闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0771話 斬殺

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黒影が蜈崖の五名の長老を阻み止めたその瞬間、周囲の毒宗の強者たちもようやく我に返り、驚きと怒りを込めて叫んだ。

「蜈崖!お前らは一体何をしている!」

奇襲が失敗したことで、五人の顔色は明らかに暗くなり、怨念に満ちた目つきで蕭炎を見据えた。

その直後、彼らの身が猛然と曲がり、急いで万蝎門へ向けて駆け出した。

「逃げるつもりか?」

小医仙の灰紫の双眸は冷たい光を放ち、指先がわずかに動くだけで前方の空間が歪み始めた。

五人の動きがその歪みに阻まれ、速度が明らかに鈍り始めたその時、彼らの背後から鋭い風が猛然と迫ってきた。

その風は空間まで震わせるほどの力を持ち、小医仙が蜈崖の突然の裏切りにどれほど怒っているかを物語っていた。

背後の風を感じ取った五人は顔色を変えた。

小医仙がここまで手を抜かないとは思いもよらなかったのだ。

その勢いは明らかに彼らを即座に抹殺するつもりだった。

「ぶっ!」

三つの鋭い風が瞬時に迫り来る直前、蝎畢岩が冷ややかに笑み、身を震わせながら五人の背後に現れた。

杖の先端から吐き出された五本の毒芒は、その三つの風に向かって放たれた。

「嗤!」

凶暴なエネルギーが空中で激突し、次々と鋭い音を立てた。

そこには薄い煙が立ち上り、小医仙の怒りがどれほどだったのかが窺えた。

「ぶはー!」

煙の中から二つの深い灰色の光が電撃のように飛び出し、蝎畢岩の横を通り過ぎて先に反乱した二人の長老の背中に突き刺さった。

瞬間、彼らの衣が破れ、血肉が毒で腐食され始めた。

わずか一分足らずで白骨が現れ、二人は周囲の驚愕の視線の中で息絶えた。

残された三名の長老たちは、空から落ちる二つの白骨を見つめながら唾を飲み込んだ。

もし自分がその風に当たらせられていたら同じ運命だったかもしれないと思った。

「この女は……」

「ははあん、若いのに手が酷いわね」

「お前も毒宗の長老だというのに、こんな手段を使うとは」

蝎畢岩の顔は険悪で、小医仙が目の前で二人を殺したことに激怒していた。

その言葉には冷たい笑みが含まれていた。

「叛徒たちはこの結果になるのが当然さ。

もし貴門に裏切り者がいれば、お前の手口もこれより十倍残酷だろう」

小医仙の声は淡々としていた。

彼女の目線は蜈崖の方に向いていた。

「蜈崖よ、私はお前たちにもそれなりに接してきたはずだ。

毒宗の中ではお前も高位にあるのに……まさか裏切るとはね」

「ふん、あなたは知らないかもしれないが、私は古くから万蝎門の者だ。

先日毒宗に潜伏したのは、貴方の情報を得るためだったんだよ」

蜈崖は冷ややかに笑みを浮かべた。

「本来は毒殺する機会を探っていたが、貴方があまりにも警戒心が強いから仕方ない。

しかし今日は蝎老様が手を貸してくれるから、貴方は今日中に死ぬことになるだろう。

この毒宗はいずれも万蝎門の傘下となるさ」

「昨日の蜈蚣の動きは、あなたからの連絡だったのか?」

小医仙の背後に立つ蕭炎が軽く拍手をした。

「おもしろいねえ」

その言葉に反応して、蜈崖の目が一瞬縮まった。

彼女は険しい表情で蕭炎を見据えた。

「連絡用の蜈蚣をあなたが攪乱していたのか? 一体何者だ? 万蝎門と毒宗の関係には関わらない方がいいよ。

いずれ火に油を注ぐだけだから」

「ふん、やはり状況は深刻そうだね。

この万蝎門は貴方の毒宗に興味を持ち続けていたんだ。

今日貴方が動かなくても、いずれ彼らが攻めてくるだろう」

蕭炎は笑みを浮かべて小医仙の方に顔を向けた。

「一山不容二虎だものね。

万蝎門も出雲帝国の頂点を目指しているんだろう。

以前はその老人が閉じていたから表に出なかったけど、今や彼が出世したから状況が変わったんだ」

「まあまあ、五人の废物を引き抜いたところでどうする? 私が彼らを殺すのは簡単なことさ。

貴方の期待に応える必要はないわよ」

小医仙は冷笑しながら蝎畢岩を見据えた。

「一山不容二虎とは言え、毒宗の斗皇級戦士数では万蝎門に及ばないからね。

貴方は蝎老様に任せておけばいいんじゃない?」

「現在貴方の毒宗の斗皇級戦士は四人だ。

こちらには私がいる八名がいる。

もし蕭炎たちがいなければ、貴方の毒宗は危なかったかもしれないけど、残念ながら紫研と私は四人の敵を相手にできるわ」

蝎山は低い声で言った。

「メデューサ様はまだ動いていないからね。

彼女は未だに姿を見せない強者を待っているんだ」

「貴方の万蝎門がそんなに強いと思っているなら、試してみればいいさ」

小医仙も冷笑し、体内の斗気を洪水のように駆動させた。

「空間まで震わせるほどの圧力が周囲に広がり、空気が波打つようにゆらめいた」

「先日の一戦では勝負がつかなかった。

今日は私が本気で貴方の実力を試してみよう。

貴方が出雲帝国を支配する資格があるのかどうか、見せてもらおう」

蝎畢岩はその圧力を感じ取ると、杖を地面に叩きつけた。

彼女の駝背がゆっくりと直立し、同じくらいの強さの気魄が周囲を包み込んだ。

小医仙の放出した圧力を完全に遮断するまでだった

「あなたのような慎重な女は……」

小医仙は一切の言葉を省き、指先を動かすと爪が半尺にも伸びた。

「十本の短剣のように鋭い灰紫の爪が光り輝く。

その色から劇薬の匂いが漂ってくる」

灰紫の爪が空を軽々と切り裂く音は、細かな「嗤っ」という響きと共に聞こえた。

その鋭さは空気自体に亀裂を開けるほどで、見る者に圧倒的な威嚇を与える。

「用心せよ」

後ろの蕭炎に向かってそう囁いた瞬間、小医仙の身体が一筋の黒い線のように消えた。

その動きは光速を越え、蝎畢岩へと直撃する。

途端に天候が荒れ狂うように斗気の波紋が広がり、弱い者たちの呼吸さえも詰まるほどの異様な重圧が周囲を包み込んだ。

「おめでたい」

車先手を出した小医仙を見つめる蝎畢岩の目は冷たく、枯れた手が杖を握り締めた。

次の瞬間、彼の姿は虚ろな影のように消え、空気中を駆け抜けた。

その速度は虚像を残すほどで、見る者の視界を混乱させる。

二人の斗宗級の強者が彗星のごとく衝突する。

そのエネルギー放出は空間自体を震わせ、観戦者たちの息が止まった。

小医仙と蝎畢岩が激しく纏わり合う中、蝎山の目には冷たい光が宿る。

毒宗の強者を見つめる彼は手を振った。

「万蝎門の連中!殺せ」

その命令に応じて万蝎門の戦士たちが一斉に噴出する斗気は毒々しい臭いを放ち、毒宗の陣地へと突進した。

反撃に出た毒宗もまた怒吼を上げ、双方の軍団が激しく衝突する。

「ドン!」

蕭炎が一名の斗王級強者を震わせ退けた瞬間、突然二人の人影が現れた。

その目は怨みに満ちており、先程彼が彼らの襲撃を阻止したことに怒りを隠さない。

「小僧め、忠告にも耳を貸さぬなら、運が悪いと言えよう」

蜈崖が冷ややかに笑いながら周囲に赤黒い光を纏う。

顔の紋様はその狂気を増幅させた。

蕭炎は彼ら二人を見つめ、穏やかな微笑みで返す。

「自ら来てくれたなら、運が悪いと言える」

その傲慢な発言に蜈崖は怒笑い、隣の斗皇級強者は冷笑を浮かべる。

彼等は蕭炎が一星程度の斗皇であることを知り、自分たちが二対一で圧倒的と確信していた。

先程の五名の連合攻撃を耐えられたのは小医仙の助けがあったと考えていた。

碧緑の熱い斗気が蕭炎から滲み出す。

彼は戦場を見渡し、毒宗が劣勢であることに気づき眉をひそめた。

「早くこの二匹を片付けないと」



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