彼女を愛しているから婚約破棄? はい、わかりました!

夢草 蝶

文字の大きさ
14 / 14

14,令嬢は指先で頭領の黒布を剥ぎ取った

しおりを挟む
「気づいてたってこと? 私が盗賊団の一味だって」

「そうですよ。私も、ソウ殿下も。そもそも、一番最初にお気づきになられたのはソウ殿下でしたから」

 カタリの返答に、サキは納得いかなそうにギリッと歯軋りをした

「どうして? 私の演技は完璧だった筈よ!」

「確かに、本性を見てから思うと、信じられないくらい大人しくて、悪事なんか考えられなさそうな女に見えたな」

「だったら、どーして!?」

 ソウの言葉から、自分の演技に不備はなかった。
 なら、どうしてバレたのかがサキには分からない。
 今まで、あの演技を不自然に思って指摘してきな標的などいなかったのだから。

 ソウはずっとカタリへと向けていた甘やかな視線を鋭利に変え、サキへ向くと、その質問に答えた。

「お前の演技は完璧だったと思うぞ。演技事態は。ただ、最初から方向性を間違ってただけで」

「方向性?」

 サキが訝しげにソウの台詞の一部を復唱すると、ソウはすうっと息を吸い込み、一気に答えた。

「何でも肯定してくれて、褒めてくれて、従順で奥ゆかしくて控えめな彼女? そんな都合のいい女が現実にいる訳ねーだろ。バーカ! って思ってた」

「という訳で、ソウ殿下はすぐにサキさんが怪しいと思ったようです」

「んなっ」

 サキは絶句し、固まってしまったが、暫くしてからぷるぷると震え始めた。
 ソウは今までずっと言うのを我慢していたことを言えてすっきりしたのか、満足そうにしている。

「元々、お前たちの動きが活発になってきた頃から警戒してたんだ。それで、盗賊団は金庫破りの方法じゃなくて、何らかの方法で鍵を入手して盗みを働いてるんじゃないかってカタリが気づいて」

「はい。盗賊団の話題が大々的に広がっていってるのに、犯行手口──どのようにして盗まれたかは全く公表されていないことに違和感を覚えて。それで考えたんです。もしかして、今まで被害にあった方々は鍵を盗まれたんじゃないかって」

 宝物庫の鍵を壊されて盗まれたのなら、警備の不備と盗賊団にそれだけの技術があると言い訳出来るが、鍵を盗まれたとあっては自身の管理能力が低かったせいだと言われかねない。
 被害者は皆、王侯貴族だ。そのような自分の顔に泥を塗るような事実をわざわざ公表する者はいないだろう。
 そこまで考え至ったカタリは、自分の見解を婚約者であるソウに話したのだ。

「それで俺は思ったんだよ。あ、もしカタリの推測通りなら、盗賊団に鍵を狙われるのは俺だなーって。だから、警戒はしてた」

「そしたら想像よりも分かりやすいのが来て、危うく笑いそうになったわ」と続け、カタリは、

「ソウ殿下は嘘つくのとか不得意ですものね。それでも騙されたフリがバレなかったのなら上出来です」

「だろ? だからカタリー、ごほーび!」

「ですから、それは後日に」

「あああああ! 人の前でイチャつくんじゃないわよ! ほんっと、何なのアンタら!?」

「結局、お前のせいじゃないか」

「うるさい!」

 呆れて嘆息する頭領に、サキはヒステリック気味に言い返す。
 その時、檻の柵の間へカタリが腕を伸ばし、頭領の顔を隠している黒布を掴んだ。

「!」

 驚く頭領を他所に、カタリはその黒布を引っ張って剥ぎ取った。

「そんなにサキさんばかり責めては気の毒ですよ? 私により強い確信を与えて下さったのは貴方なのですから──お久しぶりですね。お花、頂けなくて残念ですわ。ね? トーマさん」
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

デッドネトル
ネタバレ含む
2022.09.01 夢草 蝶

ご感想ありがとうございます。

はてさて。どうなんでしょうねぇ。

解除

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

婚約破棄は予定調和?その後は…

しゃーりん
恋愛
王太子の17歳の誕生日パーティーで婚約者のティアラは婚約破棄を言い渡された。 これは、想定していたことであり、国王も了承していたことであった。 その後の予定が国王側とティアラ側で大幅に違っていた? 女性が一枚上手のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。