闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
50 / 1,458
0000

第0050話 「炎の真髄」

しおりを挟む
薫を見上げながら小部屋から出てきた蕭炎に、薫はため息をつくと諦めたように小さく呟いた。

「まあ、信じてみようか。



部屋を出た蕭炎が周囲のまだ動揺している族人を見て肩をすくめると、薫が出るのを見届けて二人はのんびりと通路を歩き出した。

二時間まで残っているため、蕭炎と薫も急ぐ気にはならず、普段は禁じられた場所である斗気閣にようやく入ることができたので、興味で溢れるように周囲を見回していた。

火属性の通路に出る直前、薫が勝手に小さな部屋に入った。

そこから黄級低等の斗気功法を一巻取り出し、蕭炎と共に他の属性の通路へと入った。

今日の斗気閣は数年来最も賑わっている日で、各属性の通路には人だかりが絶えない。

興奮した族人たちが光幕に全力で攻撃する様子が連続し、少年たちの歓声と共に光幕が次々と砕けた。

その雰囲気に感染されて蕭炎の小顔にも薄い笑みが浮かんでいた。

次の通路に出ると、蕭炎が時間を数えながら伸びをすると薫に言った。

「行こう。

時間だよ。



「構わないわ」と薫は頷き、二人は通路の角を曲がり斗気閣の外へと向かった。

通路を曲がった時、萧炎の眉がぴくりと動いた。

二人の近くに赤い衣装を着た蕭媚が光幕の前で焦ってうろうろしていた。

彼女はその中に風属性の黄級高等の功法を得たいのに、光幕を破る力が足りない様子だった。

今日の萧媚は鮮やかな赤いドレスを着ていて、細く締まったウエストが見事に強調されていた。

前後に張り出した美しい曲線が目を引いた。

清純と妖艶が交わるような可愛らしい顔立ちで、眉を寄せて困っている様子は少年たちの献身心を誘うほどだった。

蕭媚の現在の気分は最悪そのものだった。

今日斗気閣に入る前、父からある部屋番号を教えられていた。

彼女がその功法を得れば、他の人より先に斗気修練の出発点に立てるはずだと父親は確信していた。

しかし父は光幕の強さを考慮していなかった。

蕭媚がここに来てから一時間近く光幕に挑戦しているのにまだ破れないのだ。

他の族人が彼女の美しさに惹かれて手伝おうと申し出たが、この光幕は一人でしか破壊できない。

二人以上になると光幕の強さが増すため、結局無駄な努力だった。

二時間の制限が迫っているのにまだ光幕を破れないなら何も得られず、その結果を考えると蕭媚の妖艶な目元に涙の気配が漂い、切ない表情を見せていた。



目に薄い霧を帯びた視線が周囲の少年たちを横切り、蕭媚は苦しげな笑みを浮かべて首を振った。

その美しい目は突然止まった。

遠くで、後頭部を抱えながら黒装の少年が悠然と歩んでくる。

彼女は鼻を軽く鳴らし、先ほどまで絶望していた心が再び生気を取り戻す。

涙を拭い去り、赤い唇に白い歯を立てて、近づいてくる蕭炎を見つめる。

周囲の少年たちはその姿勢に目を合わせ、次々と視線を蕭炎へ移した。

ささやき声が弱まり、視線の中に畏敬の色が混ざり始めた。

突然小路が死のような静寂に包まれた。

数十の視線の中で、蕭炎は無表情な顔で通り過ぎ、目も合わせずに彼女から離れ去った。

唇を微かに開けながら、蕭媚は背中を見せる蕭炎を眺め、自嘲的な笑みを浮かべて首を振る。

自分がこれまでの態度について思い返し、先ほど湧いてきた怨念が消えていくのを感じた。

「ふん…これも報いだわね。

私は本当に嫌な存在だったんだ。

自業自得ってやつさ」彼女は膝を抱えながら小声で呟き、肩を震わせながら涙を零す。

蹲伏している蕭媚を見た少年たちがため息をつき、首を横に振る。

その中には、彼女の可憐な姿に心を揺さぶられた者も多かった。

忽然、蕭媚は何かを感じて顔を上げると、先ほど去ったはずの少年が逆らわしいポーズで戻ってきた。

「どけ」と淡々と告げた。

「あ…」その言葉に反応し、彼女は嬉しそうな表情になり、道を開ける。

蕭炎は光幕前に手を伸ばし、息を吐くように掌を開いた。

次の瞬間、彼の体が突然爆発的に動き出した。

急旋回した後、右足を鞭のように振り上げて光幕に蹴りを入れると、その衝撃で光幕が砕け散った。

その後、首を軽く動かしてから、平静な顔つきで薰の方向へ歩き始めた。

「表哥…ありがとう…ごめんなさい」蕭炎の背中を通り過ぎた際に、彼女は小声で告げた。

「うん」と短い返事。

その視線をちらりと受け取り、首を横に振って去っていった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...