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3瓶目:あまりにも早すぎる再会ですね
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「ふぁ···昨日あんまり寝れなかったから眠い··」
翌日も変わらずヴァニィ薬店を営業しているヴァネッサは、両手で口元を隠して欠伸をした。
昨日この店の危機を一旦逃れたはいいが、その後はほぼお客さんに委ねる形なので気が気でない。あの騎士は今頃名簿に記された人々に聞き込みに行っている頃だろうか。
ヴァニィ薬店の媚薬を買うには、名前や性別、年齢、住所や職業など個人情報を記入する必要がある。悪用を防ぐ為、媚薬が入っている瓶にはひとつひとつロット番号が刻まれており、もしも違法行為などに使われた際は、使われた瓶の番号が分かれば犯人の特定が出来るのである。
それらの同意を得た上で皆買っているので、悪いようにはしないはずだし、皆ヴァネッサが作った媚薬を必要としているはずなのだ。
一番の顧客は定期的に20本卸するよう仰せつかっている娼館。『妖精の隠れ家』という店名で従業員は25名ほど。ここ最近は城下町で一番繁盛していると言われているらしい。
ヴァネッサが事故に遭い媚薬を完成させて間もない頃、近所付き合いが皆無だったヴァネッサに唯一気さくに声をかけてくれた店主にだけは姿と所在を明かし、試供品として一本贈ったのだ。
その後効果を実感したのか、店主がすぐにまた買いに来てそこから少しずつ噂や紹介で広がっていった。
原則紹介制で、誰かに連れてきてもらわない限りここの店名すら知り得ない事になっている。媚薬を買っているんだと自分から周りに言いふらす人はいないし、それだけセンシティブな物を取扱っている故だ。
そのおかげでヴァネッサはこの山奥の屋敷で一人平穏に生計を立てる事ができている。ボディーガードは正直この身体のせいで信頼できる男性がいない為雇っていない。ごくたまに低級の魔獣が来るが、特製のいわゆる"催涙スプレー"を顔にかければ一発である。
しかし、穏やかな日々も"視察"が来るまでの話で。
一家で事故に遭い全てを失ってから4年。ついにこの店が嗅ぎ付けられてしまった。丹精込めて築き上げた自分の"城"を、取り潰しなんて絶対にさせない。
いつかは来るだろうと思っていたから用意周到に準備をして、視察に来た人間に"分からせて"やるつもりだった。
それがまさかあんな美男騎士とは思っていなかったが。媚薬の効き目も良すぎたし。
(昨日の感じからして女慣れしてそうになかったけど、あの顔でそんな事ってある···?)
昨日の事を思い出してまた喉がごくりと鳴る。前世で様々なAVを見て、何人ものイケメン男優を眺めてきたが、あんな麗しい騎士の男優はさすがにいなかったし、あんな扇情的な光景も初めてだ。
(今世で見てきたはずなのに金髪碧眼の破壊力ってあんなに凄かったっけ···髪が長いから?いや、あのレベルのイケメンはそういないよね···そんな人の···アレを·····)
「邪魔するぞ」
ギィと扉が開く音と共に今しがたそのあられもない姿を思い出していた人物が店に入ってきた。
ヴァネッサはびっくりしすぎて身体が浮きそうな程飛び上がった。
そう、昨日追い払った(?)はずのアシェルが今再び来店したのだ。
「えっ···えっ!?いらっしゃいませ!」
とりあえず反射的にいらっしゃいませと言ってしまったが、もしや昨日の報復だろうかと思わず制服のエプロンに巻いている腰のベルトに手を伸ばす。そこには防犯用の香水が携帯してあるのだ。
「待て。よく見ろ、鎧を着ていないし、武器も持っていない。今日は公休日なんだ」
確かに言われた通り今日は灰色のローブを身に纏っていて、鎧も剣も見当たらない。長い金髪は昨日と同じポニーテールにしていて、鎧を着てようがローブを着てようが腰が抜けそうな程麗しいのは変わらずである。
(···つまり休日の王国騎士様が、昨日の今日で一体何の用で·····?)
カウンター越しでもそれが伝わったのか、アシェルは気まずそうに視線を逸らし、
「···その。君の商品を買いに、来た」
たどたどしく衝撃的発言を繰り出した。
唖然とし過ぎて固まってしまったヴァネッサにアシェルは焦ったように付け加えた。
「ちゃ、ちゃんと商品を買って自分で使用して効果を確かめる為だ!昨日のあれだけで判断するには不十分だと思ったからな」
腕を組んでそっぽを向いて喋っているが、耳が赤い。
ヴァネッサは石化状態から漸く解けて「な、なるほど。畏まりました。おひとつで宜しいですか?」とかろうじて会話を成立させる。
しかしここでさらなる爆弾が投下される。
「···10個くれ」
「はい?」
「10個買うと言っている」
ヴァネッサは呆れた。
「あのー、もしや騎士団の方々に配るんですか?お土産じゃないんですよ?」
「そんなわけがないだろう!」
昨日も見た林檎のような顔をして憤慨している。もはや可愛く見えてきた。
「でしたら、何故10個も?ご自分で10個も使用するのですか?視察とはいえ効果の確認の為に?」
媚薬は1瓶で3回分ぐらいの量があり、それを10個という事は、30回分もある。1人でそんな量をいきなり初回で買う人はまずいない。大抵は試しに1瓶買って、良かったらまた少し増やして買うぐらいなのだ。
なにより、庶民でも楽しめるようにとは言ったが元は高級品である為、治療薬と同じくらいには値段が張るのだ。
(王国騎士団の人にとっては安いものかもしれないけど、それにしたって10は···)
さすがにおかしいと訝しげに凝視していると、いたたまれなくなったのか、
「···では5個にする。それでいいか」
渋々訂正してきた。
「(それでも多いと思うが)畏まりました。ご用意致します」
ヴァネッサはくるりと後ろの棚の引き出しに手をかけ、ある紙をアシェルに差し出す。
「こちらをご記入になってお待ち下さいませ」
「これは?」
「商品を買うにあたっての同意書になります。下半分は個人情報や使用用途の記入欄です」
「···なるほど。この同意書に『紹介する者以外には決して口外しない事』とあるから、こちらは全く情報が掴めなかったのだな。·····それで、使用用途とは?」
「悪用や転売をされたら困りますので、一応ご記入頂いております。今のところ嘘を書いた人はいないはずです。虚偽が判明すれば二度と買えなくなりますので」
そこでアシェルは観念したように額に手を当てた。
「その···今までに、···『自慰』で購入した者は、いるか」
「·····。·····1人だけ、勃起不全の方が」
一瞬フリーズしたがなんとか返事をした。
「·····アシェル様も?」
大事な顧客情報なので一応聞いてみた。
アシェルはものすごく不服そうに頷いた。
昨日の様子だけでは分からなかったが、先程の『自分で使用して効果を確かめる』という発言でもしかしてそうなのだろうかとは思っていた。
(···つまり、この顔で、この若さで、…EDってこと!?)
見た目はどう見ても20代前半ぐらいの若さ真っ盛りで、見目麗しく女性に困る事など絶対になさそうなのに。毎日日替わりランチ感覚で娼館でもどこでも女を喰っていけそうなのに。
「昨日は、本当に驚いたんだ。·····その、とても久しぶりに最後までいけたから···」
アシェルは視線を逸らしながら呟くように語った。
これはもう少し聞いてもいいという事だろうかと、ヴァネッサは踏み込んだ質問をする事にした。
「最後に射精したのはいつですか?」
「―っ!?···お、覚えていない。国境の魔獣討伐に出る前から無いから、3ヶ月前ぐらいか···」
「3ヶ月も!?」
(だからあんなに早くよく効いたのか···!!)
謎が解けた。媚薬入りの紅茶を一気飲みしたとはいえ、効き始めが早すぎたし、特製香水で気を失ってしまったのも、3ヶ月もの禁欲期間があったせいである。
「それで、実は明日からまた数日魔獣討伐に出るから、ここに来れるのはしばらく後になるんだ」
そこでアシェルの視線が彷徨う。
「だから、その···。買い溜め、しとこうかと···」
耳を真っ赤にしながら尻すぼみになっていった声に、ヴァネッサは思わずくすりと笑ってしまった。
アシェルは思い出したように顔を上げ、「安心してくれ。君の商品を購入した者への聞き取りは、部下に任せている。今日も行われているはずだ」と付け加えた。なんとなく真面目な人なんだろうなとは思っていたので、その点は不安に思っていなかった。
「ふふ、いきなり10個も買おうとしていたのはそういう事だったのですね?さすがに多すぎますから、5個にしときましょうね」
無言でこくりと頷くアシェルに、「それではご用意しますので、同意書に記入してて下さい」と告げて奥の部屋の在庫棚へ向かう。
正直今後は引き継ぎを受けた部下の人が店に来るだろうと思っていたので、王国騎士団副団長なんて身分の高いアシェルには二度と会う事は無いだろうと考えていた。
それが、まさかの客になって現れるというのは、予想外すぎて今もまだ心臓がびっくりしている感じがする。
(···でもまぁ、あの顔と若さでEDは、治したいよね)
果たしてこれが根本改善になるのかは不明だが、自分が作った薬で力になれるなら、例え相手が店を潰すかもしれない"敵"だとしても、これはこれ、それはそれとして協力しようとは思う。
(それにあの人、私を見ても···普通だし。たぶん良い人だよね)
在庫棚の商品の残数のメモを取りながら、ヴァネッサは少しの安心感を覚えていた。
大抵の男はヴァネッサを見るとその豊満な身体に視線が釘付けになり、特に胸は舐めるような勢いで視姦してくる。
しかしアシェルは、初めて会った時から、ずっと目を見て話してくれている。
王城で綺麗なご令嬢を見てきて目が肥えているからなのかもしれないが、下卑た視線に辟易していたヴァネッサにとってそれは、とても助かる事であり、無意識下でアシェルに好印象を持っていた。
商品を持ってカウンターへ戻り、記入が終えた同意書に目を通すと。
「······え。···19歳?」
にわかには信じられない数字が並んでいた。
「···えっと、アシェル様は、19歳なんですか?」
「そうだが」
きょとんとしてこちらを見る美丈夫に、目を疑う。
(まさかの年下!?20歳以下じゃ前世だったらお酒も飲めないじゃん!!)
長身でなかなかの体躯にこの美貌ときて20代前半だろうと思っていたのに、驚愕の10代。
これでは前世の歳とは9歳も差がある。そんな年下美男子にあんなことをしてしまったのはもはや犯罪ではなかろうかと心の中で頭を抱えた。
その分、昨日の初心な反応は少し納得できたし、素が出ると主語が「俺」になるのも可愛らしく思えた。
(······というか、19歳で王国騎士団副団長って···)
思わずアシェルを凝視してしまう。「なんだ、私の顔に何かついてるか?」と本人は全く気づいていないが、ヴァネッサは相当な努力をしたんだろうな···と何とも言えない気持ちになった。
「それでは、ご自身で効果をより実感してくださいね。この店の必要性も」
いつもの営業スマイルに切り替えて、包み終えた商品を渡す。
「···あぁ、また来る」
本当にまた来るかは分からない。いくらEDに悩んでいるにしても、なにせ王城からこの山奥の店まではだいぶ遠い。休まず馬を全力で走らせて3,4時間はかかるのだ。
また来たとしてもその時は、店の営業が認められず取り潰しが決まった時かもしれない。
ヴァネッサはそんな風に考えていた。
しかし、数日後アシェルは本当にまた来るのだ。
―とんでもない状態で。
翌日も変わらずヴァニィ薬店を営業しているヴァネッサは、両手で口元を隠して欠伸をした。
昨日この店の危機を一旦逃れたはいいが、その後はほぼお客さんに委ねる形なので気が気でない。あの騎士は今頃名簿に記された人々に聞き込みに行っている頃だろうか。
ヴァニィ薬店の媚薬を買うには、名前や性別、年齢、住所や職業など個人情報を記入する必要がある。悪用を防ぐ為、媚薬が入っている瓶にはひとつひとつロット番号が刻まれており、もしも違法行為などに使われた際は、使われた瓶の番号が分かれば犯人の特定が出来るのである。
それらの同意を得た上で皆買っているので、悪いようにはしないはずだし、皆ヴァネッサが作った媚薬を必要としているはずなのだ。
一番の顧客は定期的に20本卸するよう仰せつかっている娼館。『妖精の隠れ家』という店名で従業員は25名ほど。ここ最近は城下町で一番繁盛していると言われているらしい。
ヴァネッサが事故に遭い媚薬を完成させて間もない頃、近所付き合いが皆無だったヴァネッサに唯一気さくに声をかけてくれた店主にだけは姿と所在を明かし、試供品として一本贈ったのだ。
その後効果を実感したのか、店主がすぐにまた買いに来てそこから少しずつ噂や紹介で広がっていった。
原則紹介制で、誰かに連れてきてもらわない限りここの店名すら知り得ない事になっている。媚薬を買っているんだと自分から周りに言いふらす人はいないし、それだけセンシティブな物を取扱っている故だ。
そのおかげでヴァネッサはこの山奥の屋敷で一人平穏に生計を立てる事ができている。ボディーガードは正直この身体のせいで信頼できる男性がいない為雇っていない。ごくたまに低級の魔獣が来るが、特製のいわゆる"催涙スプレー"を顔にかければ一発である。
しかし、穏やかな日々も"視察"が来るまでの話で。
一家で事故に遭い全てを失ってから4年。ついにこの店が嗅ぎ付けられてしまった。丹精込めて築き上げた自分の"城"を、取り潰しなんて絶対にさせない。
いつかは来るだろうと思っていたから用意周到に準備をして、視察に来た人間に"分からせて"やるつもりだった。
それがまさかあんな美男騎士とは思っていなかったが。媚薬の効き目も良すぎたし。
(昨日の感じからして女慣れしてそうになかったけど、あの顔でそんな事ってある···?)
昨日の事を思い出してまた喉がごくりと鳴る。前世で様々なAVを見て、何人ものイケメン男優を眺めてきたが、あんな麗しい騎士の男優はさすがにいなかったし、あんな扇情的な光景も初めてだ。
(今世で見てきたはずなのに金髪碧眼の破壊力ってあんなに凄かったっけ···髪が長いから?いや、あのレベルのイケメンはそういないよね···そんな人の···アレを·····)
「邪魔するぞ」
ギィと扉が開く音と共に今しがたそのあられもない姿を思い出していた人物が店に入ってきた。
ヴァネッサはびっくりしすぎて身体が浮きそうな程飛び上がった。
そう、昨日追い払った(?)はずのアシェルが今再び来店したのだ。
「えっ···えっ!?いらっしゃいませ!」
とりあえず反射的にいらっしゃいませと言ってしまったが、もしや昨日の報復だろうかと思わず制服のエプロンに巻いている腰のベルトに手を伸ばす。そこには防犯用の香水が携帯してあるのだ。
「待て。よく見ろ、鎧を着ていないし、武器も持っていない。今日は公休日なんだ」
確かに言われた通り今日は灰色のローブを身に纏っていて、鎧も剣も見当たらない。長い金髪は昨日と同じポニーテールにしていて、鎧を着てようがローブを着てようが腰が抜けそうな程麗しいのは変わらずである。
(···つまり休日の王国騎士様が、昨日の今日で一体何の用で·····?)
カウンター越しでもそれが伝わったのか、アシェルは気まずそうに視線を逸らし、
「···その。君の商品を買いに、来た」
たどたどしく衝撃的発言を繰り出した。
唖然とし過ぎて固まってしまったヴァネッサにアシェルは焦ったように付け加えた。
「ちゃ、ちゃんと商品を買って自分で使用して効果を確かめる為だ!昨日のあれだけで判断するには不十分だと思ったからな」
腕を組んでそっぽを向いて喋っているが、耳が赤い。
ヴァネッサは石化状態から漸く解けて「な、なるほど。畏まりました。おひとつで宜しいですか?」とかろうじて会話を成立させる。
しかしここでさらなる爆弾が投下される。
「···10個くれ」
「はい?」
「10個買うと言っている」
ヴァネッサは呆れた。
「あのー、もしや騎士団の方々に配るんですか?お土産じゃないんですよ?」
「そんなわけがないだろう!」
昨日も見た林檎のような顔をして憤慨している。もはや可愛く見えてきた。
「でしたら、何故10個も?ご自分で10個も使用するのですか?視察とはいえ効果の確認の為に?」
媚薬は1瓶で3回分ぐらいの量があり、それを10個という事は、30回分もある。1人でそんな量をいきなり初回で買う人はまずいない。大抵は試しに1瓶買って、良かったらまた少し増やして買うぐらいなのだ。
なにより、庶民でも楽しめるようにとは言ったが元は高級品である為、治療薬と同じくらいには値段が張るのだ。
(王国騎士団の人にとっては安いものかもしれないけど、それにしたって10は···)
さすがにおかしいと訝しげに凝視していると、いたたまれなくなったのか、
「···では5個にする。それでいいか」
渋々訂正してきた。
「(それでも多いと思うが)畏まりました。ご用意致します」
ヴァネッサはくるりと後ろの棚の引き出しに手をかけ、ある紙をアシェルに差し出す。
「こちらをご記入になってお待ち下さいませ」
「これは?」
「商品を買うにあたっての同意書になります。下半分は個人情報や使用用途の記入欄です」
「···なるほど。この同意書に『紹介する者以外には決して口外しない事』とあるから、こちらは全く情報が掴めなかったのだな。·····それで、使用用途とは?」
「悪用や転売をされたら困りますので、一応ご記入頂いております。今のところ嘘を書いた人はいないはずです。虚偽が判明すれば二度と買えなくなりますので」
そこでアシェルは観念したように額に手を当てた。
「その···今までに、···『自慰』で購入した者は、いるか」
「·····。·····1人だけ、勃起不全の方が」
一瞬フリーズしたがなんとか返事をした。
「·····アシェル様も?」
大事な顧客情報なので一応聞いてみた。
アシェルはものすごく不服そうに頷いた。
昨日の様子だけでは分からなかったが、先程の『自分で使用して効果を確かめる』という発言でもしかしてそうなのだろうかとは思っていた。
(···つまり、この顔で、この若さで、…EDってこと!?)
見た目はどう見ても20代前半ぐらいの若さ真っ盛りで、見目麗しく女性に困る事など絶対になさそうなのに。毎日日替わりランチ感覚で娼館でもどこでも女を喰っていけそうなのに。
「昨日は、本当に驚いたんだ。·····その、とても久しぶりに最後までいけたから···」
アシェルは視線を逸らしながら呟くように語った。
これはもう少し聞いてもいいという事だろうかと、ヴァネッサは踏み込んだ質問をする事にした。
「最後に射精したのはいつですか?」
「―っ!?···お、覚えていない。国境の魔獣討伐に出る前から無いから、3ヶ月前ぐらいか···」
「3ヶ月も!?」
(だからあんなに早くよく効いたのか···!!)
謎が解けた。媚薬入りの紅茶を一気飲みしたとはいえ、効き始めが早すぎたし、特製香水で気を失ってしまったのも、3ヶ月もの禁欲期間があったせいである。
「それで、実は明日からまた数日魔獣討伐に出るから、ここに来れるのはしばらく後になるんだ」
そこでアシェルの視線が彷徨う。
「だから、その···。買い溜め、しとこうかと···」
耳を真っ赤にしながら尻すぼみになっていった声に、ヴァネッサは思わずくすりと笑ってしまった。
アシェルは思い出したように顔を上げ、「安心してくれ。君の商品を購入した者への聞き取りは、部下に任せている。今日も行われているはずだ」と付け加えた。なんとなく真面目な人なんだろうなとは思っていたので、その点は不安に思っていなかった。
「ふふ、いきなり10個も買おうとしていたのはそういう事だったのですね?さすがに多すぎますから、5個にしときましょうね」
無言でこくりと頷くアシェルに、「それではご用意しますので、同意書に記入してて下さい」と告げて奥の部屋の在庫棚へ向かう。
正直今後は引き継ぎを受けた部下の人が店に来るだろうと思っていたので、王国騎士団副団長なんて身分の高いアシェルには二度と会う事は無いだろうと考えていた。
それが、まさかの客になって現れるというのは、予想外すぎて今もまだ心臓がびっくりしている感じがする。
(···でもまぁ、あの顔と若さでEDは、治したいよね)
果たしてこれが根本改善になるのかは不明だが、自分が作った薬で力になれるなら、例え相手が店を潰すかもしれない"敵"だとしても、これはこれ、それはそれとして協力しようとは思う。
(それにあの人、私を見ても···普通だし。たぶん良い人だよね)
在庫棚の商品の残数のメモを取りながら、ヴァネッサは少しの安心感を覚えていた。
大抵の男はヴァネッサを見るとその豊満な身体に視線が釘付けになり、特に胸は舐めるような勢いで視姦してくる。
しかしアシェルは、初めて会った時から、ずっと目を見て話してくれている。
王城で綺麗なご令嬢を見てきて目が肥えているからなのかもしれないが、下卑た視線に辟易していたヴァネッサにとってそれは、とても助かる事であり、無意識下でアシェルに好印象を持っていた。
商品を持ってカウンターへ戻り、記入が終えた同意書に目を通すと。
「······え。···19歳?」
にわかには信じられない数字が並んでいた。
「···えっと、アシェル様は、19歳なんですか?」
「そうだが」
きょとんとしてこちらを見る美丈夫に、目を疑う。
(まさかの年下!?20歳以下じゃ前世だったらお酒も飲めないじゃん!!)
長身でなかなかの体躯にこの美貌ときて20代前半だろうと思っていたのに、驚愕の10代。
これでは前世の歳とは9歳も差がある。そんな年下美男子にあんなことをしてしまったのはもはや犯罪ではなかろうかと心の中で頭を抱えた。
その分、昨日の初心な反応は少し納得できたし、素が出ると主語が「俺」になるのも可愛らしく思えた。
(······というか、19歳で王国騎士団副団長って···)
思わずアシェルを凝視してしまう。「なんだ、私の顔に何かついてるか?」と本人は全く気づいていないが、ヴァネッサは相当な努力をしたんだろうな···と何とも言えない気持ちになった。
「それでは、ご自身で効果をより実感してくださいね。この店の必要性も」
いつもの営業スマイルに切り替えて、包み終えた商品を渡す。
「···あぁ、また来る」
本当にまた来るかは分からない。いくらEDに悩んでいるにしても、なにせ王城からこの山奥の店まではだいぶ遠い。休まず馬を全力で走らせて3,4時間はかかるのだ。
また来たとしてもその時は、店の営業が認められず取り潰しが決まった時かもしれない。
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