闘破蒼穹（とうはそうきゅう）

0200

第0253話 探索と墨家の野望

目の前の門口で月の衣装をまとった女性を見つめ、影に包まれた顔をしている蕭炎は、突然笑みが消え、暗い表情になった。

三年の間隔があり、それぞれ大きく変わっているはずだが、彼はその女性から昔の乙女・ナラン・ヨウレンの姿をうっすらと見出すことができた。

拳を強く握り、爪が掌に食い込む痛みを感じながら、月の衣装の女性の表情を一瞬たりとも見逃さない。

蕭炎の胸中で突然湧き上がる抑えられない怒りが生まれた。

この三年間、彼女は雲呂宗で快適な生活をしているかもしれないが、自分がどれほど死にそうな状況から這い上がってきたのか。

その苦しみを乗り越えるためには、彼女の存在がいつも背中にあるような気がする。

そして、彼女もそれを知らないはずだ。

毎回の修業の最中、蕭炎は忍耐力の限界まで我慢し続けたが、それはすべてこの女性のためだった。

しばらく経つと、突然凶悍な気配が蕭炎から爆発的に広がり出した。

その背後にいる海波東が「萧炎？」

と声をかけた。

海波東はその瞬間に彼の周囲に充満する激しい気配を感じて驚いたが、すぐに後ろから冷静な声で呼び止めた。

蕭炎は耳に届く海波東の言葉で我に戻り、深呼吸し、目を閉じながら「まさか……」とつぶやいた。

この三年間、目の前の女性が彼の心に刻まれた傷跡のように存在していることを思い知った瞬間だった。

薬老の優しい笑い声が蕭炎の胸中で響く。

ずっと一緒に修業してきた薬老は、その女性が彼の心にどれほど深い烙印を残したかをよく知っている。

その烙印は、彼女の尊大な振る舞いによって生じたものだが、それでも彼女は薫と同じくらい重要な存在だ。

「まさか……」

掌を黒衣の中に入れ、強く顔を擦り上げると、清潔な顎に赤みが浮かんだ。

蕭炎はようやく感情を整理し、冷たい目でその女性と隣り立つ老人を見つめ、心の中で問うた。

「老師、今の彼女の実力を探っていただけませんか？」

「できない」と薬老は返答した。

それを聞いた蕭炎の胸が一瞬で沈んだ。

驚きと共に叫ぶように「不可能？ なぜだ？」

と反応する。

老師の力量なら、その底を見抜くはずなのに。

三年間で彼女が斗皇級まで上昇したのか？



「無理なことを言っているのか？」

薬老は蕭炎の不自然な姿勢を見て哭笑を禁じ得ない口調でいた。

続けて彼女について語り始めた。

「彼女の周囲にエネルギー膜が存在するからだ。

その膜が私の霊力の探知を遮っている。

経験から見て、あれは何か特殊な道具を身に着けていると判断できる。

だから心配する必要はない。

いずれかで実際に戦う機会があれば、彼女の本当の実力を確認できる」

「ふぅ」その言葉に蕭炎はようやく安堵し、胸の奥底に溜まっていた感情（落ち込んでいた）を抑えて隣にいる海波東に目を向けた。

「大丈夫だ」

「どうしたんだ？」

月袍の女性が視線を向けると同時に、海波東も驚いてその少年を見つめた。

彼女はこれまでに蕭炎がこんなに感情を露わにする姿を見ていない。

「特にない」曖昧に首を横に振った蕭炎は顔を上げて部屋を見渡した。

先ほどの突然の気配から多くの視線が自分たちに向けられていた。

その中で、清冷な目ヂカラと驚きが交錯する視線を感じた瞬間、彼は再び胸の奥底で沸き上がる怒りを抑えようとした。

「もういい」そう言い残し、海波東は月袍の女性に視線を向けながら歩き出した。

その背中から振り返る月袍の女性の視線が、不意に彼女自身の過去の記憶と重ね合わされた瞬間、胸の奥底で再び沸き上がる感情（苦痛）を感じた。

「一体何事か？」

葛葉は月袍の女性に問いかける。

その答えを待つ前に、薬老が部屋から出て行った。

月袍の女性は不思議そうに顎を傾げながら、隣にいる少女を見やった。

「この二人は昨日あなたが犯した人達か？」

「えぇ」少女は恥ずかしそうに頷いた。

その視線が再び月袍の女性に向けられた瞬間、彼女は突然奇妙な想い（敵意）を感じた。

しかしすぐにその感情を払拭し、隣にいる別の人物を見やった。

「この二人の実力は見抜けるか？」

月袍の女性は葛葉に尋ねた。

葛葉は首を横に振って回答した。



「お嬢さん、あなたは私のこの古びた骨をあまりにも過分に評価しているわね」そう言って葛葉が苦しげに笑いながら首を横に振った。

その濁りの目は鷹のような鋭さで二人のゆっくりと近づく人物を見つめ、嘆息した。

「この二人、私は彼らの内情も見分けられないほど実力が上回っているわ。

明らかに、彼らの力量は私よりも遥かに優れている」

葛葉の言葉を聞いた瞬間、ラン・ヤンランの麗しい顔に驚きの表情が浮かんだ。

三年前の今では、かつての七星大斗師である葛葉は二星斗霊まで上昇し、古河長老の薬品も助力となったが、それでも現在の実力は強者と呼ぶべきものだ。

そのような人物を評価する存在がいるということは、彼らの力量は少なくとも五星あるいは七星斗霊を超えるに違いない

「先生はやはり正しいわね、このガーマ帝国には隠れた強者が数多く存在するわ」ラン・ヤンランは心の中でため息をつく。

もしもその強者と交流したいと思うならば、しかし蕭炎の二人の服装を見れば、彼らが意図的に身分を隠していることは明らかだ。

そのためラン・ヤンランは自ら進み出さないことにした。

自分たちの立場を考えれば、それだけでは不十分なのだから

「薔薇姉妹、ふふ、申し訳なく思っているわ。

最近家族で忙しいので貴客を待たせてしまったわ」突然、朗々とした笑い声が響く。

次に顔見知りの青年が笑みを浮かべて入ってきた。

ラン・ヤンランに対して親しげに近づいてくるその人物は、三年前、ラン・ヤンランと共に蕭家へ来た際に家族の花痴女たちからも憧れられた若き俊傑だった

「ふん、今日はこの空気感が良いわね。

この三人がまた集まっているなんて」萧炎が首を横に振り、内心で冷笑道。

「墨黎師兄は過分に丁寧だわ」

「墨黎先輩の謙遜は不要よ」ラン・ヤンランは笑顔を見せたが、その表情には変化はない。

墨黎の瞳孔に浮かぶ熱意を無視した

墨黎の目から失望が一瞬で消え、彼は笑いながら言った。

「薔薇姉妹、今一緒に墨家へ行こうよ。

ちょうど通り道だから」

ラン・ヤンランは僅かに迷った後、微笑んで頷いた

その姿を見た墨黎は内心で喜びを隠せない。

数年の付き合いがあるとはいえ、この結果が他の人間なら断り返されるところだ。

彼は自らの修業天分と家柄の美形を武器に、この未来の雲嵐宗主を掌中に収めようとしている

「もしも彼女が本当に私のものになった日には、このガマ帝国の頂点に立つ者など誰一人として私を上回らせまい」という思いが胸中でくすんだ墨黎は、突然目の前にゆっくりと近づいてくる蕭炎たちを見やった。

先日の族叔からの報告を思い出した墨黎は急いで数歩進み出し、笑顔で彼らを迎えようとした。

その墨黎の動きに気付いたナルラン・ヤーナはわずかに興味を持ち、目を向けていった。

この二つの謎めきな黒衣の人々について、彼女もまた少しだけ関心を持っていたのだ。

「ふふふ、二位、私は墨家・黒梨です。

昨日、私の妹が二位に失礼したことを父上が伝えさせました。

もし許せられれば、今日は墨家の喜日なので、ぜひご一緒していただけませんか？」

と黒梨は誠実そうな笑顔を浮かべて言った。

「まあ、彼の言葉遣いは完璧だ。

誰もが好感を持ちそうだが、そのうちの一人である蕭炎にとっては効果はない」

歩み止めた蕭炎は、目の前の黒梨を見つめながら皮肉な表情を作り出した。

「もしも知っていたら、この『先生』と呼ばれている男がかつて自分が一晲で片付けるような無能な貴公子だったなら……その顔がどれほど変わるだろうか」

冷ややかな笑みを浮かべた蕭炎は首を上げて淡々と言った。

「案内する必要はない。

我々の目的は墨家への行き先だ。

おそらく間もなく、黒梨家の長男が彼らに会いに行くだろう」

そう言い終えると、蕭炎は黒梨の前を通り過ぎ、二人は門外へと歩き出した。

やがて人目につく通りから姿を消した。

門の脇でナルラン・ヤーナは眉を顰めながらつぶやいた。

「なぜその声に似たような気がするのかしら」