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エピソード
「なー、リリカ。彼氏が十人以上いて、毎日取っ替え引っ替えってほんとか?」
「は?」
こっちが真面目に日直業務をしていると、同じ日直で同級生のクラウスが意味不明なことを言い出した。思わず手から滑り落とした鉛筆を持ち直してクラウスをキッと睨む。
「真面目が取り柄の優等生リリカちゃんを捕まえて、尻軽みたいなこと言わないでくれる? 舌引っこ抜くわよ?」
「優等生はそんな悪魔みたいなこと言わねえよ。言っとくけど、俺が言ったんじゃないからな」
「じゃあ誰が言ってるのよ」
「皆」
跨がった椅子の背に頬杖をつきながら、クラウスは簡潔に答える。待って、皆つった?
「何でいつの間にそんなことになってるのよ!?」
不名誉な噂が広がっていることを知った私は、机を拳で叩いて怒りを示す。
「いや、わかんねえよ。俺も今朝聞いたばかりだし」
「・・・・・・ちなみに、どんな感じの噂なの?」
「んー? 毎夜違う男の間を渡り歩いては夢魔の如き所業に及び、飽きたらぽい。ある時一人の男が「男を何だと思ってるんだ?」と質問したら、返ってきた答えが「使い捨てのナプキンに貴方はいちいち感慨を持つの?」で伝説になったとかなんとかかんとか」
想像の十倍酷かった。
指先がぷるぷると震える。
何かを察したらしいクラウスが両耳を塞いだので、遠慮なくやらせて貰おう。
「な・ん・だ・そ・れ・はぁあああああああ!?」
私はすっくと立ち上がる。
日誌なんて書いてる場合じゃない。
私の名誉が著しく貶められている。
どこのどいつだ、事実無根の噂を流布してる阿呆は!?
「クラウス、日誌よろしく」
「え、は? ちょ、どこ行くの!?」
「犯人ボコってくる!」
書きかけの日誌をクラウスに押しつけて教室を飛び出した。
耳を澄ましながら廊下を駆け抜ける。
注意して聞いていれば、確かに私を見て何やら噂する声が聞こえた。
だが、噂に踊らされる有象無象のことなんざどうでもいい。気になるならクラウスみたいに直接訊きにきなさいよ!
とは言え、闇雲に走っていても犯人なんて噂の発信者なんて見つかる訳ないか。生徒多いし。
一度足を止めようとした時。
よく知った声が、さっき知った話を語っているのが聞こえた。
「本当に本当だって。リリカって男遊びが激しくてー、誘われれば誰にでもほいほい着いてっちゃうんだって。ほんと尻軽──」
「リュ~フ~? 何楽しそうな話してるのかしら~?」
「リ・・・・・・リリカ・・・・・・!」
蒼白な顔面にだらだら汗をかいて振り返ったのは婚約者のリューフだった。
こともあろうに婚約者の悪い噂を流していたのだ! 何を考えているんだこいつは!?
「どういうことか説明して貰いましょうか?」
リューフを床に正座させて問い詰めると逃げられないと観念して、ぽつぽつと事の経緯を話し始めた。
どうやらリューフの方こそが浮気をしており、浮気相手に入れあげて本気になってしまったらしい。そうなると私との婚約が邪魔になって、何とか白紙にしたいと頭を捻らせた結果、私の悪評を流してそれを理由に婚約破棄しようと目論んだらしい。
何だこの自分勝手な阿呆の権化は・・・・・・。
発覚した婚約者の裏切りに頭に血が登るのをひしひしと感じる。
「お、俺は悪くないぞ! リリカが俺の理想の女性とは程遠いのが悪いんだろう! 女ってのは男に従う生き物だっていうのに、我儘ばっかで──だから──」
「世の全ての女性に謝れ! この下郎────────!!!」
「ぐええええええ!?」
身勝手な言い分に堪忍袋も耐えかねて、ふざけた考えの詰め込まれた頭にヘッドロックを噛ましてやった。
「ああそう! そんなにお望みなら婚約破棄してやるわよ! けど、慰謝料と噂の否定はしっかりしてもらうから覚悟しなさいよ! せいぜい震えてろバカモンがぁあああああ!」
「いたいいたいいたいいたあああああああい!」
痛くしてるんだから当たり前である。
「おーい、日誌書き終わったぞー。って、何? 武道大会?」
「ただの制裁」
日誌を振りながらやって来たクラウスに答える。
リューフを床に打ち捨て、姿勢を正してクラウスから日誌を受け取る。
すると、リューフが私たちを指差して言った。
「な、何だその男! お前も浮気してるんじゃないか!」
「半径数歩以内の異性が全て恋人ならこの世は浮気の楽園じゃない」
「俺らがお似合いってことー?」
「クラウス、話をややこしくしないで」
全く、話に悪ノリしたがるところがクラウスの悪いところだ。
そして思い込みの激しいところがリューフの悪いところである。
「おい、リリカ! このことをバラされたくなければ慰謝料の件はなかったことにしろ!」
「別にどうぞ。どうせ男遊びの激しい女と思われてるんだから、一人くらい増えたって痛くも痒くもないわよ。やりたきゃやれば? それ含めて後で訂正させるけど?」
「ひっ」
低い声でリューフを見下ろすと、震え上がって縮こまってしまった。全くビビりの癖になんであんなに思い切りがいいのか。
「とにかくこの件は後日親同士も含めて話し合いましょう」
まぁ、話し合いという名の有罪判決になるだろうけれど。
「り、リリカ、ま──」
「行こ。クラウス」
「はーい。いやー、ソッコーしばきに行くとか、やっぱリリカって面白いわー」
リューフが引き留めようとしてきたが、それを遮り私は踵を返した。
「やー、俺とリリカがお似合いかー」
「誰もそうとは言ってないでしょ」
何が嬉しいのか、クラウスは頭の後ろで手を君でにっこにこだ。
「けど、リリカ婚約破棄するんだろ?」
「まぁ、そういう運びになると思うけど」
浮気だけでも論外なのに、私利私欲で人の悪評流すような奴と夫婦になりたくないし。
「うん。なら考えておいてよ」
「はい?」
何を?
きょとんとしていると、私の前に立ったクラウスが恭しく私の手を取って、真っ直ぐな視線で言った。
「俺、リリカのこと好きだよ」
・・・・・・は?
すき? スキ? 鋤?
理解が追いつかないでいると、私が茫然としているうちにクラウスは照れたように笑って、そっと手を話した。
「婚約破棄するなら先手必勝かなって。あ、返事はいつでもいいから、考えといて! じゃ、また明日なー」
手を振って去っていくクラウス。
その背を見送って、ようやくその言葉の意味を理解した私。
さっきとは別の意味で頭に血が登る。いや、この場合は顔か。
信じられない展開に、私はただただ言葉にならない声を上げることしか出来なかった。
「はぁあああああああああ!?!?」
「は?」
こっちが真面目に日直業務をしていると、同じ日直で同級生のクラウスが意味不明なことを言い出した。思わず手から滑り落とした鉛筆を持ち直してクラウスをキッと睨む。
「真面目が取り柄の優等生リリカちゃんを捕まえて、尻軽みたいなこと言わないでくれる? 舌引っこ抜くわよ?」
「優等生はそんな悪魔みたいなこと言わねえよ。言っとくけど、俺が言ったんじゃないからな」
「じゃあ誰が言ってるのよ」
「皆」
跨がった椅子の背に頬杖をつきながら、クラウスは簡潔に答える。待って、皆つった?
「何でいつの間にそんなことになってるのよ!?」
不名誉な噂が広がっていることを知った私は、机を拳で叩いて怒りを示す。
「いや、わかんねえよ。俺も今朝聞いたばかりだし」
「・・・・・・ちなみに、どんな感じの噂なの?」
「んー? 毎夜違う男の間を渡り歩いては夢魔の如き所業に及び、飽きたらぽい。ある時一人の男が「男を何だと思ってるんだ?」と質問したら、返ってきた答えが「使い捨てのナプキンに貴方はいちいち感慨を持つの?」で伝説になったとかなんとかかんとか」
想像の十倍酷かった。
指先がぷるぷると震える。
何かを察したらしいクラウスが両耳を塞いだので、遠慮なくやらせて貰おう。
「な・ん・だ・そ・れ・はぁあああああああ!?」
私はすっくと立ち上がる。
日誌なんて書いてる場合じゃない。
私の名誉が著しく貶められている。
どこのどいつだ、事実無根の噂を流布してる阿呆は!?
「クラウス、日誌よろしく」
「え、は? ちょ、どこ行くの!?」
「犯人ボコってくる!」
書きかけの日誌をクラウスに押しつけて教室を飛び出した。
耳を澄ましながら廊下を駆け抜ける。
注意して聞いていれば、確かに私を見て何やら噂する声が聞こえた。
だが、噂に踊らされる有象無象のことなんざどうでもいい。気になるならクラウスみたいに直接訊きにきなさいよ!
とは言え、闇雲に走っていても犯人なんて噂の発信者なんて見つかる訳ないか。生徒多いし。
一度足を止めようとした時。
よく知った声が、さっき知った話を語っているのが聞こえた。
「本当に本当だって。リリカって男遊びが激しくてー、誘われれば誰にでもほいほい着いてっちゃうんだって。ほんと尻軽──」
「リュ~フ~? 何楽しそうな話してるのかしら~?」
「リ・・・・・・リリカ・・・・・・!」
蒼白な顔面にだらだら汗をかいて振り返ったのは婚約者のリューフだった。
こともあろうに婚約者の悪い噂を流していたのだ! 何を考えているんだこいつは!?
「どういうことか説明して貰いましょうか?」
リューフを床に正座させて問い詰めると逃げられないと観念して、ぽつぽつと事の経緯を話し始めた。
どうやらリューフの方こそが浮気をしており、浮気相手に入れあげて本気になってしまったらしい。そうなると私との婚約が邪魔になって、何とか白紙にしたいと頭を捻らせた結果、私の悪評を流してそれを理由に婚約破棄しようと目論んだらしい。
何だこの自分勝手な阿呆の権化は・・・・・・。
発覚した婚約者の裏切りに頭に血が登るのをひしひしと感じる。
「お、俺は悪くないぞ! リリカが俺の理想の女性とは程遠いのが悪いんだろう! 女ってのは男に従う生き物だっていうのに、我儘ばっかで──だから──」
「世の全ての女性に謝れ! この下郎────────!!!」
「ぐええええええ!?」
身勝手な言い分に堪忍袋も耐えかねて、ふざけた考えの詰め込まれた頭にヘッドロックを噛ましてやった。
「ああそう! そんなにお望みなら婚約破棄してやるわよ! けど、慰謝料と噂の否定はしっかりしてもらうから覚悟しなさいよ! せいぜい震えてろバカモンがぁあああああ!」
「いたいいたいいたいいたあああああああい!」
痛くしてるんだから当たり前である。
「おーい、日誌書き終わったぞー。って、何? 武道大会?」
「ただの制裁」
日誌を振りながらやって来たクラウスに答える。
リューフを床に打ち捨て、姿勢を正してクラウスから日誌を受け取る。
すると、リューフが私たちを指差して言った。
「な、何だその男! お前も浮気してるんじゃないか!」
「半径数歩以内の異性が全て恋人ならこの世は浮気の楽園じゃない」
「俺らがお似合いってことー?」
「クラウス、話をややこしくしないで」
全く、話に悪ノリしたがるところがクラウスの悪いところだ。
そして思い込みの激しいところがリューフの悪いところである。
「おい、リリカ! このことをバラされたくなければ慰謝料の件はなかったことにしろ!」
「別にどうぞ。どうせ男遊びの激しい女と思われてるんだから、一人くらい増えたって痛くも痒くもないわよ。やりたきゃやれば? それ含めて後で訂正させるけど?」
「ひっ」
低い声でリューフを見下ろすと、震え上がって縮こまってしまった。全くビビりの癖になんであんなに思い切りがいいのか。
「とにかくこの件は後日親同士も含めて話し合いましょう」
まぁ、話し合いという名の有罪判決になるだろうけれど。
「り、リリカ、ま──」
「行こ。クラウス」
「はーい。いやー、ソッコーしばきに行くとか、やっぱリリカって面白いわー」
リューフが引き留めようとしてきたが、それを遮り私は踵を返した。
「やー、俺とリリカがお似合いかー」
「誰もそうとは言ってないでしょ」
何が嬉しいのか、クラウスは頭の後ろで手を君でにっこにこだ。
「けど、リリカ婚約破棄するんだろ?」
「まぁ、そういう運びになると思うけど」
浮気だけでも論外なのに、私利私欲で人の悪評流すような奴と夫婦になりたくないし。
「うん。なら考えておいてよ」
「はい?」
何を?
きょとんとしていると、私の前に立ったクラウスが恭しく私の手を取って、真っ直ぐな視線で言った。
「俺、リリカのこと好きだよ」
・・・・・・は?
すき? スキ? 鋤?
理解が追いつかないでいると、私が茫然としているうちにクラウスは照れたように笑って、そっと手を話した。
「婚約破棄するなら先手必勝かなって。あ、返事はいつでもいいから、考えといて! じゃ、また明日なー」
手を振って去っていくクラウス。
その背を見送って、ようやくその言葉の意味を理解した私。
さっきとは別の意味で頭に血が登る。いや、この場合は顔か。
信じられない展開に、私はただただ言葉にならない声を上げることしか出来なかった。
「はぁあああああああああ!?!?」
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