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猫と毛糸
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先生が教室へやって来て、授業が始まりました。
ユイナは「あくまで私の意見だけど、考えておいて」といって自分の席に向かいました。
授業が始まってからも、さっきの話を思い出してしまいます。
──婚約解消、ですかぁ。
確かに、このまま嫌われ続けてるのに、ライと婚約して結婚する意味って何でしょう?
どう考えても私もライも幸せになれませんよね?
いえ、そもそも政略結婚に幸せを求めることがお門違いなのは分かっていますが、それでも嫌いな者と嫌われてる者が一緒になったところで、碌なことにならないのでは?
ライだって今の女の子たちとの付き合いを結婚したらすっぱり止めるとも思えませんし──。
あ、駄目です。考えれば考えるほど、灰色の未来予想図が脳内でずぶずぶ広がっていきます・・・・・・。
ふと、教科書に描かれた色鮮やかな薔薇の絵が目に入りました。
別に薔薇色の人生は望んでおりませんが、無味乾燥過ぎる人生を送っても、今際の際に様々な後悔が押し寄せて来そうですね・・・・・・けど、婚約解消・・・・・・うーん。
今は理科の授業で、先生が黒板に植物の絵を描いてその特徴を説明していらっしゃいます。
先生の板書をノートに写しつつも、頭の中はさっきのユイナの話でいっぱいで、もし今先生に指名されたら大慌てしていたことでしょう。
それでも、この授業で私が当てられることはなく無事に終鈴を聞くことが出来ました。
終わり際に、先生が、
「では、次の授業からは各々の研究の時間にします。一人ひとつずつ調べる植物を選んで、次の授業までに写生してきてください」
得意不得意の別れる絵の宿題に教室からは「えー!」という不満の声が溢れましたが、先生はどこ吹く風です。
「はーい。下手でも特徴が分かればよろしい。まずは挑戦。それでも駄目なら口先でも鍛えなさい。どのみち発表するんだから。じゃ、授業終了でーす」
手を振って去っていく先生を見送った教室内では、絵の苦手な生徒が頭を抱えておりました。
あ、絵が苦手と言えば──
「フォルテ、フォルテ、確か貴方も絵が──」
前の席に座っているフォルテの肩をぽんぽんと叩き、声をかけると真っ青な顔のフォルテが振り返りました。
あらまぁ、フォルテ、写生は苦手って言ってましたもんねぇ。
「エレイン・・・・・・どうしよう・・・・・・」
「まぁまぁ、落ち着いてください。先生も仰ってたじゃありませんか。下手でも特徴を掴んでいれば──」
大丈夫と言おうとした私に、フォルテは開いたノートのページを見せてきました。ページの端には黒い二個の──えーと、これは球体? 毛糸? えーと、毛糸のようなものが鉛筆で描かれていました。
「上手な毛糸玉ですね!」
「・・・・・・・・・・・・エレイン、これは猫だよ」
あ。
瞬間、空気が凍てつきました。
ね、猫? これが猫さん?
私の目にはどっからどうみても毛糸にしか見えませんが──いえ、それよりも解答を間違えてフォルテを落ち込ませてしまいました!
フォルテはしおしおの顔で自分の描いた絵を見て「毛糸・・・・・・」と呟いています。あああ! 悪気は! 悪気はなかったんです! フォルテ~!
どう言って慰めようかと悩む私に、フォルテは現実的な問題を相談してきました。
「先生はああ言ったけれど、果たして俺の描いた植物の絵を先生に植物だと認識して貰えると思う?」
「・・・・・・・・・・・・」
こちらの顔色を窺うように恐る恐る尋ねてきたフォルテは、私が無言のままでいると、がっくりと肩を落としました。
恐らく、言葉で返答せずとも表情がありありと語っていたのでしょう。
私は思いました。
友達として、フォルテの危機を放っておくことは出来ないと。
しかし、はっきり言ってフォルテの絵は壊滅的。
ならば!
「フォルテ! 私と一緒に絵の特訓をしましょう!」
ユイナは「あくまで私の意見だけど、考えておいて」といって自分の席に向かいました。
授業が始まってからも、さっきの話を思い出してしまいます。
──婚約解消、ですかぁ。
確かに、このまま嫌われ続けてるのに、ライと婚約して結婚する意味って何でしょう?
どう考えても私もライも幸せになれませんよね?
いえ、そもそも政略結婚に幸せを求めることがお門違いなのは分かっていますが、それでも嫌いな者と嫌われてる者が一緒になったところで、碌なことにならないのでは?
ライだって今の女の子たちとの付き合いを結婚したらすっぱり止めるとも思えませんし──。
あ、駄目です。考えれば考えるほど、灰色の未来予想図が脳内でずぶずぶ広がっていきます・・・・・・。
ふと、教科書に描かれた色鮮やかな薔薇の絵が目に入りました。
別に薔薇色の人生は望んでおりませんが、無味乾燥過ぎる人生を送っても、今際の際に様々な後悔が押し寄せて来そうですね・・・・・・けど、婚約解消・・・・・・うーん。
今は理科の授業で、先生が黒板に植物の絵を描いてその特徴を説明していらっしゃいます。
先生の板書をノートに写しつつも、頭の中はさっきのユイナの話でいっぱいで、もし今先生に指名されたら大慌てしていたことでしょう。
それでも、この授業で私が当てられることはなく無事に終鈴を聞くことが出来ました。
終わり際に、先生が、
「では、次の授業からは各々の研究の時間にします。一人ひとつずつ調べる植物を選んで、次の授業までに写生してきてください」
得意不得意の別れる絵の宿題に教室からは「えー!」という不満の声が溢れましたが、先生はどこ吹く風です。
「はーい。下手でも特徴が分かればよろしい。まずは挑戦。それでも駄目なら口先でも鍛えなさい。どのみち発表するんだから。じゃ、授業終了でーす」
手を振って去っていく先生を見送った教室内では、絵の苦手な生徒が頭を抱えておりました。
あ、絵が苦手と言えば──
「フォルテ、フォルテ、確か貴方も絵が──」
前の席に座っているフォルテの肩をぽんぽんと叩き、声をかけると真っ青な顔のフォルテが振り返りました。
あらまぁ、フォルテ、写生は苦手って言ってましたもんねぇ。
「エレイン・・・・・・どうしよう・・・・・・」
「まぁまぁ、落ち着いてください。先生も仰ってたじゃありませんか。下手でも特徴を掴んでいれば──」
大丈夫と言おうとした私に、フォルテは開いたノートのページを見せてきました。ページの端には黒い二個の──えーと、これは球体? 毛糸? えーと、毛糸のようなものが鉛筆で描かれていました。
「上手な毛糸玉ですね!」
「・・・・・・・・・・・・エレイン、これは猫だよ」
あ。
瞬間、空気が凍てつきました。
ね、猫? これが猫さん?
私の目にはどっからどうみても毛糸にしか見えませんが──いえ、それよりも解答を間違えてフォルテを落ち込ませてしまいました!
フォルテはしおしおの顔で自分の描いた絵を見て「毛糸・・・・・・」と呟いています。あああ! 悪気は! 悪気はなかったんです! フォルテ~!
どう言って慰めようかと悩む私に、フォルテは現実的な問題を相談してきました。
「先生はああ言ったけれど、果たして俺の描いた植物の絵を先生に植物だと認識して貰えると思う?」
「・・・・・・・・・・・・」
こちらの顔色を窺うように恐る恐る尋ねてきたフォルテは、私が無言のままでいると、がっくりと肩を落としました。
恐らく、言葉で返答せずとも表情がありありと語っていたのでしょう。
私は思いました。
友達として、フォルテの危機を放っておくことは出来ないと。
しかし、はっきり言ってフォルテの絵は壊滅的。
ならば!
「フォルテ! 私と一緒に絵の特訓をしましょう!」
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