それゆけ、ポンコツ営業ズ

草葉野 社畜

文字の大きさ
11 / 16

第11話 社内コンペティション

しおりを挟む
「「「社内コンペティション?」」」
 安保・土師・馬路が、声をそろえて聞き返す。
 澤山の手にあるチラシには『社内コンペ!優秀企画には賞金あり!』と書かれてあった。

「新規事業の開発に向けて、社員から意見を集める企画だ。会社的には様々な視点からのアイデアを集められる、一方社員にとっても、良い企画を提案すれば賞金や、ゆくゆくは出世につながる。winwinってやつだな」
「ふーん、自分、お金にも出世にも興味がないんで、参加しなくていいっスか?」
「言うと思ったわ安保。営業係として最低1個は企画出せ、って言われてるから、お前も強制参加だぞ」
「げぇ~…」

 安保は眉間にしわを寄せてチラシを忌々しそうに睨みつける。土師はそんな安保を慰めつつも、少し弾んだ様子で話す。
「でも、良い企画は実際にうちの新規事業になるかもなんですよね! 自分のアイデアが現実になるって、楽しそうです……!」
「そうですね、私も色々と企画案を考えてみたくなりました」
 馬路も頷きながら、早速手元の手帳にアレコレとメモを書き始めた。

 澤山は部下の顔を一通り見渡して、改めて声を上げる。
「じゃあ、とりあえずアイデアのアイデアレベルでいいから、一人1つ企画案を考えてきてくれ。期限は1週間後だ、解散!!」


 ――そして1週間後。

「はい、じゃあ順番に聞いていこうか……安保、考えてきたか?」
「考えてきましたよー。せっかくなので資料作りました、配りますねー」
「わ、安保さん提案書まで仕上げたなんて! すごいです!」

 安保が全員に配っていく資料、体裁はきっちり整っているのだが、タイトルが――

「では、私、安保から提案させていただきますのは、こちら、『SUGUTORE猫カフェの開店』に向けての企画で――」
「だから猫から離れろ却下だ!!!!」
「いや、でも安保さんすごいです! ちゃんと猫カフェの開店までのビジネスフローが現実的な規模でまとめられてます…」
「惜しむらくは、うちが資格学校であることですね」
 安保の完璧な猫カフェ提案書は、営業係内だけで回し読みするということで落ち着いた。

「じゃあ次は僕ですね! 僕からはえーっと、最新のAIを使って生徒さんに最もマッチする資格を選ぶシステムの構築と、それを使った新規生徒獲得の企画です」
「……まともだ」
「普通っスね」
「いいと思いますよ」
「ちゃんと考えてきたのに反応が薄い……」
 土師はちょっと泣きそうになったが、なんだかんだで企画の実現可能な部分が評価され、この後の馬路の案と併せて検討することになった。

「最後は私ですね。提案書の形にまでまとめきれず、ベタ打ちのままとなってしまっていて恐縮ですが、資料を配らせていただきます」
「まてまてまて、その紙の束はなんだ、単行本くらい分厚さがあるぞ!?」
「やば、これ読み切るの3時間くらいかかりますよ」
「ひえええ、これ何文字くらいあるんでしょう……?」
「申し訳ない、色々考えていたら止まらなくなってしまいまして……」
 馬路の配った資料は厚さが3センチもあり、中には企画がぎっしりと詰まっていた。目次までついており、それによると企画数は20もあった。
 うっすらと目の下にクマができている馬路の熱意を思うと、適当に読み飛ばすこともできず、全員しっかりと読み込んでそれぞれの企画について検討を重ねていった。

 ただ、出てきた意見は(安保の提案を除いて)どれも素晴らしく、なかなか絞れずに時間が過ぎていった。

「うううん、どれもこれもやってみたい企画ばかり……」
「私は土師さんの企画も興味がひかれます」
「やっぱ猫カフェしましょーよ、現代社会人が最も求めてるものですって。フクロウでも可」

 うだうだと悩む3人を見て、澤山はため息をついて助け舟をだした。
「じゃあ、こういうのはどうだ?」

 澤山が3人に提案したのは、
 ・土師が提案した企画をもとに
 ・馬路が実際にビジネスに落とし込めるよう詳細を詰め
 ・安保が提案書の形にまとめる
 ・澤山は相談役として全体管理を行う
 という役割分担だった。

 土師と馬路は、「「それで行きます!」」と嬉々として作業に移り、安保も資料を作ることは好きなほうなので、渋々ながらも二人と一緒に作業を始めた。

 時に紙が舞い、時にプリンターインクが舞い、時には椅子が舞った。
 様々な苦難を乗り越え、営業係は一丸となって企画を作り上げた。


 そして社内コンペの結果発表の日。
「優秀賞は―――営業係の皆さんの企画です!」
「「「「ぃよっしゃあああーー!」」」」

 4人はガッツポーズを決め、手を取り合って喜んだ。

「優秀賞の皆様には、今後、受賞企画のプロジェクトの中心メンバーとなって取り組んでいただきます!」
「「「「あぁー……」」」」

 そして、今後の業務が増えることが確定し、上げた手と肩をがっくりと落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

処理中です...