異世界を救った勇者ですが、現代日本で第二の人生を送っています。

ふるっかわ

文字の大きさ
3 / 9
プロローグ 異世界勇者と夜の蝶

幕間 邪神討伐

しおりを挟む
空気が凍り、大地が燃え、小さな町くらいなら跡形も無く吹き飛ばす規模の衝撃波が吹き荒れる。もうどれくらいの時間この様な戦いを続けているだろう。

俺達が対峙するのは異形の怪物。全身を漆黒に染めた巨大な人型は、全身から何本もの触手を生やしていた。

この化物の正体は「邪神」

膨大な数の軍勢と共に突如現れ世界を壊滅直前にまで追い込んだ、自らを「神」と名乗る存在だ。

「エル!ぶちかませ!これで最期だ!!」

「あぁ!これで終わらせる!!はぁぁぁぁぁっ!!」

俺の全身全霊を込めた一振りの剣が邪神の身体に突き刺さる。

「ば…馬鹿な…我が…神で有る我が人間如きに滅ぼされる…否…断じて否ッ!斯様なことが有ってなるものかッ!」

「俺達には…この世界にはお前みたいなクソったれな神様なんて必要ないんだよ!!消えてッ…なくなれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

剣から光が溢れる。光は異形の怪物を飲み込み、その全身を跡形も無く吹き飛ばした。

「はぁはぁはぁはぁ…終わった…ついに終わったんだ…」

「よっ…しゃあぁぁぁぁっ!良くやったぞ!!エル!お前が邪神を倒したんだ!世界を守ったんだ!」

力を使い果たし倒れ込みそうになった俺の肩を支え、戦闘術の師でもあり、仲間の1人でもある『武神』ナックルが喜びの声をあげる。

「ナックル。エルが苦しそうですよ。気持ちは分かりますが、そのくらいにしておいてあげましょう」

「師匠ったらホントにガサツなんだから…でも…えいっ!ボクも抱きついちゃえ!」

世界最高の魔法学者である、エルフ族の『賢者』ルーファスが乱暴に俺の身体を揺さぶるナックルを嗜めてくれた。
ナックルの反対側から俺に飛びつき、嬉しそうに尻尾を振っているのは獣人族の『死神』リンファ。彼女とは供にナックルに戦い方を教わった兄妹弟子の関係だ。

「ようやく終わりました…見て下さい。邪神の眷族が消えていきます」

「恐らく世界中で同じ事が起こっているであろう。魔族と人族の世は救われたのじゃ」

『聖女』クリスラインが指し示す方角の空を見ると、空を覆っていた小さなドラゴン達…邪神の眷族達が断末魔をあげながら身体を霧散させていた。
クリスと並び立ち満足気な表情を浮かべるのは『魔王』レインハイル。最初は俺達と敵対していた彼女だが、今ではかけがえの無い仲間の1人だ。

クリスとレイン…『聖女』と『魔王』が並び立つ姿を見せられたら王族や貴族の連中はどんな顔をするだろう?今から凱旋した時が楽しみだ。

「本当に終わったんだな…!?この気配は!?」

「我は.…我はこの様な結末を許さん…神が人に敗れるなどあってなるものかっ!!」

「死んで無かったのかっ!!どこにいるっ!!」

消滅した筈の邪神の声。ボロボロの身体に鞭を打ち剣を構える。しかし姿が見当たらない…その時背後に尋常ならざる気配を感じた。

「エル兄ぃ!後ろだよっ!」

仲間の中で最も気配察知に長けたリンファが叫ぶ。しかし遅かった。突如何も無い空間から現れた邪神の残骸…触手の一本が俺の全身を締め上げた。

「ぐあぁぁぁぁっ!?いつの間にっ!?」

「忘れたか?神とは元々人間如きでは存在を認知出来ぬ高次元の存在…油断しきった上に消耗している貴様の背後を取るくらい造作もないわ」

「クソっ!ルーファス!魔法であの気持ち悪ぃ触手を切り裂いてくれ!後は俺が突っ込んでエルから引き剥がす!」

「分かりました!万物を切り裂く次元の刃よ…我の命に従い敵を切り刻め!ディメンショ…「おっと。早まるなエルフの賢者よ。貴様なら分かる筈だぞ?今我の身体に魔力が触れればどうなると思う?」」

邪神の言葉を聞いたルーファスが魔法詠唱を止める。何故ルーファスが魔法を直前で止めたのか…俺には分かった。今俺の全身を締め上げるこの触手は物質では無い。邪神の残した魔力の残滓…純粋な魔力その物だ。

「チッ…死に際に自らの意識を魔力へ移して生き永らえましたか…腐っても流石は神…ふざけた真似をしてくれますね」

「純粋魔力と化した今の我に少しでも他者の魔力が触れればどうなるか分かるであろう?そうだ。純粋な魔力の塊に他の魔力がぶつかれば…跡形も無く周囲を巻き込み消滅する。我を完全に消し去りたいなら好きにするが良い。だがその時は勇者も道連れだ」

「やってくれ!ルーファス!俺もろとも邪神を消し去ってくれ!」

「クッ…卑怯な…仮にも神と呼ばれる存在として恥ずかしいとは思わないのですか!?」

いつも冷静なルーファスが珍しく声を荒げる。魔法に長けた彼だからこそ、今の状況のマズさが分かるのだろう。

「頼む!俺達何の為にここまで旅をして来たんだ!?邪神を倒す為だろ!?世界を守る為だろ!?」

「ふっふっふっ…あーはっはっはっ!良いぞ!最高の気分だ!我をコケにした貴様らが絶望に顔を歪ませる…愉快だ!実に愉快だ!!貴様らの弱点はその情の深さよ。愛情、友情…下らぬ!そういった下らぬモノが全てを台無しにする!」

邪神の言葉を聞いた皆は動けなくなってしまった。ナックルやリンファの扱う『闘気』ルーファスやクリス、レインが得意とする『魔法』。扱い方こそ違えど、どちらも魔力を使った物だ。攻撃が当たった瞬間、純粋魔力の塊と化した邪神は俺と供に消滅してしまうだろう。

「貴様らの悔しがる姿を見て満足出来た。我とて完全に消滅してしまう事は是としない…このまま勇者を絞め殺し、次元の狭間に身を隠し再起を図るとしよう…それまでは今の貴様らの姿が我の慰めだ」

「させるかよ…バカだなお前?大人しく次元の狭間とやらに隠れていたら、俺達はお前が生き残った事に気づかなかったのに…そのクソみたいなプライドの為にお前は完全に消滅する事になるんだ…俺と一緒にな!!」

「おいっ!エルっ!お前何考えてやがる!?」

「バカな真似はおよしなさい!邪神にはもう力は残ってません!魔力を使わずとも今の邪神を追い払うぐらいなら出来ます!」

「そうだよエル兄ぃ!今ムリしなくてもまた見つけてぶっ飛ばせば良いよっ!」
 
「エル!やめて下さい!貴方が居なくなったら…私…私は!」

「勇者よ!生き急ぐでない!余と貴様の決着はまだついてはおらん!勝ち逃げは許さんぞ!!」

邪神は俺を人質にとって、一矢報いた気になっていた様だがそれは間違いだ。ヤツは自分のプライドを守る為、生き延びる事の出来る千載一遇のチャンスを無駄にした。

邪神の犠牲になった人々の為、まだ見ぬ未来の平和を守る為、コイツは今この場で完全に消してしまわないとならない…俺の命を犠牲にしたとしても。

俺の『能力』が使えたらこんな真似しなくて済んだのだが、邪神との戦いで俺の魔力はほぼ空っぽだ。今の俺に出来る事…それは…

「じゃあな皆…皆と旅ができて楽しかったよ」

「ま…待て!分かった!約束しよう!貴様らが生きている間は我はこの世界に手を出さん!だからこんな真似は止めろ!長く辛い旅の果てに自らの死を選ぶとは貴様は何の為にっ!」

俺の身体から離れようと邪神がもがくがそうはさせない。最後の力を振り絞り逃げる邪神を抑え込んで、飛翔魔法で空へと舞い上がる。

「この距離なら皆を巻き込む心配は無いな…何の為にここまで来たかって?それはな…」

「やめろ!何故っ!何故貴様は自分の命をっ!」

「世界を守る為だ!!」

邪神の身体へ直接魔力を注ぎ込む。次の瞬間視界を閃光が覆い、俺の記憶はそこで途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

処理中です...