闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0386話 丹火の技

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眼前に現れた藍色の衣装をまとった青年。

乱れ髪は肩まで垂れ下がり、顔には一筋の怠惰な表情が浮かんでいた。

背筋は伸びており、白山のような類まれた美形ではないものの、温かい印象を与える容貌だった。

人畜無害な笑みを浮かべたその顔は、人々に警戒心を下げる効果を持っていた。

「君が蕭炎か? 玉の表弟だね?」

藍色の青年を見ながら、彼もまたニヤリと笑みを返した。

「うん」白山のような険しい表情を見せなかったため、蕭炎は僅かに頷いた。

「フフッ。

仲間同士さ。

大丈夫だよ。

蕭炎兄貴、試合が始まるまでには手加減するからね。

怪我させたら玉が怒って、あいつも大変だから」萧炎の頷きを見ると、陸牧は笑みをさらに広げて熱心に言った。

「えーと…前五位への興味もあるんだ。

陸牧兄貴はまだ賭けたい?」

蕭炎は軽く笑いながら尋ねた。

「咳咳、兄弟よ。

まずは地に足をつけた方がいいさ。

前五位なんて僕も自信がないんだ。

薛崩を倒したのは確かだけど、あれは選抜試合の中では中流の実力だよ」陸牧の頬が赤くなり、咳払いしながら笑った。

その直ぐに炎は笑みを浮かべた。

この男は率直だ。

白山のような冷酷な性格ではない。

「始まりました!」

中年の審判席から手を上げ、声高らかに叫んだ。

「陸牧兄貴! 萧炎を叩き潰せ!」

「彼が学院の強さを見せつけろ!」

「…」

審判の言葉が途切れた瞬間、場内からは応援の声が沸き上がった。

しかし、その多くは男性の声だった。

だが、それらの熱狂的な叫びに反して、女性陣からは不満の声が漏れ始めた。

昨日の蕭炎の実力を目の当たりにした者も多かったし、彼の容姿も決して見劣りしなかったからだ。

背丈と顔立ちは整っていて、多くの少女の視線を集めることもできた。

「フフッ。

この男は女の子にも人気があるみたいね。

たった一昨日で既に応援が集まってるんだもの」若琳指導員が口元を押さえながら笑い声を漏らした。

隣では別の女性も軽く頷いていた。

「蕭炎! その男を叩き潰せ!」

玉は赤面しながら両手で口を覆い、大声で叫んだ。

場内の二つの応援の声が交錯する中、炎はため息と共に首を横に振った。

陸牧を見上げながら肩をすくめると、背中に重ねていた玄重尺の柄をゆっくりと掴み始めた。

「シュッ」という音と共に重尺が空気を切り裂き、斜め上方向へ向かって伸びた。

その動きは一瞬で終わり、蕭炎の全身を包む青い斗気の波紋が広がり、雄々しい気配を放ち始めた。



「陸牧学長。

どうぞ!」

蕭炎の体内から湧き上がる雄大な気配を感じ取った瞬間、陸牧は一瞬で表情を引き締めた。

指先に光が走り、鉄の剣が空中を切り裂くように飛び出した。

剣先を軽く上げて蕭炎を指し、「この勢いなら大斗師級か? 昨日薛崩を破ったのも納得だ。

修業天分は尋常じゃないな」と真顔で告げる。

「前五名の座も気になるから、全力を出させてもらう」陸牧の言葉が途切れた直後、彼の体からは蕭炎と同等の圧倒的な気配が爆発し、赤い光の塊となって全身を包んだ。

遠目には燃えるような炎のようだ。

場中は外界の騒音を遮断し、二人の視線が交差する。

呼吸のように刻々と変化する周囲の斗気——

突然、両者の動きが止まった。

軽い風が吹き抜ける瞬間、緊張が最高潮に達した。

次の瞬間、空気が爆発し、金と鉄の音響と共に火花が飛び散った。

観客席からは一黒一藍の影しか見えず、重厚な呼吸音だけが残る。

石板は激しい衝撃で次々に割れ、その度合いから二人の実力差は読み取れない。

場中では蕭炎が重剣を大きく振り回し、広い刃先で風を切り裂く。

未だ接触していない面まで鋭い気圧波が石板を粉砕する——その凄まじさからも彼の実力は窺える。

一方陸牧は鉄剣を蛇のように蠢かせ、蕭炎の重剣と決して接触させない。

たまに触れても即座に引き離し、力を伝えないように調整している。

場内では気配が激しく交錯し、時折光線のようなエネルギー波が広がり、周囲を掃除しつくす。

「この防御は完璧だ。

私の剣速でも体に触れない」陸牧の鉄剣が疾走する度に残像が現れ、赤い気配で彩られる。

しかし重剣の広大な刃先は瞬時にそれらを遮断し、堅固な材質で全てを弾き返す。

戦闘が続くにつれ陸牧の表情から弛緩が消え、代わりに真剣さが支配するようになった。

蕭炎の実力は彼をも緊張させたのだ。



「ふう」長く息を吐いた。

陸牧の足が突然後退し、その体が前傾した。

体表の炎色斗気は瞬時に鉄剣の中に流れ込み、たちまち寒光閃々の長剣は灼熱の炎剣へと変貌した。

顔の筋肉がゆるむと共に頬を赤く染める。

陸牧の腕が突然震え、関節から清澄な雷鳴が響き、火剣も鋭く突き出された。

灼熱の気流が空気を切り裂き、ほのかに焦げ臭い匂いを放ち始めた。

相手の長剣の変化を見た瞬間、蕭炎の目が鋭く引き締まった。

玄重尺の柄を握りしめると同時に低く叫び声を上げ、その巨斧は黒い壁のように眼前に立ちはじめた。

「ドン!」

炎色長剣が黒巨斧に突き刺さった。

清澄な剣鳴きと共に剣先が突然折れ、長剣は尺身から外れ、灼熱の冷光を放ちながら蕭炎の握る腕に斬りかかった。

その蛇のように柔軟になった長剣を見て、蕭炎も一瞬驚いた。

しかし手首から巨斧を離し、体は後退せず、むしろ猛然と前へ突進した。

巨斧から離れると、蕭炎の体内で押さえつけていた斗気が洪水のように奔流し、速度が幾何倍にも跳ね上がった。

その黒影は驚愕の陸牧をすり抜けると同時に、肘を猛然と下ろして後腕に叩きつけた。

瞬間、炎色長剣が手から離れ、陸牧の腕も完全に麻痺した。

「!」

長剣が落ちる音と共に、狼狽する陸牧は地面で転がりながら炎の一歩を回避した。

一撃無効だったため、蕭炎はようやくゆっくりと振り返り、驚愕の表情を浮かべた十一歩後退した陸牧を見つめた。

瞬間的な激戦が突然緩んだ。

観客席の生徒たちが転がるような陸牧を見て、皆呆然と見入っていた。

「すごい速さ!すごい力!」

左手で腕を押さえながら、頬を震わせた陸牧は手を振りながら驚きを表現した。

蕭炎は笑みを浮かべて玄重尺のそばに歩み寄ったが、手首は触れないようにしていた。

「あーあ。

本当に小看してたね。

本気を見せないとダメだよ」

陸牧がため息をつきながら両手を服から出すと、炎色の目で蕭炎を見つめた。

「君も知ってるはずさ。

私のもう一つの顔は煉金術師。

得意なのは火じゃなくて……」

頬に笑みを浮かべた陸牧が腕を震わせると、深藍の炎が瞬時に掌から溢れ出し、彼の顔まで虚幻化させた。

蕭炎の目に驚きが一瞬揺れた。

これは獣火だろうと同時に、陸牧の言葉は奇妙な違和感を覚えた。

「萧炎さん、気をつけなさい。

私の藍晶炎は以前にも斗士を負傷させてるんだ」

笑みを浮かべて顔を上げた蕭炎が、陸牧の自信満々な表情を見つめながら頷いた。

無数の視線の中で白い手首から黒い布地が伸び、

「藍学長さんごめんなさい。

私の得意技も斗気じゃなくて……」

と笑みを浮かべた。



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