媚薬専門店を開いたら、ED騎士が釣れました。

金時ジュゴン

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4瓶目:それは反則すぎます

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「·····今なんて?」

 数日後のヴァニィ薬店の閉店間際。カウンターのヴァネッサは耳を疑った。

「だから、君の媚薬を使っても抜けなかったんだ···一度も」

 向かいには呼吸を荒くするアシェルが。今日は鎧を着ているので、魔獣討伐の任務を終えて馬をかっ飛ばして来たのだろう。店を閉めようと扉の看板を【close】にするところへ、アシェルが飛び込んで来たのだ。

(私が作った媚薬を使ってそんなはずは···まさかそれで効果が無いと判断されて今から取り潰しに⁉)

 ヴァネッサは心底焦った。今まで「効果が無い」という苦情は受けたことがないのだ。それがよりにもよって視察する人間から受けるとは。これは言い訳のしようがない。
 最後の足搔きとして用法用量に間違いがないか確認する為にテーブルへ案内しようとしたところで、アシェルはポニーテールを思いっきり振り乱して頭を下げた。

「きっ、君の手淫でないと抜けなくなってしまったらしい·····‼」
「·····へ?」

 カウンターから出ようとしていたヴァネッサの足がピタリと止まった。
 自分よりうんと身分が高いであろう王国騎士に頭を下げられた事もそうだが、あまりにもな内容に脳がクラッシュした。
 now loading..状態に入ってしまったヴァネッサをよそにアシェルは顔を上げ、「恥を承知で言うが…また最初にやってくれた時のように手淫で抜いてくれないか…!!」と首まで真っ赤にして頼んでいる。

「…あ、えーと、その、私の商品の効果が無かったわけではないのですね?」

 ロードが完了したヴァネッサが尋ねると、アシェルは暑そうに前髪を掻き上げながら頷いた。

「効果はあった。その…勃起はするんだ。今まではそれすらその…あったとしても長く保たなかったり、…硬さが」
「あ、そんな頑張って詳しく話さなくて大丈夫ですよ」

 思わず止めてしまった。本当に真面目な騎士殿である。その後がなんて言おうとしているか察しがついたのでこちらで代弁することにする。

「つまり、勃起不全には効果があっても、射精障害までは改善しなかったのですね」

 まだ頭が混乱している為つい前世の専門的な用語を出してしまったが、理解はできたらしくアシェルは黙って頷いた。
 ―詰まるところ、媚薬を使って勃ちはするが自慰では最後までイけないから手淫してほしいとのこと。

「…なぜ私なんでしょう。手淫ならこんな山奥にいる私でなくても、娼館に行けば済みます」

 一応真っ先に浮かんだ疑問を口にしてみる。だいたい予想はつくが。

「俺のこんな事情を知っているのは君しかいないからだ」

 やっぱりか。主語が「俺」になっているので素が出ている。嘘ではなさそうだ。
 この見た目でEDだなんて誰にも知られたくないもんね…としみじみ思いつつ、かなり異例の事態にヴァネッサは口元に指をあてて考え込む。
 しかしアシェルは、考える余裕もない状態であることを告げる。

「…実は、今日の昼に魔獣討伐から帰還して、宿舎でその…最後の一瓶を使ったんだ」
「…え」

 今日の昼に、最後の一瓶。つまりここ数日ですべて(約15回分)の媚薬を使い切り、それでもなお射精できていない状態。
 なんだか異様に息が荒く暑そうにしているのは、馬を飛ばしてきただけでなく、媚薬の効果がまだ効いているせい。
 そこまで理解して、ヴァネッサは「分かりました。地下へ行きましょう」と咄嗟に口にしていた。


***


 ヴァニィ薬店は1階が店舗で、地下がヴァネッサの居住スペースとなっている。2階も一応あるが、ほぼ屋根裏部屋のようなものであり倉庫になっている。
 いつかも共に(?)来た地下の寝室に着き、ランプをつけると、「暑いから鎧を脱いでも良いだろうか」とアシェルが聞いてきたので承諾する。
 それでより顕著に今のアシェルの状態が色々まずいことが分かった。
 全体的に紅潮した身体、汗をかきすぎて少し透けているブラウス、そして…テントをこれでもかと張っているトラウザーズの股間部分。
 苦しそうにベッドの端に座り、悩ましげな吐息を漏らしている。

(…こんな状態で今まで魔獣討伐してたの?どんなプレイ?というかよく騎士団の仲間に襲われなかったな…)

 あまりの光景にヴァネッサは無意識に凝視していた。それに気づいたアシェルは「言っておくが任務中は生死をかけた戦いなのだからそれどころじゃないぞ。終わってからが辛くて、野営地ではほとんどテントで寝ていた」と聞いてもいないのに解説をしてきた。おそらくなんとかしたくて野営中にも何回か使ったのだろう。
 あまり待たせない方がいいと判断したヴァネッサは

「では、この水を飲んでください。解熱剤が入っているので少しは今の熱感が収まるかと」

と水差しを手渡して、ことに取り掛かり始める。

「ん…?おい、なぜか身体に力が入らないのだが」

 ゆるりとアシェルを押し倒しながら、ヴァネッサはにこりと笑う。

「解熱剤と、弛緩薬も入っているので」
「はぁ!?お、お前っまた騙したな…!」
「人聞きの悪い。こういうのはリラックスが大事なんですよ?」

 言いながら、今回こそはとブラウスのボタンに手をかける。
 "お前"呼びになっているので完全に素の状態になったことに何故かうっすらと満足感を覚えながら、ひとつずつ外していくと、たくましい胸板や腹筋が露わになってくる。
 そのどれもが美しい彫刻のようで、さらに媚薬の効き目による赤みと滝のような汗が肌をしっとりと濡らしていて、脱がしているこちらまで媚薬を飲んだのかと思うぐらい興奮してくる。

「せっかくだから、新商品を試してみても良いですか?あ、あと髪は下ろしちゃいましょう」

 言うと、割と素直に髪紐を外してくれる。そしてその色気にヴァネッサの心臓はどでかく撃ち抜かれた。
 美しい金髪がまるで水脈のようにベッドのリネンを流れ、その頂点であるアシェルはもう限界だと言わんばかりに甘い吐息を漏らしながら紅潮した顔でこちらを見上げてくる。こっちも限界になりそうだ。

「新商品とかはよく分からんが、とにかく、早く…」

 それだけ言ってアシェルは目を閉じた。

(え…なに、めちゃくちゃにして良いってこと?)

 理性が吹き飛びそうになるが、なんとか堪えてトラウザーズも下着ごとずるりと下ろす。
 前回よりも一層膨れ上がった男根が飛び出てきた。その禍々しさにごくりと喉を鳴らしながら、新商品の血行促進効果や加温効果のある媚薬をとろりと肉棒と胸にも塗りつける。
 それだけで身体をびくりとしならせながら、アシェルは息を乱して堪えている。
 これもうイくのでは?と思いながらも、焦らすように胸の頂きの周りを指でゆっくりと円を描き、そそり立つ肉棒もぬるぬると手で撫ででやる。
 声にならない声で呻くアシェルが長い髪をゆらゆらと揺らし、美しい金脈がリネンを波打つ。
 媚薬に配合したイランイランのような甘く官能的な香りがさらに情欲を掻き立てて、ヴァネッサはとどめのごとく胸の頂を押し潰した。

「あっ―!!」

 金に縁取られた瞼が開き、てらてらと濡れ光る肉棒がびくんびくんと震える。
 先走りなのか精子なのか判別のつかない白い奔流が溢れてきた。荒い呼吸と共に上下に動く端正な胸が恥ずかしそうに震えて、サファイアの瞳が潤みを帯びてこちらを見てくる。
 どうやら胸で軽く達してしまったらしい。媚薬や前戯があったとは言えそれが恥ずかしいのか、さらに頬の赤みが増して悔しそうに唇を噛み締めている。

「·····かわいい」

 ついに言ってしまった。
 呟くように出てしまったそれは、アシェルにもバッチリ聞こえていて枕を思いっきりボフンと顔に投げられた。そんな女みたいな反抗の仕方も可愛らしい。

「早く終わらせてくれ···!なんだこの地獄は·····!!」

 そっちから頼んできた癖に····と思うがさすがに可哀想なので本命をこいてあげる事にした。
 ゆっくりとしたピストンから、徐々に速くしていく。

「····うっ···本当に君は―っ」

 手が白くなる程リネンを掴みながら、アシェルはヴァネッサの動きに合わせて無意識に腰を動かして山頂を目指す。
 高揚したヴァネッサは、一層速く雄芯をこきながら胸の頂きをつまんで、もう片方の頂きも舌で押し潰すように舐める。

「んぁっ·····!!」

 ぶるりと痙攣するとともに、先ほどより明らかに粘度のあるものがびゅくびゅくと勢いよく溢れてきた。
 どうやらちゃんと抜けたらしい。
 アシェルは手の甲を額に乗せてはぁはぁと浅い呼吸を繰り返している。ヴァネッサが「大丈夫ですか?もう一回抜きます?」と聞くと「···もう大丈夫だ」と答え、ゆっくり起き上がる。
 前回と同じく手を洗って戻ってくると、トラウザーズを履き終えブラウスのボタンをとめているアシェルがジト目でこちらを見てくる。

「君は娼館で働いたことがあるのか?」
「いいえ?全くありませんが」
「…ではなぜそんなに上手いんだ」

 ぎくり。
 ヴァネッサは平静を装って営業スマイルに切り替えるが、『前世の記憶があるから』など言えるはずもなく。背中を冷や汗が流れていく。

「…た、たまにアドバイスもさせて頂いてるんです!ほら、セックスレスの改善にはテクニックも必要ですから!」

 これは嘘ではない。女性のお客さんに教えたことはある。

「ま、まさか客相手に実戦形式で?」
「そんなはず無いでしょう⁉こんな事したのはアシェル様が初めてです!!」

 そこは断じて勘違いされたくない。誰相手でも抜いてあげてたらそれは娼館と何も変わらなくなってしまう。そもそも今世ではまだ処女なのである。
 アシェルは小声で「そうなのか…俺が初めて…」と心なしか耳を赤くして目を泳がせているが、憤慨しているヴァネッサはそのことに気づかない。

「それなら尚の事、視察に来たのが私で良かったな。他の盛りのついた団員だったら君は確実に襲われていた。その様子だとボディガードも雇っていないんだろう?」
「大丈夫ですよ。魔獣だって動けなくなる威力の痺れ薬を常に携帯しています」

 いつもベルトに下げている防犯用特製香水の事である。

「ふむ。言っておくが王国騎士ともなると、魔獣との戦いで毒や痺れに耐性がつく者もいるぞ」
「えっ…」

 絶句してしまった。どうやら見積もりが甘かったらしい。痺れ薬の香水と現代で言う"催涙スプレー"の効果がある香水も携帯しているが、それは的確に相手の顔に噴射する必要があるのと、自分もくらうとなかなか辛い為散布範囲が狭くしてある。つまり命中率が微妙なのだ。動きが単純な魔獣ならともかく人間相手にとっさに当てられるか定かではない。本当に運よくEDであるアシェルが視察に来たから自分はまだ処女でいられているのかもしれない。

(そもそもなんでこんな綺麗な人がEDなんだろ…産まれつきとか?それともやっぱり…)

 過去にトラウマがあるのだろうか、とチラリと横目で見やると、鎧を着終えて髪も結ったアシェルがベッドに座って「何か聞きたそうだな?」と察したように尋ねる。

「あ…いえ。さすがにそこまで踏み込むつもりは…」
「実の姉に襲われたんだ。10歳のときに」
「―え」

 さらりと話された衝撃に、ヴァネッサは頭をガツンと殴られた気がした。それがEDの原因なら…自分がしたことは…

「私には姉と兄がいてな。当時姉は14歳で、誕生日に一緒に寝たいと言ってきたから承諾したら…」
「申し訳ありませんでした…!!」

 気づくとヴァネッサは床にぶつかりそうな勢いで深々と頭を下げていた。

「な、なんだ急に!?頭を上げてくれ」

 思わず立ち上がるアシャルに構わずヴァネッサは頭を動かさないまま続ける。

「そんな事情があるとは知らず、最初に私はその姉君とほぼ同じことをしました。トラウマをほじくり返すような事をして、本当に申し訳ありませんでした」

 ヴァネッサは【ある事】においてかなりのトラウマがある。生活に支障が出るレベルのものだ。トラウマを持つ者として、それを蒸し返すような非情な真似を他の人にしてしまった事を、知らなかったとはいえ本当に情けなく思った。このまま底のない泥濘に身を投げてしまいたいぐらいだ。
 何も知らずに視察に来て、初めて媚薬を盛られた時、本当はすごく怯えていたのかもしれない。それを自分は商品の効果や良さを分からせるなどとほざいて襲ってしまった。これが男女逆なら一発アウト、前世の日本の世界だったら逆じゃなくてもアウトだろう。
 豊満な容姿で異性から性的な目で見られる事を散々嫌がっているくせに、自分が"する"側になるとそんな事も考えられなくなっている。ヴァネッサは血が滲みそうなほど唇を噛んだ。

「……」

 黙り込んだアシェルは、ヴァネッサの側に片膝をつくと、今度はとても柔らかな声で「顔を上げてくれ」と言った。
 ゆっくりと顔を上げていくヴァネッサに、

「君は、とても優しいんだな」

花のように微笑みかけた。

(―っはじめて、笑った…)

 そのあまりにも優美な微笑に…ヴァネッサは今まで感じた事の無い高鳴りで胸を抑えたくなった。心臓がぎゅぅと鷲掴みにされ、その淑やかな微笑みから目が離せない。

「確かに不能になった原因はそれだが、俺はその後すぐ逃げるように騎士学校に入って武術に打ち込んで宿舎で過ごし、姉は辺境伯へ嫁いで顔を合わせることが無くなった。心の傷はだいぶ薄れたんだ。昔は女性が苦手だったが、今はそれ程でもない。だからこそ、こうやって君の商品に頼って不能をなんとかしようとしている」

 そこでアシェルはヴァネッサの手を取り、

「君がそんなに謝ることじゃない。むしろ、きっかけは衝撃的だったが、君には感謝しているぐらいだ。こんな症状について相談できる相手ができて、嬉しい」

また心臓を貫かんばかりの微笑を容赦なく浴びせてくる。

 ヴァネッサは眩暈を覚えながら「そ、うですか…」とだけ返し、「あぁ。これからも宜しく頼む」と真っ直ぐにこちらを見上げる美しいサファイアの輝きから思わず視線を逸らした。

 そしてしばしの沈黙の後。

「あの、そろそろ手を…」

 ヴァネッサが切り出し、ようやくずっと手を握っていたことに気づいたアシェルが慌てて離すのだった。
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