闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0587話 緩やかな変容

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眼前の**蛇女は妖艶で誘惑的な存在だった。

白玉のような肌が偶然にも露わになる瞬間、無数の男を狂気に陥れるほどの魅力があった。

だがその冷たい表情に少しだけ人情味があれば完璧だ——そう思えたのは、彼女が喜怒哀楽を表すことが滅多にないからこそ。

しかし、この蛇女がどれほど完璧であろうとも、蕭炎にとっては決して良いニュースではなかった。

この恐怖の存在は、かつての約束にもかかわらず、常に警戒すべき相手だった。

喜怒無常な美杜莎女王への警戒心は、薬老が眠りについた今や、より一層強くなっていた。

美杜莎女王が姿を現すと同時に、陨落心炎(ユンラクシンエン)がその存在に反応し、突然無形の炎が彼女めがけて襲い掛かった。

その灼熱は、彼女の実力でもわずかに顔色を変えさせるほどだった。

しかし女王は軽く手を振ると、体から七彩の光が溢れ出し、炎を押し返した。

彼女には異火はないものの、自身の強大な力を以て陨落心炎を制圧することができるのだ。

無形の炎を防いだ後、女王は周囲の環境に違和感を感じた。

無限の岩漿と、その外側に広がる陨落心炎を見つめながら眉をひそめる。

特に彼女の視線が炎に注がれた瞬間、冷たい表情が険悪なものになった。

「異火か?」

「ふっ、女王様には申し訳ない。

貴方の存在を忘れてしまっていたようです……」突然笑い声が響き、女王の妖艶な目が青蓮に座る蕭炎へと向けられた。

その冷ややかな顔はさらに険しくなり、「吞天蟒(トンテンメイ)で脅すような男とは、好かれる存在ではない」という彼女の本音が滲んだ。

女王の冷たい視線を感じ取ると、蕭炎は無意識に体を後方に傾けた。

この女への警戒心は常に根強いものだった。

かつては薬老がいた頃なら多少の自信があったものの、今はその眠りから目覚めぬ限り、彼女の手で簡単に抹殺されてしまう危険性があった。

女王の白玉のような完璧な身体を一瞬だけ視線で追うと——男としての本能は、この致命的な美女蛇に惹かれる欲望を生んだ。

その完璧無欠な顔立ちや、冷たい表情が逆に心をくすぐる。

男というのは、得られないものほど欲しくなるという性質だ。

眼前の蛇女はまさに「妖艶で天性の魅力を持つ」という言葉そのままだった。

蕭炎の視線が瞬時に逸らすと同時に、女王は唇を歪めて冷ややかな笑みを浮かべた。

「目も取りたいのか?」

萧炎は無理やり笑い声を返したものの、反論する余裕はなかった。

この喜怒無常な女が不機嫌になった瞬間に、彼の運命はまたしても危うくなるのだ。



「ここはどこだ?」

指先を振ると、七彩の輝きが微かに膨らみ、美杜蒂女王**の裸体を赤い衣装で包み込んだ。

長い手足で額前の一筋の青髪を梳きながら、彼女は淡々と尋ねた。

「うーん……」炎修一は首を傾げてから、自身たちの状況を簡単に説明したが、最後に言葉を発する際には、美杜莎女王**の眉がゆっくりと逆さになったことに気づき、声も小さくなった。

「本当に後悔しているわ!」

銀歯を嚙み締めながら震える体で、彼女は叫んだ。

この男が自分をこんな死地に引き込んだなんて……清蓮地心火での進化後に得た強さにもかかわらず、再び身体を支配した瞬間に、この炎の底力に恐怖を感じていたのだ。

しかし、目の前に虎視眈々と待ち構える異火の存在がさらにその怒りを増幅させた。

「えっと……」炎修一は照れ笑いを浮かべて言った。

「ここには来たくなかったんだよ、女王陛下。

どうせなら、この炎を突破して脱出する方が現実的でしょう?」

美杜莎女王**の冷たい表情は変わらなかったが、彼女は炎に視線を向け続けた。

やがて指先から七彩の光線が放たれ、炎の上に轟きつけられた。

しかしその強烈な攻撃は、炎の表面に僅かに渦巻きを生むだけだった。

自分の一撃が全く効果を示さないことに気づいた彼女は、目元に陰りが浮かんだ。

先ほどの攻撃は全力ではないものの、侮れることではなかったはずだ。

しかし……炎修一の声が聞こえた。

「ここは陨落心炎が生まれた場所です。

この地からは途絶えることなくエネルギーが流れていますから、突破するのは容易ではありません」

美杜莎女王**の眉がさらに逆さになった瞬間、炎が不満げに膨らみ、無形の炎の塊が彼女めがけて襲いかかった。

その恐怖の高温で、彼女の体表の七彩光は徐々に薄れ始めた。

身体の斗気を燃やされて薄くなりつつあることに気づき、彼女は奇妙な印結を作り、七彩の光を爆発させた。

炎の塊が跳ね返る直前、さらに多くの無形の炎が突然現れ、彼女の全身に襲いかかった。

顔色を変えながらも、彼女は七彩の斗気を縮め、臨身する炎と均衡を取った。

「体の中のその老人は?出てきて!貴方の力だけではこの異火は破れないわ」

数分間の膠着状態を経て、美杜莎女王**が炎修一に視線を向けた。

炎修一は苦しげに肩をすくめた。

「先生は眠っています」

「くそっ!」

その言葉にさらに激しくなったメドゥーサ女王は掌を上げ、掌の上で七色のエネルギーが渦を巻きながら。

その様子から彼女が一撃で蕭炎を殺そうとしているのが見て取れた。

「俺を殺しても出てこられないんだ」ここまで来たらこの女に怯えても意味がないと諦めて、萧炎は手を広げた。

「本王はこれまでどんな危険も経験してきた。

この異火が私を留めようとするなど簡単にはいかない」

メドゥーサ女王は冷ややかに笑み、その身を一瞬で動かすと炎の縁へと現れた。

彼女の手からは恐怖の風が急速に膨らみ、陨落心炎に猛然と叩きつけられた。

「ドン!」

低く響く音が周囲に広がり、蕭炎の額から汗が滲む。

この凶暴な女が陨落心炎を破れば岩漿の海が押し寄せてくるだろう。

彼女は恐れなくても、自分の力では長くもたない。

恐怖の気圧が炎に叩きつけられると、その上に凹みが現れたが、ゴムのような柔らかさでゆっくりと元に戻った。

陨落心炎は確かに無限の力を秘めているのだ。

しかし、この凄まじい攻撃にも大きな効果はなく、メドゥーサ女王の表情はますます険しくなった。

この危機の深刻さは彼女の想像を遥かに超えていた。

「本王は信じない!」

冷たい美しさの中に殺意と氷のような寒気を湛えた彼女が両掌で光をさらに強めようとしたその時、陨落心炎は突然玉のように輝き始めた。

そこから二つの幽々の緑色の光が浮かび上がり、怒りに満ちた異様な叫び声が蕭炎とメドゥーサ女王の耳に響いた。

陨落心炎のこの変化を見て、萧炎は胸を重く感じた。

この愚かな女はそれを怒らせてしまったのだ

メドゥーサ女王はその二つの光を目で追うと、突然表情が変わった。

白い頬が異様な赤みに染まり、彼女の体から白い霧が滲み出てきた。

「くそっ!これは一体何だ?いつの間にか体内に入ったのか?」

胸元を手で押さえながら銀歯を嚙むと、彼女の体内で山のような気力が爆発し、突然現れた炎を包み込んだ。

その異様な表情を見た蕭炎はすぐに悟った。

数秒後、確かに彼の体に激しい心火が広がり始めた

この心火は非常に濃厚で巨大で、瞬間的に全身を覆い尽くした。

すると体表の青い炎は全く効果を失っており、その熱さは蕭炎の体内から溢れ出していた

「本当にやばいことになったわね……」体内に広がる灼熱の痛みに耐え切れず、蕭炎は苦しげに笑みを浮かべた。

その激しい熱さが次第に体全体を包み込むにつれ、彼は自分が溶け出す寸前まで近づいていることを悟った。

「くそっ!この炎め」

意識が朦朧とする中、突然耳に届いた悲鳴の主を目覚めさせた。

目を開けると、メデューサ女王が頭を抱えながら苦悶の表情を見せていた。

その額先半分ほど上空には、虚ろな人影と蛇形の幽霊が炎の熱で絡み合っていた。

「この馬鹿女!陨落心炎は魂体に与える傷害が尋常じゃないんだよ。

完全に身体を支配できていない限り、その炎は直接魂を焼き尽くす」

もしメデューサ女王の魂が吞天蟒の肉体を完全に統制していたなら、この炎の特殊な灼熱効果は無力だったはずだ。

彼女の実力ならば、封じ込められようとも、この炎で煉成されるのは至難の業だろう。

しかし残念ながら、吞天蟒もメデューサ女王もこの身体を完全に支配できていない。

つまり二人は真の敵に遭遇したのだ。

この炎が全力で煉化する中、蕭炎とメデューサ女王は本当に死生の境地に立たされていた。



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