私を「ウザイ」と言った婚約者。ならば、婚約破棄しましょう。

夢草 蝶

文字の大きさ
2 / 11

友人たち

しおりを挟む
「エレイン、遅かったね! 遅刻ギリギリなんてどうしたの?」

 移動先の教室へ向かうと、栗色のふわふわした髪の女の子が心配そうに駆け寄ってきました。友達のユイナです。

「ちょっと所用が出来て・・・・・・」

「またヴェクオール君?」

 鋭い。
 ユイナな半眼でこちらを見透かしたように、何があったのかを言い当てます。
 頷かなくても、私の反応を見てそうだと察したらしく、ユイナの目がどんどんつり上がっていきます。

「もう! あんな浮気者の失礼男なんてほっとけばいいのよ! 婚約者だからってエレインは真面目すぎ!」

 私の鼻先に人差し指をつけてぷりぷりと憤慨するユイナの姿に、つい口角が上がってしまいます。ユイナが私にではなく、ライに怒ってくれているのは分かっています。誰かが私を思って感情を動かしてくれている。それは何と喜ばしいことでしょう。
 けれど、どうせなら怒りや悲しみではなく、喜びや嬉しい気持ちになって貰いたいというのは贅沢な望みなのでしょうか?

「ユイナ、落ち着いてください。いつものことです。もう慣れっこですから、気にしなくて大丈夫ですよ」

「いやいや、慣れちゃダメでしょー」

 男子にしては高い声がして、振り返るとそこには亜麻色の蓬髪に長身の男子生徒がおりました。ぽわぽわした雰囲気とは裏腹に体格はがっしりしていて、男性的な顔立ちをしている彼は友達のフォルテです。私は専ら、教室ではこの三人と過ごすことが多いです。

「話を聞いてるに、そのライって子かなりの問題児だよー? 婚約者がいるのに堂々と女遊びはヤバいって。たまにはガツンと言ってやったら?」

「そうよ! そういう男は女の方が手綱を握ってなくちゃいけないんだから!」

「そうは言われましても・・・・・・」

 ユイナとフォルテはもっと強気な態度で接するべきと言いますけれど、強気な態度って・・・・・・?

「一応、見かけた時に目に余るようだったら注意はしているのですけど」

「罰もないただの注意じゃ無視されて終わりよ。実際、今まで聞き入れて貰ったことなんてないんでしょ?」

「うっ」

 確かに。ライは私が注意をしても鬱陶しそうに睨んで来るだけで、今までその態度が改められたことは一度もありませんでした。
 とは言え、婚約者とはいえ私にライを罰する権限はありませんし、ライだって素直に受ける訳がありません。それならとっくに改善されている筈です。
 ユイナのその通りの指摘に、言葉に詰まると「やっぱり」という顔をされました。

「エレインは大人しくていい子だし、人を見捨てるタイプでもないからヴェクオール君のこと、ほっとけないのは分かるわ。けど、はっきり言うね? ヴェクオール君とは白黒はっきりさせた方がいいわ。本当に女遊びが酷いし、喧嘩とかの噂も聞くし。このままじゃ婚約者のエレインに何か危害があるかもしれない。ちゃんと止めてって言うか、もしくは婚約解消を視野に入れた方がいいと思うわ」

 ──婚約解消。

 ユイナに言われて初めて浮かび上がった選択肢に、胸がぎゅっと締めつけられなような気がしました。
 そういう手もあるのですね。

 ライとの婚約は生まれる前から決まっていたものでした。
 私の家は事業に成功して潤沢な資金のあるカロミナ子爵家、一方、当時のヴェクオール伯爵家は財政が傾き、没落寸前だと聞きました。これに慌てたヴェクオール伯爵様は資金援助をしてくれる家との結婚を方々駆け回って探したと言います。
 そこで白羽の矢が立ったのが我が家、カロミナ子爵家。
 いくら没落寸前と言えど、貴族の社会は階級が重んじられます。伯爵家からの縁談の申し込みを子爵家は断れません。
 なのでお父様は生まれてくる子たちの性別がそれぞれ別々ならという条件でお話を了承しました。
 そして、その半年後。カロミナ子爵家には女の子、ヴェクオール伯爵家には男の子が誕生しました。
 それが私とライです。
 誕生日は私の方が先でしたので、私たちの婚約はライが生まれた日に決まりました。
 ヴェクオール伯爵様は財政を立て直せると大変お喜びになられたそうですが、お父様とお母様は生まれてすぐに私の将来を決めてしまったと申し訳なさそうにしておられました。
 ですので、私とライは物心つく前から夫婦になるのだと言って育てられてきました。
 それが当たり前のことでした。婚約解消なんて頭にないほど。

 ──けれど、ライがあそこまで私を嫌うなら、それも致し方ないことなのかもしれません。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

婚約者をないがしろにする人はいりません

にいるず
恋愛
 公爵令嬢ナリス・レリフォルは、侯爵子息であるカリロン・サクストンと婚約している。カリロンは社交界でも有名な美男子だ。それに引き換えナリスは平凡でとりえは高い身分だけ。カリロンは、社交界で浮名を流しまくっていたものの今では、唯一の女性を見つけたらしい。子爵令嬢のライザ・フュームだ。  ナリスは今日の王家主催のパーティーで決意した。婚約破棄することを。侯爵家でもないがしろにされ婚約者からも冷たい仕打ちしか受けない。もう我慢できない。今でもカリロンとライザは誰はばかることなくいっしょにいる。そのせいで自分は周りに格好の話題を提供して、今日の陰の主役になってしまったというのに。  そう思っていると、昔からの幼馴染であるこの国の次期国王となるジョイナス王子が、ナリスのもとにやってきた。どうやらダンスを一緒に踊ってくれるようだ。この好奇の視線から助けてくれるらしい。彼には隣国に婚約者がいる。昔は彼と婚約するものだと思っていたのに。

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。 しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。 そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。 このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。 しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。 妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。 それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。 それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。 彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。 だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。 そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...