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第0114話 合意坊
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がいひぼう
最後の言葉に老中医は身を震わせ、息子や娘婿たちは腹立ちはしたが「便秘くらいで死ぬわけない」と声を荒げた。
「お前は一体何者だ、父親を呪っているのか、早く出ていけ」
秋羽は眉をひそめ冷ややかに笑った。
「構わねえよ、家教のない連中に構ってやんないぜ」
柳飘飘も憤り顔で「気にせず行こう」と促す。
ふたりがドアへ向かった時、名前が何善堂の老中医は慌てて呼び止めた。
「小坊主、ちょっと待ってくれ……」
カウンターを迂回して止めると、何度も謝罪した。
「ごめんなさい、子供に厳しくなかったわ。
もう二度と気をつけますから許してください」
秋羽は無表情で返す。
「いいや、腹いっぱいだったからつい口走っただけさ。
おじいちゃん、邪魔しないでくれよ、俺たちは用事があるんだ」
何善堂が怒りを押し殺して長男の何守業に命じた。
「何守業、この小坊主に謝れ。
あいつは父親を騙したんだから」
その何守業は体格のいい男で医者を目指していたが、父の教えを自慢気に持ち、他の医者を見下していた。
秋羽を「口八丁の若造」と見なす一方で、父の言葉に反発して抗議した。
「おやじ、あいつは俺らを騙してるんだよ」
老中医は顔を真っ黒にして杖を振り上げた。
「馬鹿野郎!お前の言うことより私の言葉の方が正しいんだ。
謝らせないかぎりこの棍で叩くぞ!」
息子が恐縮して秋羽に謝罪した「ごめんなさい、俺の悪かった」が、口許は不満げだった。
秋羽は鼻を鳴らし無視した。
老中医は杖で子供を叩き、痛んだ息子は我慢できないが黙っていた。
その後、懇々と説いた。
「小坊主、これからは厳しく教育するから許してくれ。
あなたは高人門下だとは見て取れたわ。
私の病気も治してもらえるでしょう? どうかご遠慮なく」
「分かりました。
老中医が信用してくれるなら治療しますよ。
ベッドはあるか?裸になって寝てもらう必要があります」
「あります、小坊主はこちらへ来てください」
老中医は秋羽と柳飘飘を二階に案内し、後継者たちもついてきた。
一階の待合室には孫娘二人が残っていた。
二階の居間に病床があり、重症患者用に準備されていたものだった。
「ズボンだけ脱いで裸になるんだよ。
短パンは着ておけ」
息子たちは杖を受け取り父親を裸にしてベッドに寝かせた。
痩せこけて皮膚が無光沢な姿を見ると、心配そうに冷汗が出るほど緊張していた。
秋羽の実力が分からないからこそ危険な賭けだった。
秋羽は右手を開き掌に金針を浮かべた。
四寸ほどの長さで鋭くはないが穏やかな光沢があり、紅瑪瑙の柄が包み込まれていた。
年代を感じさせる古びた品だ。
鍼灸は博大精深な絶技だ。
その術を心得ている者は少ない。
江陽で有名な医師の何善堂も例外ではなく、通常使用されるのは極細の銀針であり、金針を使う者などごく稀である。
ましてや金と瑪瑙の素材を使った針となると、鳳毛麟角と言っても過言ではない。
その金針を見た瞬間、何善堂は身を起こした。
目が丸くなるほど驚きの表情になり、震える声で問う。
「これは……五絶針の一つである『仏心針』か?」
秋雨が笑みを浮かべる。
「老先生もその名を知っているのか」
周囲の人々は驚いた。
この金針に何か典故があるのだろうか?
少年が推測を肯定すると、何善堂は興奮で声を上げた。
「若いお方、このような至宝を持ち合わせているとは……治療に期待できそうだ」
「構わぬ」秋羽は手の中の金針を差し出す。
何善堂は敬意を込めた視線で受け取った。
その重みを感じながら、金針を細かく観察する。
瑪瑙の柄には『救死扶傷』と極小の篆書が刻まれていた。
彼はため息をついた。
「老夫生きていてこの目に会うとは……」
その感慨にも理由があった。
五絶針は、伯高が臨終に際して五人の弟子に分けたという。
その後、その弟子たちも一代の名医となり、異なる五大流派を開いた。
五枚の金針は各流派の鎮山之宝となった。
しかし時代を経て現代社会を迎え、文革による破四旧運動でその存在が消えた。
医学界至高の象徴である五絶針は一枚も残らず行方不明だ。
秋羽は笑った。
「特別な物ではない。
年数が長いだけだ。
次にこの仏心针で治療する」
何善堂はうなずく。
「好い、非常に好い。
老夫の病を治すには十分だろう」
秋羽も頷いた。
「横になってくれ。
治療を始めよう。
ただし、痛みがあるかもしれない。
我慢してほしい」
「構わぬ。
小兄弟よ、思う存分に治療してくれ」
何善堂は満足げにベッドに横たわり、秋羽の治療を待った。
秋羽は相手の短パンを下ろし、腹部が橘皮のように刻まれているのを見た。
その上には『救死扶傷』と刻まれた金針が輝く。
最後の言葉に老中医は身を震わせ、息子や娘婿たちは腹立ちはしたが「便秘くらいで死ぬわけない」と声を荒げた。
「お前は一体何者だ、父親を呪っているのか、早く出ていけ」
秋羽は眉をひそめ冷ややかに笑った。
「構わねえよ、家教のない連中に構ってやんないぜ」
柳飘飘も憤り顔で「気にせず行こう」と促す。
ふたりがドアへ向かった時、名前が何善堂の老中医は慌てて呼び止めた。
「小坊主、ちょっと待ってくれ……」
カウンターを迂回して止めると、何度も謝罪した。
「ごめんなさい、子供に厳しくなかったわ。
もう二度と気をつけますから許してください」
秋羽は無表情で返す。
「いいや、腹いっぱいだったからつい口走っただけさ。
おじいちゃん、邪魔しないでくれよ、俺たちは用事があるんだ」
何善堂が怒りを押し殺して長男の何守業に命じた。
「何守業、この小坊主に謝れ。
あいつは父親を騙したんだから」
その何守業は体格のいい男で医者を目指していたが、父の教えを自慢気に持ち、他の医者を見下していた。
秋羽を「口八丁の若造」と見なす一方で、父の言葉に反発して抗議した。
「おやじ、あいつは俺らを騙してるんだよ」
老中医は顔を真っ黒にして杖を振り上げた。
「馬鹿野郎!お前の言うことより私の言葉の方が正しいんだ。
謝らせないかぎりこの棍で叩くぞ!」
息子が恐縮して秋羽に謝罪した「ごめんなさい、俺の悪かった」が、口許は不満げだった。
秋羽は鼻を鳴らし無視した。
老中医は杖で子供を叩き、痛んだ息子は我慢できないが黙っていた。
その後、懇々と説いた。
「小坊主、これからは厳しく教育するから許してくれ。
あなたは高人門下だとは見て取れたわ。
私の病気も治してもらえるでしょう? どうかご遠慮なく」
「分かりました。
老中医が信用してくれるなら治療しますよ。
ベッドはあるか?裸になって寝てもらう必要があります」
「あります、小坊主はこちらへ来てください」
老中医は秋羽と柳飘飘を二階に案内し、後継者たちもついてきた。
一階の待合室には孫娘二人が残っていた。
二階の居間に病床があり、重症患者用に準備されていたものだった。
「ズボンだけ脱いで裸になるんだよ。
短パンは着ておけ」
息子たちは杖を受け取り父親を裸にしてベッドに寝かせた。
痩せこけて皮膚が無光沢な姿を見ると、心配そうに冷汗が出るほど緊張していた。
秋羽の実力が分からないからこそ危険な賭けだった。
秋羽は右手を開き掌に金針を浮かべた。
四寸ほどの長さで鋭くはないが穏やかな光沢があり、紅瑪瑙の柄が包み込まれていた。
年代を感じさせる古びた品だ。
鍼灸は博大精深な絶技だ。
その術を心得ている者は少ない。
江陽で有名な医師の何善堂も例外ではなく、通常使用されるのは極細の銀針であり、金針を使う者などごく稀である。
ましてや金と瑪瑙の素材を使った針となると、鳳毛麟角と言っても過言ではない。
その金針を見た瞬間、何善堂は身を起こした。
目が丸くなるほど驚きの表情になり、震える声で問う。
「これは……五絶針の一つである『仏心針』か?」
秋雨が笑みを浮かべる。
「老先生もその名を知っているのか」
周囲の人々は驚いた。
この金針に何か典故があるのだろうか?
少年が推測を肯定すると、何善堂は興奮で声を上げた。
「若いお方、このような至宝を持ち合わせているとは……治療に期待できそうだ」
「構わぬ」秋羽は手の中の金針を差し出す。
何善堂は敬意を込めた視線で受け取った。
その重みを感じながら、金針を細かく観察する。
瑪瑙の柄には『救死扶傷』と極小の篆書が刻まれていた。
彼はため息をついた。
「老夫生きていてこの目に会うとは……」
その感慨にも理由があった。
五絶針は、伯高が臨終に際して五人の弟子に分けたという。
その後、その弟子たちも一代の名医となり、異なる五大流派を開いた。
五枚の金針は各流派の鎮山之宝となった。
しかし時代を経て現代社会を迎え、文革による破四旧運動でその存在が消えた。
医学界至高の象徴である五絶針は一枚も残らず行方不明だ。
秋羽は笑った。
「特別な物ではない。
年数が長いだけだ。
次にこの仏心针で治療する」
何善堂はうなずく。
「好い、非常に好い。
老夫の病を治すには十分だろう」
秋羽も頷いた。
「横になってくれ。
治療を始めよう。
ただし、痛みがあるかもしれない。
我慢してほしい」
「構わぬ。
小兄弟よ、思う存分に治療してくれ」
何善堂は満足げにベッドに横たわり、秋羽の治療を待った。
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