闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0495話 登場

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山頂の稜線を、黒い人影が稲妻のように駆け回る。

足元に薄く銀色の電光がちらつくように、巨大な黒尺を振り下ろすその動作は風切り音を立てながらも、人間離れしたしなやかさを湛えている。

その巨斧のような武器は、彼の手の中で剣のように軽やかに舞い回り、圧倒的な力と機敏な動きが同居する。

「嗤!」

突然、その巨大な斧身が鋭く劈き下ろされた。

鋭い風切り音が空気を裂き、淡い青色の光がその周囲に渦巻くように広がる。

その光は炎のように燃え立つように見え、斧身から放たれる熱気が肌を灼く。

黒尺が激しく劈きつけた先端には、堅固な青石が存在した。

その衝撃で爆発音が轟き、硬質な石材が粉々に砕け散る。

瞬間のうちに半身ほどの巨岩は山頂から完全に消え去り、無数の破片が四方八方に飛び散った。

「ふう」

重斧を構えたまま息を整える彼の顔には頬が赤らみ、深呼吸でその色が薄らいだ。

息が落ち着くにつれ腕の筋肉から力が抜けていくのが見て取れる。

緊張した体勢から解放された瞬間、軽やかな笑みが浮かんだ。

当日行われた「洗髓煉骨」は彼の力量をほぼ二倍に引き上げていた。

全身の骨格が鋼のように強化され、筋肉の動き一つにも潜在する力を感じ取れるようになった。

この功法によって、彼の敏捷さや神経反射も以前より数段上達していた。

「洗髓煉骨」による力量向上と同時に、現在は斗霊級に到達したことで体内的な変化が顕著だった。

かつて「三千雷動」を発動する際は十数分の持続が限界だったが、今はその時間帯が五倍にも伸びていた。

これは大斗師と斗霊の間にある明確な差異を物語っていた。

「斗霊の感覚はどうだ?」

空に浮かぶ薬老が笑顔で尋ねた。

「確かに階級が違うわ。

この違いはあまりにも巨大だ」彼は頷きながら答えた。

以前の自分なら、仮に『佛怒火蓮』や『青蓮地心火』という奇異な能力を持ち合わせていなければ、単なる大斗師では三星斗霊相手に惨敗する運命だった。

しかし現在、この新たな力量を体感したことで、彼は以前の越級戦への挑戦精神に改めて驚嘆していた。



「今や斗霊に進み、『炎決』の奇異なる性質を活かせば、普通の二星乃至三星斗霊と正面から戦えるかもしれない。

さらに『天火天玄変』を発動させれば、白程のような強者と渡り合うことも可能だ。

そう考えると、私の実力は既に『強榜』への参加資格を得ていると言えよう」

拳が時折締まる。

その中に籠もる強大な力を肌で感じ取っているからだろう。

蕭炎の口許が自然と緩んだ。

内院入り半年余りで最上級の難関である『強榜』に名を連ねられるとは、この達成感は彼自身を誇らせるほどだった。

ここ内院には修練天賦においても外では天才と呼ばれる者ばかりが集まるのだ。

その中で這い上がってきたという事実自体がどれほどの困難を伴ったことか。

伸び足を伸ばし、林海を見下ろす蕭炎はしばらく黙考した末、眉根を寄せた。

「この深山での修練も二ヶ月余りだ。

そろそろ内院に戻る時期だろう。

林燁が語った『強榜大戦』も近いはずだ。

もし十位以内に入れば、『天炎煉気塔』の下層部に進める資格を得られる。

なぜかと言えば、あの噂の『本源心火鍛体術』と『落炎』には何か関連がある気がする」

「その天炎煉気塔は確かに謎めいた存在だ。

私の霊力でもそこから外に出せないほどで、潜入偵察は無意味だが……それでも下層部に強者たちが警備しているのは感じ取れる。

それを無理矢理突破しようとしても、二星斗霊程度では到底不可能だろう。

我々が『落炎』の塔内での状況を詳しく知らない限り、その深層部まで潜入する必要はないと考える」

ため息と共に手のひらで額を押さえた蕭炎は、困り顔でつぶやいた。

「本当に面倒くさい」

蕭炎の苦々しい表情を見た薬老もしかめ顔になった。

「こればかりは仕方ない。

ガナン学院は大陸でも屈指の名門だ。

一流勢力ですら無闇に触れるのは危険な存在だ。

ましてや私は現在霊体状態とはいえ、かつて全盛期だった頃でさえも、この学院の物を奪おうとするなど、三度四度と計画を練る必要があった」

苦々しく笑み返す蕭炎は、深く頷いた。

「ここまで苦労してガナン学院に来たのは『落炎』のためだ。

だからこそ私はどうしても手に入れるつもりだ。

『炎決』の進化には異火が不可欠なのだ!」

南方を見据えた蕭炎の視線の先には天炎煉気塔が聳え立っていた。

しばらく経つと灼熱感が自然に消えていく。

ため息と共に肩を震わせ、紫雲翼が弾け出す。

羽ばたかせて黒い影は瞬時に山脈外へ飛び出し、遠くまで小さくなっていった。

内院から深山までの往復は蕭炎には三日間の飛行に及んだ。

もしこれが斗霊でなかったら、その距離を一気に辿り着けるとは思えなかった。



紫雲翼を慎重に収めた蕭炎は密林に降り立った。

周囲に人影が見えないことを確認した後、ようやく内院の輪郭が見えてきた方向へと駆け出した。

胸元の内院徽章で問題なく内院に入ると、視界に入る人々の姿を見て大きく息を吐いた。

この二ヶ月間、林修崖たち以外には誰一人会っていないことに気付いていた。

内院に入ったことで緊張がほぐれ、歩みもゆっくりと緩やかになった。

磐門がある新生区域へ向けてゆったりと進む。

巨大な黒尺を背負していないため、内院第一の煉薬師であることを知る者は誰一人いなかった。

約半時間かけて無事に新生区域に近づいた。

しかし越すほどに眉根が険しくなった。

普段ならば磐門のメンバーで固められているはずのこのエリアは、今は空虚だった。

新生区に入ると、さらに足早になった。

角を曲がるやいきなり大勢の人影が現れた。

先頭の人物を見た瞬間「阿泰!」

と叫んだ。

その声に反応したのは一瞬で、阿泰らは驚きの表情を見せた。

彼はすぐに喜びの色になり、黒袍の蕭炎を指差して叫んだ。

「頭!お帰りです!」

後ろからも「頭が帰ってきた!」

という歓声が響いた。

視線を阿泰たちに向けた瞬間、胸中で怒りが湧き上がった。

彼は足元を軽く揺らし、数十メートル先の阿泰の前に瞬時に移動した。

「競技場で何があった?」

「くそっ、やはり『白組』の連中にやられたんだ」阿泰たちの顔に怒りが浮かぶ。

「今朝琥嘉学姐が天焚煉気塔で練習していたら、白組が強引に侵入。

人数差を活かして追い出した。

争いになった際に彼らが侮辱したので、琥嘉学姐は反撃したが、隠れていた二人の斗霊級が現れ、学姐は重傷を負った」

「磐門の仲間が学姐を連れて戻ると、吴昊学長が怒りで白組へ直行。

彼によれば白程に挑発状を受けたらしい。

現在薰子たちも全員競技場に向かっている」

「頭!この白組は我々が斗霊級を持たないことをいいことに三度目の挑発だ」

「頭!もう我慢できない!戦わせてやれ!」

阿泰の後ろで仲間たちが憤りを込めて叫んだ。

蕭炎が手を振ると、罵声は途絶えた。

皆の視線が期待に満ちて彼を見上げる。

顔を引き締めながら黒い目元に殺意を宿めた後、彼は突然振り返り冷たく言った。

「行くぞ」

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