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本編
第三十二話 散らない想いを誓って
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グジル様たちの件に対する王家やシアーガーデン公爵家とツルーネ男爵家の見解や、私とアクシズ殿下の婚約が成立した際にどのように対応するかの情報共有を終えると、ライラックはこの後仕事があるとのことで先に帰ってしまいました。
二人きりになった私とアクシズ殿下は、アクシズ殿下のお誘いであの花園へ来ていました。
あれから十日も経っておりませんが、花というものはほんの数日で劇的に変化するもの。花園の景観も少し変わってました。
「アルメリア、散ってしまいましたね」
あの日咲き残っていたアルメリアの花も、花がらも取り除かれてすっかり見る影もなく、青い葉だけが残されてます。
「ああ、一昨日までは咲いてたんだけどな」
「アクシズ殿下はいつでもこの花園に来れますものね。こんな素敵な景色を好きな時に見られるのは羨ましいです」
「確かにこの花園は綺麗だけど、以前は足を運ぶことはほとんどなかったよ。今思うと、もったいないことしてたかな」
「以前はということは、最近はよく来られているのですか?」
「うん。最近っていうか、あの縁談の日から毎日来てるな」
それは随分な頻度です。アクシズ殿下にとっては花園はお庭なのでしょうが、それでも城内は広いのでここまで来るのに大分歩きますし、昨日までずっと天気が崩れていたので雨の中毎日というのはかなりのことです。
「毎日、花園に何をしに来られてたのですか?」
「そりゃもちろん、アルメリアの花を見に」
私と同じ花の名前に、どきりとしました。
「そう、なのですか」
「アルメリアに会いたいなって思った時に、ここに来てアルメリアの花を見てアルメリアのことを考えていた。つい昨日も来てしまって、散ったアルメリアを見たらもっと会いたくなったから、今日会えて嬉しいよ」
涼しいお顔でさらりと言ってのけるアクシズ殿下の真っ直ぐなお気持ちに恥ずかしくなって、けれど嬉しくて、私ははにかみながら伝えました。
「私もアクシズ殿下とお会いできて嬉しいです」
「そこはアクシズって呼んで欲しいなぁ」
「うっ! あ、アクシズとお会いできて嬉しいです」
屈まれたアクシズ殿下に上目遣いでお願いされて、私はしどろもどろに言い直しました。
アクシズ殿下って甘えたい時のライラックの弟力とは違った可愛らしさがあるんですよね。
「ははっ、うん、その調子で早く慣れてね」
「善処いたします」
アクシズ殿下は楽しそうにひとしきり笑われてから、ダンスに誘うように片手を差し出されました。
「鬼のいぬ間に──ってわけじゃないけど、せっかくだから手を繋いで歩きたい。いい?」
いずれそうなるとは言え、まだ婚約をしていない相手と触れ合うことははしたないでしょうか? という疑問が一瞬脳裏を過りましたが、差し出された手に触れたいという思いが勝り、私はアクシズ殿下の手に自分の手を重ねました。
「──はい」
互いに探るように力加減を変えながら、ほどけないように手を繋いて歩きます。
アルメリアの花壇を進んでいくと、ライラックの木陰に入りました。王宮の花園のライラックはライラックよりも年上のようで、春にはシアーガーデン公爵家の庭にあるライラックよりも多くの花を咲かせるのだろうと思いました。
「このライラックの花、見れなかったのが残念ですね。きっと、綺麗だったでしょうに」
「来年見れるさ」
ぽつりと呟いた独り言を拾い上げてくださったアクシズ殿下が、そう仰いました。
「見に来ていいのですか?」
「いいに決まっているだろう。その頃には俺たちの婚約は成立してるし、いつだって来てくれていい。というか、来てほしい。来年は一緒にライラックの花を見よう──ああ、そういえばその前にアルメリアが咲くんだったな。アルメリア、来年の春もその次の春も、その先もずっと俺と一緒にアルメリアの花を見てくれるか?」
ずっと一緒に──まるでプロポーズのような言葉です。
いえ、実際ことが順調に進めばアクシズ殿下とは夫婦になるのですが!
それでもアクシズ殿下ご自身にそう望まれて言葉にされると、心臓が物凄く元気になってしまいます。
花を咲かせる春の足音は、このどきどきという鼓動に似ているのかもしれません。
蕾がどんどん開いていきます。
きっと、次の春にはこの花は咲いている。そんな予感があります。
大切な言葉ですから、伝える時は一番喜ばせたいと思います。その時までに恥ずかしがらずにアクシズ殿下をちゃんとアクシズとお呼びできるようにならなくては。
「はい。一緒に見ます。ずっとずっと、一緒に見ましょう」
春のアルメリアのように散らない想いで、私は笑って答えました。
~END~
二人きりになった私とアクシズ殿下は、アクシズ殿下のお誘いであの花園へ来ていました。
あれから十日も経っておりませんが、花というものはほんの数日で劇的に変化するもの。花園の景観も少し変わってました。
「アルメリア、散ってしまいましたね」
あの日咲き残っていたアルメリアの花も、花がらも取り除かれてすっかり見る影もなく、青い葉だけが残されてます。
「ああ、一昨日までは咲いてたんだけどな」
「アクシズ殿下はいつでもこの花園に来れますものね。こんな素敵な景色を好きな時に見られるのは羨ましいです」
「確かにこの花園は綺麗だけど、以前は足を運ぶことはほとんどなかったよ。今思うと、もったいないことしてたかな」
「以前はということは、最近はよく来られているのですか?」
「うん。最近っていうか、あの縁談の日から毎日来てるな」
それは随分な頻度です。アクシズ殿下にとっては花園はお庭なのでしょうが、それでも城内は広いのでここまで来るのに大分歩きますし、昨日までずっと天気が崩れていたので雨の中毎日というのはかなりのことです。
「毎日、花園に何をしに来られてたのですか?」
「そりゃもちろん、アルメリアの花を見に」
私と同じ花の名前に、どきりとしました。
「そう、なのですか」
「アルメリアに会いたいなって思った時に、ここに来てアルメリアの花を見てアルメリアのことを考えていた。つい昨日も来てしまって、散ったアルメリアを見たらもっと会いたくなったから、今日会えて嬉しいよ」
涼しいお顔でさらりと言ってのけるアクシズ殿下の真っ直ぐなお気持ちに恥ずかしくなって、けれど嬉しくて、私ははにかみながら伝えました。
「私もアクシズ殿下とお会いできて嬉しいです」
「そこはアクシズって呼んで欲しいなぁ」
「うっ! あ、アクシズとお会いできて嬉しいです」
屈まれたアクシズ殿下に上目遣いでお願いされて、私はしどろもどろに言い直しました。
アクシズ殿下って甘えたい時のライラックの弟力とは違った可愛らしさがあるんですよね。
「ははっ、うん、その調子で早く慣れてね」
「善処いたします」
アクシズ殿下は楽しそうにひとしきり笑われてから、ダンスに誘うように片手を差し出されました。
「鬼のいぬ間に──ってわけじゃないけど、せっかくだから手を繋いで歩きたい。いい?」
いずれそうなるとは言え、まだ婚約をしていない相手と触れ合うことははしたないでしょうか? という疑問が一瞬脳裏を過りましたが、差し出された手に触れたいという思いが勝り、私はアクシズ殿下の手に自分の手を重ねました。
「──はい」
互いに探るように力加減を変えながら、ほどけないように手を繋いて歩きます。
アルメリアの花壇を進んでいくと、ライラックの木陰に入りました。王宮の花園のライラックはライラックよりも年上のようで、春にはシアーガーデン公爵家の庭にあるライラックよりも多くの花を咲かせるのだろうと思いました。
「このライラックの花、見れなかったのが残念ですね。きっと、綺麗だったでしょうに」
「来年見れるさ」
ぽつりと呟いた独り言を拾い上げてくださったアクシズ殿下が、そう仰いました。
「見に来ていいのですか?」
「いいに決まっているだろう。その頃には俺たちの婚約は成立してるし、いつだって来てくれていい。というか、来てほしい。来年は一緒にライラックの花を見よう──ああ、そういえばその前にアルメリアが咲くんだったな。アルメリア、来年の春もその次の春も、その先もずっと俺と一緒にアルメリアの花を見てくれるか?」
ずっと一緒に──まるでプロポーズのような言葉です。
いえ、実際ことが順調に進めばアクシズ殿下とは夫婦になるのですが!
それでもアクシズ殿下ご自身にそう望まれて言葉にされると、心臓が物凄く元気になってしまいます。
花を咲かせる春の足音は、このどきどきという鼓動に似ているのかもしれません。
蕾がどんどん開いていきます。
きっと、次の春にはこの花は咲いている。そんな予感があります。
大切な言葉ですから、伝える時は一番喜ばせたいと思います。その時までに恥ずかしがらずにアクシズ殿下をちゃんとアクシズとお呼びできるようにならなくては。
「はい。一緒に見ます。ずっとずっと、一緒に見ましょう」
春のアルメリアのように散らない想いで、私は笑って答えました。
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