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第一章 紫炎のグリモワール
3.悪魔レムガ
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悪魔。あくま。アクマ。
よくファンタジーで出てくるあれね。うん、これでも一応文芸部だから悪魔の出てくる本は呼んだ事がある。
完全な悪役だったり、ラスボスだったり、時にはダークヒーローだったり。
民族とか宗教系はあまり手をつけてないから詳しくないけれど、悪魔の名前もいくつか知っている。
あれだよね。
サタンとかベルフェゴールとかメフィストとか。
わりと文学作品にも出てくる。
だけど、こんな美形で泣き虫なレムガという悪魔は見たことも聞いたこともないなぁ。何て言うか、ライトノベルに出てきそうな設定の悪魔だね。
なんて考えながら暫く現実逃避。
「おーい、戻ってこーい」
ともにぃに肩を揺すられて、家出しかけていた意識が戻る。
私は眉間を押さえ、タンマという意味で手を前にかざしながら一度深呼吸をした。
「悪魔……悪魔ね。うん、何となく普通の人間じゃない予感はしてたよ。登場からしてあれだったもんね」
にしても、悪魔かぁ。
悪魔と言われてすんなり信じるのもどうかと思うけれど、そんな嘘をつく理由がないので、彼が悪魔という前提で話を進めていく。
「君、ひまわり?」
「はい。ひまわりです」
「ひまわりは鈴乃の孫。子供の子供の孫?」
「子供の子供の子供だったらひ孫ですね~」
何の会話をしているんだろう。
この……レムガさんという悪魔の喋り方は独特のテンポがある。
ゆったりとして少し舌足らずに感じるけれど、実際はそこまでゆったりとしてないし、声もはっきりしている。レムガさんの纏う空気がそんな風に感じさせるのかもしれない。
「孫なら鈴乃知ってるよね? どこ?」
悪魔なのにキラキラとした笑顔で訊ねてくるレムガさん。瞳は星でも入ってるんじゃないかと思うほど煌めき、頬は期待に紅潮している。
腰にぶんぶんと振られた犬の尻尾の幻覚まで見えてきた。見た目はクールそうな美人さんなのに中身とのギャップが凄い。
この毒気のなさ。本当に悪魔かな?
いや、それより今はおばあちゃんだ。
どうしよう……。
「おばあちゃんは……」
「うん!」
「その……」
「うんうん」
「今は遠くにいるんです」
そう口から出てしまった。ある意味嘘はついていないけれど、本当のことでもない。
「遠く? どこ? 北? 南?」
「えっと……暖かいところだと思います……多分」
「じゃあ南かな? 鈴乃寒いの苦手だったもんね」
レムガさんが納得したように頷く。
「ふふっ、早く鈴乃に会いたいな」
「そんなに会いたいんですか?」
「うん! 僕、鈴乃が大好きだから。鈴乃は僕の恩人だから」
「……そうですか」
ふんわりと笑いながらレムガさんは言った。それはうっかり見とれてしまいそうな程、美しく温かな笑みだった。
そんなにおばあちゃんが好きなんて、一体この人とおばあちゃんの間に何があったんだろう。そもそも、どういう関係だったのかな。
優しげな表情で語るレムガさんに私はますます本当のことを言えなくなってしまった。
ともにぃが私の肩を掴み、少し狼狽えた声でこっそりと話しかけてくる。
「おい、何言ってんだ。鈴乃さんは……」
ともにぃの言いたいことは分かる。言わなくちゃいけないのは分かっている。
隠したって仕方ないことだし、早めに教えてあげた方がいいということも分かってはいる。
けれど、こんなにおばあちゃんに会いたそうにしているレムガさんに言う勇気は私にはないから。
どうやって告げたらいいのだろう。
おばあちゃんはもう、この世のどこにもいないなんて……。
よくファンタジーで出てくるあれね。うん、これでも一応文芸部だから悪魔の出てくる本は呼んだ事がある。
完全な悪役だったり、ラスボスだったり、時にはダークヒーローだったり。
民族とか宗教系はあまり手をつけてないから詳しくないけれど、悪魔の名前もいくつか知っている。
あれだよね。
サタンとかベルフェゴールとかメフィストとか。
わりと文学作品にも出てくる。
だけど、こんな美形で泣き虫なレムガという悪魔は見たことも聞いたこともないなぁ。何て言うか、ライトノベルに出てきそうな設定の悪魔だね。
なんて考えながら暫く現実逃避。
「おーい、戻ってこーい」
ともにぃに肩を揺すられて、家出しかけていた意識が戻る。
私は眉間を押さえ、タンマという意味で手を前にかざしながら一度深呼吸をした。
「悪魔……悪魔ね。うん、何となく普通の人間じゃない予感はしてたよ。登場からしてあれだったもんね」
にしても、悪魔かぁ。
悪魔と言われてすんなり信じるのもどうかと思うけれど、そんな嘘をつく理由がないので、彼が悪魔という前提で話を進めていく。
「君、ひまわり?」
「はい。ひまわりです」
「ひまわりは鈴乃の孫。子供の子供の孫?」
「子供の子供の子供だったらひ孫ですね~」
何の会話をしているんだろう。
この……レムガさんという悪魔の喋り方は独特のテンポがある。
ゆったりとして少し舌足らずに感じるけれど、実際はそこまでゆったりとしてないし、声もはっきりしている。レムガさんの纏う空気がそんな風に感じさせるのかもしれない。
「孫なら鈴乃知ってるよね? どこ?」
悪魔なのにキラキラとした笑顔で訊ねてくるレムガさん。瞳は星でも入ってるんじゃないかと思うほど煌めき、頬は期待に紅潮している。
腰にぶんぶんと振られた犬の尻尾の幻覚まで見えてきた。見た目はクールそうな美人さんなのに中身とのギャップが凄い。
この毒気のなさ。本当に悪魔かな?
いや、それより今はおばあちゃんだ。
どうしよう……。
「おばあちゃんは……」
「うん!」
「その……」
「うんうん」
「今は遠くにいるんです」
そう口から出てしまった。ある意味嘘はついていないけれど、本当のことでもない。
「遠く? どこ? 北? 南?」
「えっと……暖かいところだと思います……多分」
「じゃあ南かな? 鈴乃寒いの苦手だったもんね」
レムガさんが納得したように頷く。
「ふふっ、早く鈴乃に会いたいな」
「そんなに会いたいんですか?」
「うん! 僕、鈴乃が大好きだから。鈴乃は僕の恩人だから」
「……そうですか」
ふんわりと笑いながらレムガさんは言った。それはうっかり見とれてしまいそうな程、美しく温かな笑みだった。
そんなにおばあちゃんが好きなんて、一体この人とおばあちゃんの間に何があったんだろう。そもそも、どういう関係だったのかな。
優しげな表情で語るレムガさんに私はますます本当のことを言えなくなってしまった。
ともにぃが私の肩を掴み、少し狼狽えた声でこっそりと話しかけてくる。
「おい、何言ってんだ。鈴乃さんは……」
ともにぃの言いたいことは分かる。言わなくちゃいけないのは分かっている。
隠したって仕方ないことだし、早めに教えてあげた方がいいということも分かってはいる。
けれど、こんなにおばあちゃんに会いたそうにしているレムガさんに言う勇気は私にはないから。
どうやって告げたらいいのだろう。
おばあちゃんはもう、この世のどこにもいないなんて……。
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