睨みつけていると、突然エアリアが立ち上がって魔王に近づいていった。
「ちょっと!エリー!危ないわ!逃げなさい!」
エアリアはリナリアの言うことを聞かずに魔王に近づいていった。
やがて、エアリアは魔王の目の前に立った。
「…………………」
「………ほう、お前は俺が怖くないのか?」
するとエアリアは頭を振った。
「いいえ、とても怖いです。ところで魔王様。」
「ん?なんだ?」
「私、エアリア・グローリアは貴方様の物となります、だから、どうか、どうか、私の姉、リナリア・グローリアを見逃して貰えないでしょうか?」
「………………」
「ちょっと!エリー!?」
「私たちは貴方様に命を救われた身、身勝手なことを言って申し訳ありません、ですが、姉はグローリア王国に必要な御方、私はどうなっても構いません、煮るなり焼くなり、貴方様の好きに扱ってください、命令されれば性奴隷にだってなりましょう。」
「エリー!だめ!だめぇぇぇぇ!」
「だから、私の姉だけはどうか、どうか、お見逃しください。」
「…………………………」
「だめっ!だめよ!エリー!それだけは許さないわ!」
「………お姉ちゃん、今までありがとう。元気でね。」
「いや、いやぁぁぁぁ!エリー!エリーィィィィィ!」
「あ、お、お姉ちゃぁん、う、うわ、うわぁぁぁぁん!」
「……………………………」
(……………………………なんの茶番だこれは?)
クオンは奴隷など必要としていない、しかも奴隷が欲しかったなら先程わざわざ解放する必要無かっただろうに。
クオンの目の前にはボロボロの美少女二人が抱き合ってごめんねごめんねと言いながら泣いている。
(…………うん、完全に俺が悪役だな、つぅか俺の話を聞けよ。)
もうクオンは訂正するの面倒くさいからこのまま本気で奴隷にしようかと思った。
(でーもーなー、そこらの平民なら問題無いんだろうけど、王女様だからなぁ~。)
そう、彼女たちはグローリア王国の第二王女と第三王女だ。
(このままだと、レナリアの性格的に妹の代わりに私が奴隷になるって言うか、私も妹と同じ奴隷になるって言いそうだよなぁー。)
レナリア・グローリア、彼女は良くも悪くも真っ直ぐなのだ、短い間しか交流がないがそれがよくわかる。
(彼女は、おそらく人の裏が読めない、人の表面上だけで判断してしまう。)
それは、かなり危ういことだ、人の裏が読めないことはすなわち、人の悪意がわからないと言うことなのだ。
(だが、それをエアリアがカバーしているのだろうな。)
エアリア・グローリア、頭の良い彼女は姉をいつもフォローしていたのだろう、だが、一つ重大な欠点がある、彼女は優しすぎる。
探知魔法で見つけたが、凄い魔力が残っていた、彼女ならさっきの男たちを何人か殺せたのではないだろうか?
(だが、彼女は、敵の足を削ることしかしてなかった、きっと、他人を傷つけるのが嫌なのだろう、だが姉のために敵に攻撃魔法を使った。)
だけど、姉の為とはいえ、無意識にブレーキが掛かってしまっていたのだろう。
足を削るだけでは直ぐに回復されてしまう。
ただでさえ十三対ニだったのだ、人数を削らないとジリ貧になることが理解できなかったわけでは無かろうに。
(まあ、とりあえず、こっちをなんとかしようか。)
思考を中断すると、まだ泣いている二人の方に振り向いた。
「…………………おい。」
「ぐすん、何よ!」
「いい加減泣きやめよ。」
「うるさいわね!こっちの勝手でしょ!?」
「うるせぇ、さっさと泣きやめ。」
「うわ!何よ!その態度は!?私は王女よ!?」
「それを言うなら俺は魔王だな。」
「うっ、確かに。」
「すみません魔王様、私の姉が御身に迷惑をおかけして。」
「えっ?私が悪いの?」
(…………なんか、知能指数が低く感じるのは何故だろうか?)
「あっ!そう言えば魔王!」
「ん?なんだ?」
「私の妹を奴隷から解放しなさい!」
「………………嫌だと言ったら?」
(そもそも、奴隷になってなどいないのだが。)
「ううー!な、なら、私が奴隷になるわ!だから、エリーは見逃しなさい!」
「お、お姉ちゃん!?」
「エリー、私は貴方のお姉ちゃんよ?貴方を犠牲にして家になんて帰れないわ!」
「で、でも。」
「いいのよ、私が帰るよりも、頭の良い貴方が帰る方がきっといいわよ。」
(…………自覚してたんだ、頭悪いの。)
クオンは普通に驚いた、魔王を驚かせるとは中々やるな、ただの脳筋だと思っていたよ。
「そ、それなら、お姉ちゃんは第二王女だよ?きっと、第三王女の私なんかより、ずっと必要とされているよ!」
「違う、違うわ!世の中、可愛いが正義なのよ!貴方の方が私よりずーっと可愛いわ!エリーは私の自慢の妹よ、だから、貴方だけでも生き延びなさい。」
「お、お姉ちゃん!」
「……………………」
茶番、再開。
(……………うん、なんで俺が片方犠牲者にする前提なんだろうな?)
クオンは考えてもよくわからなかった。
いやいやいや、考えてみよう、クオンは威圧だけで敵を壊滅させて、剣を二本の指だけで止めて、大剣の一閃で敵が切れるのではなく破裂して、しかも自分は魔王だと暴露し、おまけに白銀の殺戮王と言う二つ名とともに何千万人もの人を殺したと言った。
………………普通に考えたら殺されると思うだろ。
というか、ここまでの要素が揃っていて殺されないと思わない方がおかしい、確かに二人を助けた、だが、二人は殺す為に助けられたのではと思っても仕方ないのである。
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