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お茶会編 Re:start
13.理解には程遠い
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「どうしてわたしが謝らなきゃいけないの?」
少しむっとした表情で返ってきたのは、想像した通りの言葉でした。
謝りたくない訳ではなく、謝る理由を理解していないのです。
悪気がなければ、心のままに振る舞っていい。それが常に肯定されて育ってきたリーファの揺るぎない根幹です。
けれど、そんなものは子供の理屈です。大人の世界では通用しません。
それでもいくら諭しても理解して貰えなかったから、私が代わりに謝罪をしてきました。
「貴女は本来、フリージア夫人に招待されていません。なのに招待状を金銭で手に入れて参加した上に、不満を主催者本人の前で言うなんて非常識にも程があります。ここで謝罪するのが筋ですし、アーモンド伯爵家のためだと思いますけれど」
「それの何が悪いの? お店でドレスやアクセサリーを買う時にお金を払うのと同じでしょ。ただで貰った訳じゃないんだから、ちゃんとしてるもの。それにフリージア夫人がわたしに意地悪したのは事実じゃない!」
「…………謝罪する気は全くないということですね」
「だって悪いことしてないもの」
持論を突き通すリーファに目眩がします。
貴女……これから先もそうやっていくつもりなのですか?
屋敷を出ていく時に言ったこと、本当に何も理解していないのですね。
ロウ様も何故止めないのですか。貴方たち夫婦になるのですよ? ここで諌めないと本当にこんなことが続きますよ。わかっているのでしょうか?
アーモンド伯爵家の未来を考えると、このままだと出口のないトンネルに突き進みそうな予感がひしひしとします。
勿論、関与する気はありませんが、身内の不作法をこうも見せつけられるのは精神的に負担が掛かりますね……。
「そうですか。なら、好きにすれば良いでしょう」
「えっ!?」
「何を驚いているのですか?」
「だって、お姉様いつもならもっとしつこく言うじゃない。何々したから謝るべき~とか、よく分からないこと。ひょっとして──ようやくわたしが間違ってないってわかってくださったの?」
「違いますよ」
リーファが嬉しそうな顔をしていますが、その辺りはきっちり否定します。リーファの行動を認めたら、私まで非常識な人間と見られてしまいますから。
「むぅ。じゃあ、どうして?」
「どうしてもこうしても、屋敷を出る際に言ったでしょう。私はもう貴女を助けないし、代わりに謝罪もしないと。謝罪するしないは貴女が決めていいことです。その結果招いた事態は全て貴女の責任であり、私は何ら関わりのないということです」
「また難しいお話……謝らなくていいってことは、結局わたしが間違ってないってこと?」
「いいえ。貴女の振る舞いは誤りです。ただ、今までのように謝罪しなさいと私がいうことはありません。勿論、謝罪を勧めはしますが」
「やっぱり謝りなさいって言ってる!」
「違います。今までのような強制ではなく、推奨です」
「何が違うの!?」
「リーファ、声を荒げないで下さい」
堂々巡りですね。
リーファの態度はすぐにでもフリージア夫人へ謝罪すべきものですが、リーファは決して謝罪はしないでしょう。
なので、ここで重要なのは今までのように私がリーファの代わりに謝罪する姿を見せないことです。今後、リーファのしたことはリーファ本人の責任であり、アーモンド伯爵家の責任です。
まぁ、どうあっても姉妹であることは覆らないので、謝罪を勧めることはしますが。それくらいは言っておかないと物言いがつきそうですから。
「リーファ・アーモンド。お静かになさい。ここは歓談を楽しみ、友誼を結ぶ場ですよ。貴女だって小鳥の囀りを聞いている時に野犬に吠えられたら嫌でしょう?」
終わりそうにない会話に助け舟──というより、これ以上お茶会の空気を壊されたくないのでしょう。フリージア夫人がリーファを窘めます。
──さらりとリーファを野犬に例えてるあたり、表に出さずとも憤りは感じられます。
「野犬なんておうちには入って来ませんわ。もしかしてここには入ってくるの!? やだ、怖い! ロウ様~!」
「心配しなくてもこの辺りに野犬はいませんよ」
言葉を額面通りに受け取るリーファに比喩は通じないので、リーファは野犬が出ると捉えて怯えてロウ様の腕にしがみつきました。
「大丈夫だよ。野犬はここにはいない。いるのは、勝手に出ていったくせに下らない真似をしていった女だけだ」
リーファの頭を撫でたロウ様は、敵意の籠った視線を向けて来ました。さっきから何なのでしょう。
「僕の婚約者への侮辱は止めてくれるかな? 彼女がアーモンド伯爵家を出ていったのは、公爵夫人になるための合理的な判断であって非難を受けるようなものじゃないよ」
ロウ様の言葉に対し、オウル様が言い返してくれました。
実際、何故ロウ様に敵視されているのかが分からないんですよね。ロウ様からしてみれば、婿入り先の長子が出ていったことは都合がいいはずだと思うのですけれど。
「非難を受ける謂れはないと? 本当にそう思わせているのなら、君は大した役者だな、ジゼル。伯爵のこともそうやって騙したのか?」
「先程から何の話をしてらっしゃるのですか? 心当たりがないのですが」
騙す──というのは、家を出ることを直前まで伏せていたことでしょうか。確かに騙し討ちのような形になりましたが──その件でロウ様が怒る理由がありません。けれど、それ以外に思い浮かびませんし──。
心当たりが本当にないと首を捻っていると、ロウ様はこちらを睨みつけながら低い声で言いました。
「君は伯爵に一体なんと言ったんだ」
少しむっとした表情で返ってきたのは、想像した通りの言葉でした。
謝りたくない訳ではなく、謝る理由を理解していないのです。
悪気がなければ、心のままに振る舞っていい。それが常に肯定されて育ってきたリーファの揺るぎない根幹です。
けれど、そんなものは子供の理屈です。大人の世界では通用しません。
それでもいくら諭しても理解して貰えなかったから、私が代わりに謝罪をしてきました。
「貴女は本来、フリージア夫人に招待されていません。なのに招待状を金銭で手に入れて参加した上に、不満を主催者本人の前で言うなんて非常識にも程があります。ここで謝罪するのが筋ですし、アーモンド伯爵家のためだと思いますけれど」
「それの何が悪いの? お店でドレスやアクセサリーを買う時にお金を払うのと同じでしょ。ただで貰った訳じゃないんだから、ちゃんとしてるもの。それにフリージア夫人がわたしに意地悪したのは事実じゃない!」
「…………謝罪する気は全くないということですね」
「だって悪いことしてないもの」
持論を突き通すリーファに目眩がします。
貴女……これから先もそうやっていくつもりなのですか?
屋敷を出ていく時に言ったこと、本当に何も理解していないのですね。
ロウ様も何故止めないのですか。貴方たち夫婦になるのですよ? ここで諌めないと本当にこんなことが続きますよ。わかっているのでしょうか?
アーモンド伯爵家の未来を考えると、このままだと出口のないトンネルに突き進みそうな予感がひしひしとします。
勿論、関与する気はありませんが、身内の不作法をこうも見せつけられるのは精神的に負担が掛かりますね……。
「そうですか。なら、好きにすれば良いでしょう」
「えっ!?」
「何を驚いているのですか?」
「だって、お姉様いつもならもっとしつこく言うじゃない。何々したから謝るべき~とか、よく分からないこと。ひょっとして──ようやくわたしが間違ってないってわかってくださったの?」
「違いますよ」
リーファが嬉しそうな顔をしていますが、その辺りはきっちり否定します。リーファの行動を認めたら、私まで非常識な人間と見られてしまいますから。
「むぅ。じゃあ、どうして?」
「どうしてもこうしても、屋敷を出る際に言ったでしょう。私はもう貴女を助けないし、代わりに謝罪もしないと。謝罪するしないは貴女が決めていいことです。その結果招いた事態は全て貴女の責任であり、私は何ら関わりのないということです」
「また難しいお話……謝らなくていいってことは、結局わたしが間違ってないってこと?」
「いいえ。貴女の振る舞いは誤りです。ただ、今までのように謝罪しなさいと私がいうことはありません。勿論、謝罪を勧めはしますが」
「やっぱり謝りなさいって言ってる!」
「違います。今までのような強制ではなく、推奨です」
「何が違うの!?」
「リーファ、声を荒げないで下さい」
堂々巡りですね。
リーファの態度はすぐにでもフリージア夫人へ謝罪すべきものですが、リーファは決して謝罪はしないでしょう。
なので、ここで重要なのは今までのように私がリーファの代わりに謝罪する姿を見せないことです。今後、リーファのしたことはリーファ本人の責任であり、アーモンド伯爵家の責任です。
まぁ、どうあっても姉妹であることは覆らないので、謝罪を勧めることはしますが。それくらいは言っておかないと物言いがつきそうですから。
「リーファ・アーモンド。お静かになさい。ここは歓談を楽しみ、友誼を結ぶ場ですよ。貴女だって小鳥の囀りを聞いている時に野犬に吠えられたら嫌でしょう?」
終わりそうにない会話に助け舟──というより、これ以上お茶会の空気を壊されたくないのでしょう。フリージア夫人がリーファを窘めます。
──さらりとリーファを野犬に例えてるあたり、表に出さずとも憤りは感じられます。
「野犬なんておうちには入って来ませんわ。もしかしてここには入ってくるの!? やだ、怖い! ロウ様~!」
「心配しなくてもこの辺りに野犬はいませんよ」
言葉を額面通りに受け取るリーファに比喩は通じないので、リーファは野犬が出ると捉えて怯えてロウ様の腕にしがみつきました。
「大丈夫だよ。野犬はここにはいない。いるのは、勝手に出ていったくせに下らない真似をしていった女だけだ」
リーファの頭を撫でたロウ様は、敵意の籠った視線を向けて来ました。さっきから何なのでしょう。
「僕の婚約者への侮辱は止めてくれるかな? 彼女がアーモンド伯爵家を出ていったのは、公爵夫人になるための合理的な判断であって非難を受けるようなものじゃないよ」
ロウ様の言葉に対し、オウル様が言い返してくれました。
実際、何故ロウ様に敵視されているのかが分からないんですよね。ロウ様からしてみれば、婿入り先の長子が出ていったことは都合がいいはずだと思うのですけれど。
「非難を受ける謂れはないと? 本当にそう思わせているのなら、君は大した役者だな、ジゼル。伯爵のこともそうやって騙したのか?」
「先程から何の話をしてらっしゃるのですか? 心当たりがないのですが」
騙す──というのは、家を出ることを直前まで伏せていたことでしょうか。確かに騙し討ちのような形になりましたが──その件でロウ様が怒る理由がありません。けれど、それ以外に思い浮かびませんし──。
心当たりが本当にないと首を捻っていると、ロウ様はこちらを睨みつけながら低い声で言いました。
「君は伯爵に一体なんと言ったんだ」
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