闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
51 / 1,458
0000

第0051話 「魂殿の陰謀」

しおりを挟む
厚い門に近づくと、その脇には十数名の冷たい顔つきの護衛が固く通路を塞いでいた。

門の角には椅子に座った無表情な老人がペンと分厚い冊子を持ち、その前に何人かの族人が並んでおり、皆が身につけていた斗気功法を手から取り出して老人に登録させられた後、十数名の護衛の冷たい視線を浴びながら小さな隙間を通って出て行った。

これは斗気閣に入るための手続きで、蕭炎たちも事前に詳細に説明されていたため特に驚くこともなかった。

この功法は家族が何代にもわたって集めたものであり、蕭家が烏坦城で立つ基盤そのものだったから、厳重な保護措置が行われていた。

功法の材料は特殊な墨竹で、母体と子体に分かれていた。

母体は手のひらサイズだが、子体は数十メートルまで広がり、この材料で作られた功法の巻物ならば族長が母体を持っている限り、母体から外れるとすぐに検知される仕組みだった。

家族の母体墨竹による監視範囲はちょうど蕭家全体を覆っており、これらの功法の巻物は一旦蕭家の外に出れば発見されてしまう。

ただし強力な人物ならその検知を遮断できるが、その程度の実力を持つ者ならそもそも黄級の功法など欲しがらないだろう。

しばらく待たされた後、ようやく蕭炎の番になった。

彼は暗赤色の巻物を取り出し老人に手渡した。

老人がそれを受け取った瞬間、目で測るように蕭炎を見つめたが、「この子は『煉火焚』の防御壁を九段まで持っているのか?こんな若造にもかかわらず底力があるな」と内心で思ったようだった。

登録を済ませ老人から巻物を受け取り、淡々と戒められた。

「規則は知ってるはずだ。

功法は家族外に持ち出せないぞ。

一年後までに返却し損傷も許さない」

側に身を寄せて待つ間に、薰の番が来た。

彼女は白い手のひらで自分の功法を差し出した。

老人は珍しくほんの少しだけ礼儀的な笑みを浮かべてその巻物を受け取り速やかに登録した。

一側面で見ていた蕭炎は、老人の態度の変化に気付いた。

この老者は斗気閣という禁地を管理しているだけあって家族内の地位は三位長老より上かもしれない。

冷たい顔をしていることで知られる「冷面人・蕭旱」であるが、自分の父親でもないかぎりそのような扱いを受けさせまいとさえ思わないのだった。



【第127章 炎之继承】

しかし、一族の長である族長さえも眼中に留めないような冷たい人物が、薰(くん)の前ではあくまで礼儀を重ねる姿は、蕭炎(しょうえん)の胸中にも、薰の身分について新たな疑問を生じさせた。

鼻を撫でながら、薰が自身の出自について口を閉ざす度に、彼はため息と共に首を横に振った。

小顔に笑みを浮かべて近づいてくる薰を見上げると、肩をすくめてから二人は門限を越えた。

門外に出た瞬間、蕭炎は深呼吸で新鮮な空気を吸い込み、斗气閣内の閉塞感から解放された。

「どうだ?炎(くん)?」

父親の影がゆっくり近づいてくる。

目はまだ門内を見つめながら、声は低く笑みと共に尋ねた。

首を横に向け、暗紅色の巻物が袖口から覗く蕭炎は、軽やかに頷いた。

「終わった」

その暗紅色を見て、蕭戦(しょうせん)はようやく安堵した表情で目を細めた。

「手に入れたならそれでいい」

父子の視線が交錯し、両方から同時に笑い声が響いた。

広い掌で子息の肩に触れる父親の動作は、その瞬間にも優しさが滲んでいた。

「今やっと手に入った功法だ。

いずれ斗者になったら、本格的に斗気を修練できるようになる」

袖の中の巻物に触れながら目を細める蕭炎は、ささり声で自問した。

「老師が『進化する』と言った功法…本当に存在するのか?」

「天位級の上位者たちよりさらに奇妙な特性がある…?」

薬老(やくろう)の言葉を思い返すと、蕭炎は苦笑して首を振った。

これまでに見た最高の功法は、薰が示した『弄炎決』だった。

その瞬間に彼は、自分が拒絶した瞬間の葛藤を再確認した。

額を揉む動作で顔を覆うと、薬老の冷たい笑みが突然脳裡に浮かんだ。

「ほんなら、玄階級の上位者などどうってことない。

その小娘の出自は特別かもしれないが、功法のコレクションではまだ幼い」

蕭炎は鼻を鳴らし、口角を上げて勝ち誇るような笑みを浮かべた。

「あー、ようやく出てきたな」

薬老のため息が聞こえた瞬間、彼は父親の存在感に気付いていた。

「小狐っ子、算段したのか」

薬老も口を揺らし、嘆きながら諭すように言った。

「小坊主、安心して修業を続けろ。

功法のことなど心配するな。

お前の将来は、隣の小娘より劣るわけじゃない。

その家系も…まあ、それだけだ」

最後の言葉に曖昧さが残ったが、蕭炎は笑顔で頷いた。

「では、この面子問題は解決した。

次からは斗者を目指すことにしよう。

そして、あの『日想慕する』存在へ向かって…」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...