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第十六話 婚約解消のワケ
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「こ、婚約解消!?」
聞こえてきた言葉に、レティシアが目を丸くする。
「ああ。あの二人はつい先日、婚約が解消になったらしい」
アレックスが頷くが、レティシアは納得がいかなかった。
というのも、レティシアはあの二人が魔力持ちだということを知っていたからだ。
「婚約解消だなんて──一体何が?」
魔力持ちである以上、あの二人も王命で婚約を決められたのだろう。魔力持ちの婚約は基本覆ることはない。そのため、婚約破棄や婚約解消などは普通あり得ない。それこそ何か、尋常ならざる理由があるのだと考えるのが自然だ。
レティシアは事情を知っているらしいアレックスに目で説明を求めたが、その前に足を止めてシェリアの方へ振り向いたジュリアンの声が耳に届いた。
「仕方がないだろう。レアゾン公爵が『自禍中毒』で亡くなられたんだ。それでフィフセン公爵令嬢の婚約者が空席になって、俺が指名された。王命なんだ。聞き分けてくれ」
「嫌です! わたくしは了承しておりませんわ!」
困ったように言い聞かせるジュリアンに、シェリアはいやいやをするように激しく頭を振った。
一方で、ジュリアンの説明を遠巻きに聞いていたレティシアは、二人の婚約解消について腑に落ちた。
「レアゾン公爵の──確かに、レアゾン公爵がお亡くなりになられた以上、スピネリア様の婚約者の後釜に据えるなら、魔力属性的にも家格的にもジュリアン様が適任ですね」
「ああ。特にスピネリア・フィフセン嬢は優秀な『風』の魔力持ちだ。本来であれば、同じ『風』の公爵家であるレアゾン公爵との婚姻が一番望ましいが、レアゾン公爵が逝去した以上、現在公爵家の血筋で『風』の魔力を受け継いでいる未婚の男子がいないなら、侯爵家から新しい婚約者を選ぶしかないからな」
レアゾン公爵の訃報はレティシアも耳にしていた。ソルシェ侯爵家とレアゾン公爵家はそこまで深い関係ではなく、レアゾン公爵の葬儀には父のみが参列したため、詳しい話は知らない。
現在、『風』属性の魔力を受け継ぐ公爵家は五家のみ。そのうちレアゾン公爵家とフィフセン公爵家を除く二家の魔力持ちは既婚者であり、あとの一家の魔力持ちは今年二歳になったばかりだ。
となると、スピネリアの新しい婚約者は公爵家に次ぐ侯爵家の中から選ぶしかない。そこで白羽の矢が立ったのがジュリアンのようだった。しかし、魔力持ちである以上、生まれた時点で婚約者を決められていることが多く、ジュリアンも例に漏れずシェリアという婚約者がいた。
だが、王家としては公爵家の魔力継承を優先させたいのだろう。
高位の魔力持ちである公爵家の者の婚約者がなくなった場合は、例外的に婚約の調整が行われる。
そのため、決まっていたジュリアンとシェリアの婚約を白紙に戻し、新たにジュリアンとスピネリアの婚約を取り決めたようだった。
ジュリアンとシェリアの会話からして、 ジュリアンはこの話を受け入れているようだが、シェリアは納得していないようだ。
「わたくしはずっと、ずっとずっと! ジュリアン様の奥様になるために努力しておりました! 貴方との未来を夢見て今まで頑張ってきたのです! なのに・・・・・・なのにっ、それを命令一つでこんな──!」
「シェリア!」
潤んだ瞳からぽろぽろと涙を溢しながら、思うままに慟哭するシェリアをジュリアンが厳しい声で窘めた。
「──っ!」
その声にシェリアが頬を張られたようにビクッと体を竦ませる。
シェリアの様子を見て、ジュリアンはハッと目を見開くと、気まずそうに視線を反らした。
「そのようなことを口にしてはいけない。誰かに聞かれたらことだ」
「ジュリ──」
「すまない」
シェリアの声を遮るように、短い謝罪の言葉を述べると、ジュリアンは茫然としているシェリアを置いて去っていった。
(バッチリ聞いちゃってるんですけどね・・・・・・)
シェリアの背中を見て、レティシアは心の中で呟く。
ジュリアンがシェリアを諌めたのは正しい。
シェリアの言葉は王命に対する不満──それは、令を取り決めた王家に対する不満だ。
聞き咎められようものなら、すぐさま上に告げ口されるだろう。それが正義感か私利私欲かは人に依るだろうが。
そして、運悪くシェリアの発言はレティシアとアレックスに聞かれてしまった。しかし、運がいいことに、二人は今しがた聞いた話を誰かに言う気はサラサラ起きなかった。
何故なら、シェリアの発言を上回る大馬鹿者の発言を繰り返している婚約者たちがいるからだ。
その二人に乗せられて、現在恋人になっていることを棚に上げて、他者を責める気にはならなかった。
事なかれ主義のレティシアはともかく、頭の固いアレックスまでもがそう思ったのだ。
「あー・・・・・・どうしましょう? レクス様?」
「どうするもこうするも、俺たちに出来ることなどないと思うが? レティシ──レティ」
取り残されたシェリア以外に周りに人影もなか、シェリアとも距離が離れているため、愛称で呼びながら訊ねたら、どうしようもないという返事と共に愛称で呼び返された。
アレックスがレティシアをレティと呼ぶのはこれでようやく二回目だ。まだ全然慣れず、レティシアは背中がむず痒くなった。
「まぁ、他家の──それも王命に関するお話ですものね・・・・・・ここは聞かなかったことにして立ち去るのが──って、ええっ!?」
「何だ、急に──は!?」
淡々とした口調で話していたレティシアが、突然叫んだものだから、アレックスは驚いてレティシアの視線を追った。そしてその先で目にしたものに、アレックス自身も驚愕して、声を詰まらせる。
なんと、先程まで俯いて悲しみに暮れていた筈のシェリアがいつの間にか廊下の窓際へ移動しており、窓を開けて、その窓枠に足を掛けていたのだ!
ところで、ここは三階である。
(ま、まさか──婚約解消の悲しみから身投げを──!?)
最悪の予想が頭を過る。
高さ的には死ぬかどうかは打ち所次第だが、命が助かっても骨折は免れないであろう高さだ。
そんな場所から飛び降りようとしている人を見て、見て見ぬふりなどしてられない。
「「はやまるなぁ~~~~っ!!!」」
二人は一も二もなく、シェリアを止めに飛びかかった。
聞こえてきた言葉に、レティシアが目を丸くする。
「ああ。あの二人はつい先日、婚約が解消になったらしい」
アレックスが頷くが、レティシアは納得がいかなかった。
というのも、レティシアはあの二人が魔力持ちだということを知っていたからだ。
「婚約解消だなんて──一体何が?」
魔力持ちである以上、あの二人も王命で婚約を決められたのだろう。魔力持ちの婚約は基本覆ることはない。そのため、婚約破棄や婚約解消などは普通あり得ない。それこそ何か、尋常ならざる理由があるのだと考えるのが自然だ。
レティシアは事情を知っているらしいアレックスに目で説明を求めたが、その前に足を止めてシェリアの方へ振り向いたジュリアンの声が耳に届いた。
「仕方がないだろう。レアゾン公爵が『自禍中毒』で亡くなられたんだ。それでフィフセン公爵令嬢の婚約者が空席になって、俺が指名された。王命なんだ。聞き分けてくれ」
「嫌です! わたくしは了承しておりませんわ!」
困ったように言い聞かせるジュリアンに、シェリアはいやいやをするように激しく頭を振った。
一方で、ジュリアンの説明を遠巻きに聞いていたレティシアは、二人の婚約解消について腑に落ちた。
「レアゾン公爵の──確かに、レアゾン公爵がお亡くなりになられた以上、スピネリア様の婚約者の後釜に据えるなら、魔力属性的にも家格的にもジュリアン様が適任ですね」
「ああ。特にスピネリア・フィフセン嬢は優秀な『風』の魔力持ちだ。本来であれば、同じ『風』の公爵家であるレアゾン公爵との婚姻が一番望ましいが、レアゾン公爵が逝去した以上、現在公爵家の血筋で『風』の魔力を受け継いでいる未婚の男子がいないなら、侯爵家から新しい婚約者を選ぶしかないからな」
レアゾン公爵の訃報はレティシアも耳にしていた。ソルシェ侯爵家とレアゾン公爵家はそこまで深い関係ではなく、レアゾン公爵の葬儀には父のみが参列したため、詳しい話は知らない。
現在、『風』属性の魔力を受け継ぐ公爵家は五家のみ。そのうちレアゾン公爵家とフィフセン公爵家を除く二家の魔力持ちは既婚者であり、あとの一家の魔力持ちは今年二歳になったばかりだ。
となると、スピネリアの新しい婚約者は公爵家に次ぐ侯爵家の中から選ぶしかない。そこで白羽の矢が立ったのがジュリアンのようだった。しかし、魔力持ちである以上、生まれた時点で婚約者を決められていることが多く、ジュリアンも例に漏れずシェリアという婚約者がいた。
だが、王家としては公爵家の魔力継承を優先させたいのだろう。
高位の魔力持ちである公爵家の者の婚約者がなくなった場合は、例外的に婚約の調整が行われる。
そのため、決まっていたジュリアンとシェリアの婚約を白紙に戻し、新たにジュリアンとスピネリアの婚約を取り決めたようだった。
ジュリアンとシェリアの会話からして、 ジュリアンはこの話を受け入れているようだが、シェリアは納得していないようだ。
「わたくしはずっと、ずっとずっと! ジュリアン様の奥様になるために努力しておりました! 貴方との未来を夢見て今まで頑張ってきたのです! なのに・・・・・・なのにっ、それを命令一つでこんな──!」
「シェリア!」
潤んだ瞳からぽろぽろと涙を溢しながら、思うままに慟哭するシェリアをジュリアンが厳しい声で窘めた。
「──っ!」
その声にシェリアが頬を張られたようにビクッと体を竦ませる。
シェリアの様子を見て、ジュリアンはハッと目を見開くと、気まずそうに視線を反らした。
「そのようなことを口にしてはいけない。誰かに聞かれたらことだ」
「ジュリ──」
「すまない」
シェリアの声を遮るように、短い謝罪の言葉を述べると、ジュリアンは茫然としているシェリアを置いて去っていった。
(バッチリ聞いちゃってるんですけどね・・・・・・)
シェリアの背中を見て、レティシアは心の中で呟く。
ジュリアンがシェリアを諌めたのは正しい。
シェリアの言葉は王命に対する不満──それは、令を取り決めた王家に対する不満だ。
聞き咎められようものなら、すぐさま上に告げ口されるだろう。それが正義感か私利私欲かは人に依るだろうが。
そして、運悪くシェリアの発言はレティシアとアレックスに聞かれてしまった。しかし、運がいいことに、二人は今しがた聞いた話を誰かに言う気はサラサラ起きなかった。
何故なら、シェリアの発言を上回る大馬鹿者の発言を繰り返している婚約者たちがいるからだ。
その二人に乗せられて、現在恋人になっていることを棚に上げて、他者を責める気にはならなかった。
事なかれ主義のレティシアはともかく、頭の固いアレックスまでもがそう思ったのだ。
「あー・・・・・・どうしましょう? レクス様?」
「どうするもこうするも、俺たちに出来ることなどないと思うが? レティシ──レティ」
取り残されたシェリア以外に周りに人影もなか、シェリアとも距離が離れているため、愛称で呼びながら訊ねたら、どうしようもないという返事と共に愛称で呼び返された。
アレックスがレティシアをレティと呼ぶのはこれでようやく二回目だ。まだ全然慣れず、レティシアは背中がむず痒くなった。
「まぁ、他家の──それも王命に関するお話ですものね・・・・・・ここは聞かなかったことにして立ち去るのが──って、ええっ!?」
「何だ、急に──は!?」
淡々とした口調で話していたレティシアが、突然叫んだものだから、アレックスは驚いてレティシアの視線を追った。そしてその先で目にしたものに、アレックス自身も驚愕して、声を詰まらせる。
なんと、先程まで俯いて悲しみに暮れていた筈のシェリアがいつの間にか廊下の窓際へ移動しており、窓を開けて、その窓枠に足を掛けていたのだ!
ところで、ここは三階である。
(ま、まさか──婚約解消の悲しみから身投げを──!?)
最悪の予想が頭を過る。
高さ的には死ぬかどうかは打ち所次第だが、命が助かっても骨折は免れないであろう高さだ。
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