シャッフル・フィアンセ~こちらの方が快適なので、婚約破棄で構いません~

夢草 蝶

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第十五話 新たなる波紋

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「ご馳走さまでした」

「・・・・・・」

 レティシアのランチの倍以上ある量をペロリと平らげたアレックスを見て、レティシアは目を丸くした。
 ポトフをおかわりしたとは言え、もう食べ終わる寸前だったのに、アレックスの方が完食するのが早かったのだ。

「たまには食堂で食べるのも悪くないな。注文すれば量を調整出来るものいいし、次はもっと大盛りで頼んでみるか」

「ア──レクス様は随分と食べられるのですね。いつもはパン二つとおっしゃっていたので、意外です」

「あれはあれで腹に溜まるぞ。まぁ、確かに今日はいつも以上に食べたな。燃費が悪い訳じゃないが、食うのは好きだし、今日は作業しながらでもないしな」

「身近にこんなに食べる人がいないので、驚きました」

 アレックスの健啖家な側面を見たレティシアは、ふふっと笑って言った。

「ロッシー・クレアランブルは少食なのか?」

 同年代の男子ならば、ある程度の量は食べるだろうし、レティシアなら関係上ロッシーと食事をしたことはある筈だと思い、アレックスは尋ねた。

「少食というよりは偏食ですね。苦手な食材も味も食感も匂いも多いですし、初めて見たものは余程美味しそうに見えない限りは口にされません。けど、甘いものは何でも際限なく食べられて。何と言いますか──」

「完全に子供のそれだな」

「──はい」

 ロッシーの食の好みについて言い淀んでいると、アレックスがきっぱりと言葉にする。

「舌まで子供なのか・・・・・・」

 アレックスが呆れ声でため息を吐いている間に、レティシアは器に残っていたスープを飲み干して、両手を合わせた。

「ご馳走さまでした」



「「・・・・・・」」


 互いの食事が終わり、沈黙が流れる。
 食事中は会話が途切れたら、ランチに手をつけて間を保てばよかったが、食べ終わってしまった以上そうもいかない。

「あー、出るか」

「そうですね・・・・・・」

 食堂に長居する理由もないので、二人はそのまま空になった食器の乗っかったトレイを配膳口に下げ、食堂から出ていった。



 何となく、並んで歩く。

(どうしましょう・・・・・・つい、同じ方向へ向かって歩き出してしまいました)

 心の中で呟いたレティシアは、内心汗だらだらだった。
 根が真面目なためか、レティシアもアレックスも恋人らしく振る舞わなくてはいけないという変な義務感があり、とりあえず一緒に行動してしまっている。だが、いつものように目的がない以上、ただ意味もなく校内を徘徊するほかない。

(この状況って周りにはどう見えて──)

「あら? レティシア様とアレックスが並んで歩いてらっしゃるわ」

「またあれでしょ? ロッシー様とキャサリン様を探しているのではなくて?」

 耳に入ってきた会話に、レティシアはほっと胸を撫で下ろす。
 今まで散々ロッシーとキャサリンを探して、アレックスと並んで校内を歩き回っていたのが功を奏した──と言っていいのかは不明だが──ようだ。

「アレ、レク──アレックス様。この後のご予定は?」

「今日は特に予定を入れてなかったから、図書室で期末試験の対策でもしようかと思っていたところだ」

 アレックスから昼休みの予定を聞き出して、「お邪魔してはいけませんね。それでは私はここで失礼させていただきますわ。オホホ」と立ち去る算段を立てていたレティシアだったが、アレックスの言葉にそういえば、と期末試験の時期が迫っていることを思い出した。

「ああ、もうすぐですものね。私、今回の数学の単元が危うくて」

「珍しいな。貴様はいつも二十位以内に入っているだろう?」

 アレックスが意外そうな顔をする。ちなみにアレックスは万年一位の成績優秀者だ。

「得意科目で何とかなっているだけですよ。数学は苦手で──特に今回の範囲の確率の応用問題が不安で」

「あの教師、ひっかけ出すの好きだからな。とは言え、不要な情報の精査さえ出来れば、普通に解けるぞ。焦らないことが肝心だ。後はまぁ、予習復習だな」

「ですよね。私も図書室で勉強してもいいですか?」

「? いいも何も、共有の場だろう。俺の許可は必要ない」

「それもそうですね」

(・・・・・・おや? 颯爽と去る筈が、これは一緒に勉強する流れでは? けど、これはお願いすれば勉強を見て貰える好機では?)

 正直なところ、今回の試験は他の科目はともかく、数学だけは本気で不味いとレティシアは思っていた。元々苦手なのもあるが、今回は特に不得意な単元が被ったのだ。
 なので、成績優秀者のアレックスに勉強を教えて貰えるなら教えて貰いたいというのが本音だった。

(ヘンゼル様もエルツィア様と一緒に勉強してたって言ってましたし、これも恋人っぽいことと言えば、何やかんやで教えてくださるのでは?)

 完璧な打算で今の関係を利用しようとアレックスを虎視眈々と見つめるレティシア。

(・・・・・・? 何故、いきなりそんな獲物に狙いを定める肉食獣のような目で俺を見るんだ。レティシア・ソルシェ・・・・・・俺、何かしたか?)

  まさか、単に勉強を見て貰いたいと思ってるとは知らずに、レティシアの視線に気づかないフリをして疑問符を頭に浮かべるアレックス。

 そんな時だった。

「お待ちください! ジュリアン様!」

 誰かを呼び止める、悲痛な少女の叫びが廊下に響いた。

「あれは──?」

「ロベルタ伯爵家のシェリア・ロベルタだな。一緒にいるのはシンシア侯爵家のジュリアン・シンシアか」

 レティシアたちは立ち止まり、声の方向へ目を向けた。
 そこには胡桃のような丸い瞳の愛らしい女子生徒と、癖の強い黒髪の男子生徒がいた。
 二人を見て、アレックスがそれぞれの名前を口にする。

「ええ。存じております。確かあのお二人は婚約者だったと記憶しておりますが、喧嘩でもなさったのでしょうか?」

「何だ? 知らないのか? あの二人は──」

 仲裁に入るべきかと様子を見ているレティシアに、アレックスが何か言いかけるが、それより早くシェリアが大声で言った。

「わたくし、婚約解消の件は納得しておりませんわ!」

 ──と。
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