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友人たち
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「エレイン、遅かったね! 遅刻ギリギリなんてどうしたの?」
移動先の教室へ向かうと、栗色のふわふわした髪の女の子が心配そうに駆け寄ってきました。友達のユイナです。
「ちょっと所用が出来て・・・・・・」
「またヴェクオール君?」
鋭い。
ユイナな半眼でこちらを見透かしたように、何があったのかを言い当てます。
頷かなくても、私の反応を見てそうだと察したらしく、ユイナの目がどんどんつり上がっていきます。
「もう! あんな浮気者の失礼男なんてほっとけばいいのよ! 婚約者だからってエレインは真面目すぎ!」
私の鼻先に人差し指をつけてぷりぷりと憤慨するユイナの姿に、つい口角が上がってしまいます。ユイナが私にではなく、ライに怒ってくれているのは分かっています。誰かが私を思って感情を動かしてくれている。それは何と喜ばしいことでしょう。
けれど、どうせなら怒りや悲しみではなく、喜びや嬉しい気持ちになって貰いたいというのは贅沢な望みなのでしょうか?
「ユイナ、落ち着いてください。いつものことです。もう慣れっこですから、気にしなくて大丈夫ですよ」
「いやいや、慣れちゃダメでしょー」
男子にしては高い声がして、振り返るとそこには亜麻色の蓬髪に長身の男子生徒がおりました。ぽわぽわした雰囲気とは裏腹に体格はがっしりしていて、男性的な顔立ちをしている彼は友達のフォルテです。私は専ら、教室ではこの三人と過ごすことが多いです。
「話を聞いてるに、そのライって子かなりの問題児だよー? 婚約者がいるのに堂々と女遊びはヤバいって。たまにはガツンと言ってやったら?」
「そうよ! そういう男は女の方が手綱を握ってなくちゃいけないんだから!」
「そうは言われましても・・・・・・」
ユイナとフォルテはもっと強気な態度で接するべきと言いますけれど、強気な態度って・・・・・・?
「一応、見かけた時に目に余るようだったら注意はしているのですけど」
「罰もないただの注意じゃ無視されて終わりよ。実際、今まで聞き入れて貰ったことなんてないんでしょ?」
「うっ」
確かに。ライは私が注意をしても鬱陶しそうに睨んで来るだけで、今までその態度が改められたことは一度もありませんでした。
とは言え、婚約者とはいえ私にライを罰する権限はありませんし、ライだって素直に受ける訳がありません。それならとっくに改善されている筈です。
ユイナのその通りの指摘に、言葉に詰まると「やっぱり」という顔をされました。
「エレインは大人しくていい子だし、人を見捨てるタイプでもないからヴェクオール君のこと、ほっとけないのは分かるわ。けど、はっきり言うね? ヴェクオール君とは白黒はっきりさせた方がいいわ。本当に女遊びが酷いし、喧嘩とかの噂も聞くし。このままじゃ婚約者のエレインに何か危害があるかもしれない。ちゃんと止めてって言うか、もしくは婚約解消を視野に入れた方がいいと思うわ」
──婚約解消。
ユイナに言われて初めて浮かび上がった選択肢に、胸がぎゅっと締めつけられなような気がしました。
そういう手もあるのですね。
ライとの婚約は生まれる前から決まっていたものでした。
私の家は事業に成功して潤沢な資金のあるカロミナ子爵家、一方、当時のヴェクオール伯爵家は財政が傾き、没落寸前だと聞きました。これに慌てたヴェクオール伯爵様は資金援助をしてくれる家との結婚を方々駆け回って探したと言います。
そこで白羽の矢が立ったのが我が家、カロミナ子爵家。
いくら没落寸前と言えど、貴族の社会は階級が重んじられます。伯爵家からの縁談の申し込みを子爵家は断れません。
なのでお父様は生まれてくる子たちの性別がそれぞれ別々ならという条件でお話を了承しました。
そして、その半年後。カロミナ子爵家には女の子、ヴェクオール伯爵家には男の子が誕生しました。
それが私とライです。
誕生日は私の方が先でしたので、私たちの婚約はライが生まれた日に決まりました。
ヴェクオール伯爵様は財政を立て直せると大変お喜びになられたそうですが、お父様とお母様は生まれてすぐに私の将来を決めてしまったと申し訳なさそうにしておられました。
ですので、私とライは物心つく前から夫婦になるのだと言って育てられてきました。
それが当たり前のことでした。婚約解消なんて頭にないほど。
──けれど、ライがあそこまで私を嫌うなら、それも致し方ないことなのかもしれません。
移動先の教室へ向かうと、栗色のふわふわした髪の女の子が心配そうに駆け寄ってきました。友達のユイナです。
「ちょっと所用が出来て・・・・・・」
「またヴェクオール君?」
鋭い。
ユイナな半眼でこちらを見透かしたように、何があったのかを言い当てます。
頷かなくても、私の反応を見てそうだと察したらしく、ユイナの目がどんどんつり上がっていきます。
「もう! あんな浮気者の失礼男なんてほっとけばいいのよ! 婚約者だからってエレインは真面目すぎ!」
私の鼻先に人差し指をつけてぷりぷりと憤慨するユイナの姿に、つい口角が上がってしまいます。ユイナが私にではなく、ライに怒ってくれているのは分かっています。誰かが私を思って感情を動かしてくれている。それは何と喜ばしいことでしょう。
けれど、どうせなら怒りや悲しみではなく、喜びや嬉しい気持ちになって貰いたいというのは贅沢な望みなのでしょうか?
「ユイナ、落ち着いてください。いつものことです。もう慣れっこですから、気にしなくて大丈夫ですよ」
「いやいや、慣れちゃダメでしょー」
男子にしては高い声がして、振り返るとそこには亜麻色の蓬髪に長身の男子生徒がおりました。ぽわぽわした雰囲気とは裏腹に体格はがっしりしていて、男性的な顔立ちをしている彼は友達のフォルテです。私は専ら、教室ではこの三人と過ごすことが多いです。
「話を聞いてるに、そのライって子かなりの問題児だよー? 婚約者がいるのに堂々と女遊びはヤバいって。たまにはガツンと言ってやったら?」
「そうよ! そういう男は女の方が手綱を握ってなくちゃいけないんだから!」
「そうは言われましても・・・・・・」
ユイナとフォルテはもっと強気な態度で接するべきと言いますけれど、強気な態度って・・・・・・?
「一応、見かけた時に目に余るようだったら注意はしているのですけど」
「罰もないただの注意じゃ無視されて終わりよ。実際、今まで聞き入れて貰ったことなんてないんでしょ?」
「うっ」
確かに。ライは私が注意をしても鬱陶しそうに睨んで来るだけで、今までその態度が改められたことは一度もありませんでした。
とは言え、婚約者とはいえ私にライを罰する権限はありませんし、ライだって素直に受ける訳がありません。それならとっくに改善されている筈です。
ユイナのその通りの指摘に、言葉に詰まると「やっぱり」という顔をされました。
「エレインは大人しくていい子だし、人を見捨てるタイプでもないからヴェクオール君のこと、ほっとけないのは分かるわ。けど、はっきり言うね? ヴェクオール君とは白黒はっきりさせた方がいいわ。本当に女遊びが酷いし、喧嘩とかの噂も聞くし。このままじゃ婚約者のエレインに何か危害があるかもしれない。ちゃんと止めてって言うか、もしくは婚約解消を視野に入れた方がいいと思うわ」
──婚約解消。
ユイナに言われて初めて浮かび上がった選択肢に、胸がぎゅっと締めつけられなような気がしました。
そういう手もあるのですね。
ライとの婚約は生まれる前から決まっていたものでした。
私の家は事業に成功して潤沢な資金のあるカロミナ子爵家、一方、当時のヴェクオール伯爵家は財政が傾き、没落寸前だと聞きました。これに慌てたヴェクオール伯爵様は資金援助をしてくれる家との結婚を方々駆け回って探したと言います。
そこで白羽の矢が立ったのが我が家、カロミナ子爵家。
いくら没落寸前と言えど、貴族の社会は階級が重んじられます。伯爵家からの縁談の申し込みを子爵家は断れません。
なのでお父様は生まれてくる子たちの性別がそれぞれ別々ならという条件でお話を了承しました。
そして、その半年後。カロミナ子爵家には女の子、ヴェクオール伯爵家には男の子が誕生しました。
それが私とライです。
誕生日は私の方が先でしたので、私たちの婚約はライが生まれた日に決まりました。
ヴェクオール伯爵様は財政を立て直せると大変お喜びになられたそうですが、お父様とお母様は生まれてすぐに私の将来を決めてしまったと申し訳なさそうにしておられました。
ですので、私とライは物心つく前から夫婦になるのだと言って育てられてきました。
それが当たり前のことでした。婚約解消なんて頭にないほど。
──けれど、ライがあそこまで私を嫌うなら、それも致し方ないことなのかもしれません。
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