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第一話 恋ではない、気になる人
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──私には気になっている人がいます。
(あ……また)
本棚から抜き出した本の裏表紙を開いて、封筒を切って作られたポケットに差された貸出カードを見て、思わず心の中で呟いた。
貸出人の名前を書く欄の一番上、何度も見た筆跡で書かれた名前があった。
(この本も借りられていたんですね。やっぱり、本当に私と趣味が似ています)
私がいいな、と思って借りようとした本は高確率でこの人も借りている。
お話ししたこともないけれど、こう何度も名前を見かけると勝手に親近感を感じてしまう。
(常々思いますが、あの方がこういった本を読まれるのは意外ですね……)
お話ししたことはないけれど、この名前の主が誰なのかは知っている。むしろ、この学園で彼の名前を知らない人はいないだろう。
(同じ趣味の人って身近にいませんから、感想とか聞きたいのですけれど、無理ですよね。相手は雲の上の人ですし……それに──)
興味は引かれるけれど、そんなものは叶わぬ夢だと本を抱き締める。
手に取った本は恋愛を題材にしたロマンス小説。いわゆる平民の間で流行っている大衆小説の類だ。
貴族社会では庶民の読み物など俗だという考えが蔓延していて、一応こうして学園の図書館にも置かれているにも関わらず、読んでいる人はいない。
実際、この本も読者はあの方しかいなかった。そして、私が読者の第二号になる。
そういうわけだから、恋愛小説について話せる相手が私にはいない。出来れば楽しく感想を言い合ったり、続き物の小説の先の展開を予想しあったりしたいという気持ちがないわけではないけれど、元より内向的な性格のせいで布教活動も出来ないでいる。
だから、この方のことが気になってしまうのだろう。
好きな小説に描かれているような恋ではない。純粋に同じ趣味を分かち合えるであろう相手として。
(なんて。同好の士がいれば楽しいのでしょうけれど、一人でも物語は楽しめます。せっかくですし、他の本も借りていきましょう。──あ、あの本。気になっていた新刊です。あれも借り──)
読みたかった本へと手を伸ばすと、隣から一回り大きな手が伸びてきて指先がぶつかった。
「──っ! ご、ごめんなさい! ──あ」
驚いて咄嗟に謝罪をしてから相手を見ると、そこにいた人物に目を瞠ってしまった。
「いや、こちらこそ失礼した」
涼しげな伏し目がちの瞳と目が合う。
生徒集会でいつも遠目には見ているけれど、こんなに至近距離からお顔を見たのは初めてだ。
緊張のあまり、言葉が喉に絡まって上手に返答出来ない。
それもその筈。この方は全校生徒を代表する生徒会長のセト様なのだから。
──そして、私が密かに気になっているロマンス小説の読者の方だ。
(あ……また)
本棚から抜き出した本の裏表紙を開いて、封筒を切って作られたポケットに差された貸出カードを見て、思わず心の中で呟いた。
貸出人の名前を書く欄の一番上、何度も見た筆跡で書かれた名前があった。
(この本も借りられていたんですね。やっぱり、本当に私と趣味が似ています)
私がいいな、と思って借りようとした本は高確率でこの人も借りている。
お話ししたこともないけれど、こう何度も名前を見かけると勝手に親近感を感じてしまう。
(常々思いますが、あの方がこういった本を読まれるのは意外ですね……)
お話ししたことはないけれど、この名前の主が誰なのかは知っている。むしろ、この学園で彼の名前を知らない人はいないだろう。
(同じ趣味の人って身近にいませんから、感想とか聞きたいのですけれど、無理ですよね。相手は雲の上の人ですし……それに──)
興味は引かれるけれど、そんなものは叶わぬ夢だと本を抱き締める。
手に取った本は恋愛を題材にしたロマンス小説。いわゆる平民の間で流行っている大衆小説の類だ。
貴族社会では庶民の読み物など俗だという考えが蔓延していて、一応こうして学園の図書館にも置かれているにも関わらず、読んでいる人はいない。
実際、この本も読者はあの方しかいなかった。そして、私が読者の第二号になる。
そういうわけだから、恋愛小説について話せる相手が私にはいない。出来れば楽しく感想を言い合ったり、続き物の小説の先の展開を予想しあったりしたいという気持ちがないわけではないけれど、元より内向的な性格のせいで布教活動も出来ないでいる。
だから、この方のことが気になってしまうのだろう。
好きな小説に描かれているような恋ではない。純粋に同じ趣味を分かち合えるであろう相手として。
(なんて。同好の士がいれば楽しいのでしょうけれど、一人でも物語は楽しめます。せっかくですし、他の本も借りていきましょう。──あ、あの本。気になっていた新刊です。あれも借り──)
読みたかった本へと手を伸ばすと、隣から一回り大きな手が伸びてきて指先がぶつかった。
「──っ! ご、ごめんなさい! ──あ」
驚いて咄嗟に謝罪をしてから相手を見ると、そこにいた人物に目を瞠ってしまった。
「いや、こちらこそ失礼した」
涼しげな伏し目がちの瞳と目が合う。
生徒集会でいつも遠目には見ているけれど、こんなに至近距離からお顔を見たのは初めてだ。
緊張のあまり、言葉が喉に絡まって上手に返答出来ない。
それもその筈。この方は全校生徒を代表する生徒会長のセト様なのだから。
──そして、私が密かに気になっているロマンス小説の読者の方だ。
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