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私たちは保健室へ向かい、保険医の先生にフォルテの怪我の手当てをして貰いました。
真っ赤になったフォルテの顔を見て、先生は驚いた顔をされましたが、流石本職の方です。すぐに手慣れた様子で必要なものを室内から集め、手当てをしてくれました。
幸い、フォルテの怪我は打撲で済んだので先生に打ち身に効く軟膏を塗って貰いました。
「歯が折れなくてよかったわねぇ」と言う先生の言葉にひやっとしつつも、安堵しました。怪我をしないことが一番なんですけどね。
その後は先生に報告するために職員室へ行きました。
担任の先生はフォルテの顔を見るとぎょっとして「何があった?」と尋ねてこられましたので、正直にお話ししたところ、「またか」という顔をされました。今朝、硝子の件でご相談したばかりでしたからねぇ。
心配もしてくださって、今回の件は今朝の件と違って犯人の顔がわかっているため、すぐに見つけると仰ってくださいました。
私たちは女子生徒の特徴を伝えると、会釈をして職員室を出ました。
今はフォルテと並んで廊下を歩いています。
「フォルテ、痛くないですか?」
「大丈夫だよ。薬が効いてきてそんなに痛くない。明日には腫れも大分引くって。よかったよ。こんな面白い痕つけて登校したら皆に笑われるところだった」
私に気を使ってくれているのか、笑い話のように軽い調子でフォルテは話しています。
「今日はもう帰りましょうか」
「まだ硝子の犯人見つかってないけど、いいの?」
「ええ。今日は──少し疲れてしまいました。また明日にします」
悪意を向けられた悲しみと、犯人探しの疲れと、突き飛ばされた衝撃と、フォルテの怪我。
一日で春夏秋冬の激しい移り変わりを経験したようで、私の精神は大分疲弊していました。
「聞き込みは効率が悪いですね。明日からはやり方を少々変えてみます」
「変えるってどんな?」
「うーん・・・・・・帰ってから考えます。今、頭働いてません」
「そっか。俺に出来ることあったら言って」
「ありがとうございます」
犯人がライの周りの女の子の可能性が高いなら、私だと気づかれないようにしてこっそり紛れ込んで話題を振るというのも手ですね。明日、鬘でも持ってきましょうか。
等と考えていると、正門まで辿り着き、よく知った声が遠くから響いて来ました。
「おーい!」
「ユイナ」
「フォルテも一緒? って、うわ!? どうしたのその顔!?」
「色々あってね」
「猫車に轢かれでもした?」
「ユイナの中の俺は猫車に轢かれるような奴なの??」
駆け寄ってきたユイナがフォルテの顔を見て驚き尋ねました。
「じゃあどうして?」
ユイナがきょとんと首を傾げます。
私とフォルテは顔を見合わせました。
ユイナは凄くいい子です。
優しくて友達思いの子です。だから、友達に関することだと起こりっぽくなってしまいます。
そんなユイナにさっきのことを話したら──
どうなるかなんて火を見るより明らかです。
かと言って話さないのも。
「? なんで教えてくれないの? 私には言えないようなこと? 私だけ仲間外れ!?」
ああ、頬を膨らませて拗ねてしまいました。
こうなるとユイナは大変なのです。
「違うって。ただ、話したらユイナが怒るかなーって」
「私が怒るようなことがまたあったの!? なら尚更話しなさいよ!」
物凄い剣幕で迫られたフォルテが、怖じけつつもさっきの出来事をかいつまんで説明しました。話せば話す程に、ユイナの目は吊り上がっていきました。
フォルテが説明を終えると、ユイナはふるふると体を震わせ、叫びました。
「何それ────────!!!?」
あまりの大声にびっくりした近くの木の枝の小鳥が飛んでいきました。
「ほんと何なの!? どいつもこいつもどれだけエレインを困らせたら気が済むのよ! あの男も訳わかんないし!」
「まぁまぁ」
怒髪天を突いたユイナに手で押さえる仕草をしながら、落ちついて貰います。ん? あの男?
「あの男って、どの男性ですか?」
「・・・・・・あ」
途端にユイナが口ごもります。話しづらそうにしてますし、言いたくくないのであれば言わないでよいのですが、直感的にライのことではないかと思いました。
「ひょっとして、ライですか? 何かありました?」
ユイナは元々ライのことを良く思っていませんが、今の怒り方は実際にライとの間に何かあったような気がするのです。
目をきょろきょろさせているユイナは、少しうんうん唸ってから肩を落として説明してくれました。
「さっきたまたま会ったのよ。それで口喧嘩になっちゃって」
「どうせユイナから突っ掛かったんでしょ」
「だって、エレインが散々な目に合ってるっていつのに、素知らぬ顔してて腹が立ったんだもの!」
「けど、喧嘩は駄目ですよ」
「そうだけどぉ」
皆、仲良くは無理かもしれませんが、争いはない方がいいです。
がっくりと落とされたユイナの肩をぽんっと叩き励ますと、ユイナが私をじっと見てました。何だか、何か言いたげな瞳です。
「どうしました? 私の顔に何かついています?」
「ううん・・・・・・ねぇ、エレイン」
「はい」
「・・・・・・いや、何でもない」
思案を重ねた末に話すことを止めた様子でユイナは視線を逸らしてしまいました。何かあったのでしょうか?
「ユイナ。言いたくないなら無理に言う必要はありませんが、悩みがあるなら相談してくださいね」
「うん、ありがとう。大丈夫」
うーん、いつも通りのユイナですし、心配は不要でしょうか?
何だかいつもと違う気がしましたが、すぐにユイナはいつもの調子に戻りました。
「それにしても犯人の奴らは許せなーい! 明日こそ絶対捕まえてやるー!」
夕空にユイナの決意表明が響きました。
真っ赤になったフォルテの顔を見て、先生は驚いた顔をされましたが、流石本職の方です。すぐに手慣れた様子で必要なものを室内から集め、手当てをしてくれました。
幸い、フォルテの怪我は打撲で済んだので先生に打ち身に効く軟膏を塗って貰いました。
「歯が折れなくてよかったわねぇ」と言う先生の言葉にひやっとしつつも、安堵しました。怪我をしないことが一番なんですけどね。
その後は先生に報告するために職員室へ行きました。
担任の先生はフォルテの顔を見るとぎょっとして「何があった?」と尋ねてこられましたので、正直にお話ししたところ、「またか」という顔をされました。今朝、硝子の件でご相談したばかりでしたからねぇ。
心配もしてくださって、今回の件は今朝の件と違って犯人の顔がわかっているため、すぐに見つけると仰ってくださいました。
私たちは女子生徒の特徴を伝えると、会釈をして職員室を出ました。
今はフォルテと並んで廊下を歩いています。
「フォルテ、痛くないですか?」
「大丈夫だよ。薬が効いてきてそんなに痛くない。明日には腫れも大分引くって。よかったよ。こんな面白い痕つけて登校したら皆に笑われるところだった」
私に気を使ってくれているのか、笑い話のように軽い調子でフォルテは話しています。
「今日はもう帰りましょうか」
「まだ硝子の犯人見つかってないけど、いいの?」
「ええ。今日は──少し疲れてしまいました。また明日にします」
悪意を向けられた悲しみと、犯人探しの疲れと、突き飛ばされた衝撃と、フォルテの怪我。
一日で春夏秋冬の激しい移り変わりを経験したようで、私の精神は大分疲弊していました。
「聞き込みは効率が悪いですね。明日からはやり方を少々変えてみます」
「変えるってどんな?」
「うーん・・・・・・帰ってから考えます。今、頭働いてません」
「そっか。俺に出来ることあったら言って」
「ありがとうございます」
犯人がライの周りの女の子の可能性が高いなら、私だと気づかれないようにしてこっそり紛れ込んで話題を振るというのも手ですね。明日、鬘でも持ってきましょうか。
等と考えていると、正門まで辿り着き、よく知った声が遠くから響いて来ました。
「おーい!」
「ユイナ」
「フォルテも一緒? って、うわ!? どうしたのその顔!?」
「色々あってね」
「猫車に轢かれでもした?」
「ユイナの中の俺は猫車に轢かれるような奴なの??」
駆け寄ってきたユイナがフォルテの顔を見て驚き尋ねました。
「じゃあどうして?」
ユイナがきょとんと首を傾げます。
私とフォルテは顔を見合わせました。
ユイナは凄くいい子です。
優しくて友達思いの子です。だから、友達に関することだと起こりっぽくなってしまいます。
そんなユイナにさっきのことを話したら──
どうなるかなんて火を見るより明らかです。
かと言って話さないのも。
「? なんで教えてくれないの? 私には言えないようなこと? 私だけ仲間外れ!?」
ああ、頬を膨らませて拗ねてしまいました。
こうなるとユイナは大変なのです。
「違うって。ただ、話したらユイナが怒るかなーって」
「私が怒るようなことがまたあったの!? なら尚更話しなさいよ!」
物凄い剣幕で迫られたフォルテが、怖じけつつもさっきの出来事をかいつまんで説明しました。話せば話す程に、ユイナの目は吊り上がっていきました。
フォルテが説明を終えると、ユイナはふるふると体を震わせ、叫びました。
「何それ────────!!!?」
あまりの大声にびっくりした近くの木の枝の小鳥が飛んでいきました。
「ほんと何なの!? どいつもこいつもどれだけエレインを困らせたら気が済むのよ! あの男も訳わかんないし!」
「まぁまぁ」
怒髪天を突いたユイナに手で押さえる仕草をしながら、落ちついて貰います。ん? あの男?
「あの男って、どの男性ですか?」
「・・・・・・あ」
途端にユイナが口ごもります。話しづらそうにしてますし、言いたくくないのであれば言わないでよいのですが、直感的にライのことではないかと思いました。
「ひょっとして、ライですか? 何かありました?」
ユイナは元々ライのことを良く思っていませんが、今の怒り方は実際にライとの間に何かあったような気がするのです。
目をきょろきょろさせているユイナは、少しうんうん唸ってから肩を落として説明してくれました。
「さっきたまたま会ったのよ。それで口喧嘩になっちゃって」
「どうせユイナから突っ掛かったんでしょ」
「だって、エレインが散々な目に合ってるっていつのに、素知らぬ顔してて腹が立ったんだもの!」
「けど、喧嘩は駄目ですよ」
「そうだけどぉ」
皆、仲良くは無理かもしれませんが、争いはない方がいいです。
がっくりと落とされたユイナの肩をぽんっと叩き励ますと、ユイナが私をじっと見てました。何だか、何か言いたげな瞳です。
「どうしました? 私の顔に何かついています?」
「ううん・・・・・・ねぇ、エレイン」
「はい」
「・・・・・・いや、何でもない」
思案を重ねた末に話すことを止めた様子でユイナは視線を逸らしてしまいました。何かあったのでしょうか?
「ユイナ。言いたくないなら無理に言う必要はありませんが、悩みがあるなら相談してくださいね」
「うん、ありがとう。大丈夫」
うーん、いつも通りのユイナですし、心配は不要でしょうか?
何だかいつもと違う気がしましたが、すぐにユイナはいつもの調子に戻りました。
「それにしても犯人の奴らは許せなーい! 明日こそ絶対捕まえてやるー!」
夕空にユイナの決意表明が響きました。
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