闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0806話 押し掛ける災難

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黒皇の門は、黒角域から来た強者や勢力の首領を収容するための極めて豪華な施設だった。

広大な玄関を入ると、その内部には広場のような巨大ホールが広がり、三人は思わず感嘆の声を上げた。

この黒皇の門、手のひらも外さないという言葉通りに豪華である。

現在、そのホールの中では人声が沸き立っていた。

人々は互いに知り合い同士や同じ勢力に属する者同士で分かれて座り、知らない者は一人でテーブルを据え付けている。

後者の席には黒角域の放浪者たちが座っており、彼らは実力も性格も独特で、些細なことで刃向あうことも珍しくなかった。

混乱という特徴はここでも健在だった。

この場に集まったのは黒角域の大半の強者と勢力であり、互いに敵対する勢力同士が顔を合わせればすぐに衝突が発生する。

解決策は単純明快で、鉄器の音を響かせながら真剣勝負を繰り返すのが常だった。

しかし規模が大きすぎると黒皇の門に隠された強者が動き出すだろう。

蕭炎三人は入口付近に立ち、時折凶暴な喧嘩が起こるホールを見つめながら周囲の観客たちの歓声を聞いてため息をつく。

この黒角域にはどこにも平和な場所がないのだ。

しばらくすると、眉目秀麗な侍女が三人に近づき、令牌をチェックした後、宿泊場所を案内するよう申し出た。

この施設は千人規模の収容力があり、居住区域は実力や勢力の格で天・地・人三段階に分けられていた。

蕭炎三人が滞在するのはちょうど中間の地級区域だった。

蕭炎はその区画分けに特に気にならなかった。

彼にとって重要なのは静かに薬煉をする場所さえあれば良いのだ。

まだ時間も早いので侍女の案内を断り、小医仙と紫研を連れてホールの中へ向かった。

二人はこの賑やかな雰囲気に興奮していた。

三人は騒がしいホールを通り抜け、窓際のテーブルに座った。

外には鬱蒼とした林があり、涼風が吹き抜けると周囲の喧噪が和らいだ。

着席するとすぐに侍女がお茶を運んできた。

その丁寧さは文句なしで、黒皇の門がこの場に集まる強者たちにどれだけ気を使っているかが分かる。



炎は椅に座り、茶碗を手に取りながら、灰袍の男の姿が脳裏から消えないことに集中してはっきりと回想していた。

灰袍が顔を隠していたため、その容貌すらも確認できなかったが、なぜか一種の曖昧な親しみを感じるという奇妙な感覚に陥っていた。

それは魂の感知能力が鋭敏であるからこそ生じた現象だとしか言いようがない。

「先ほど見た男は不思議な気配をしていた。

外見からは極めて弱いように見えるが、じっくりと感じ取れば、その中に一筋の異質な気味を感じられる。

この感覚はこれまで経験したことのないものだ。

少なくとも、あの灰袍の男は表面上に現れているだけでは済まない人物だと断言できる」

炎が眉をひそめて黙想している様子を見た小医仙は、その思考内容を察したように優しく言った。

炎は小さく頷いた。

確かにその男には普通ではない何かがあった。

しかし自分がこれまで出会った人々の中から、なぜこの既視感と違和感が生じるのか思い当たらなかった。

魂の感知能力でその男の霊性を探ろうとしても、まるで曖昧な霧に包まれたように詳細を掴めない。

長時間考え続けた末、炎はため息をついた。

「もしかしたら単なる直感だったのかもしれない」

そう自分自身を納得させた後、炎は心を閉じて小医仙と笑いながら周囲を見回した。

この騒がしい大広間にこそ必要な情報を得られるからだ。

耳を澄ませているうちに確かに多くの情報が入ってきた。

今回のオークションに参加する大勢の強豪の中に魔炎谷以外にも黒角域の古参勢力や、それ以外の地域からの強者も多数来ていた。

その中には「蕭門」という名前が頻繁に聞こえてきた。

初耳した時、炎は驚愕して数秒間固まったがすぐに笑みを浮かべた。

「あの偶然から生まれた勢力が二哥の成長とガラン学院の支援でここまで発展したのか。

まさか黒角域の一流勢力にまでなっていたとは」

「蕭門もこのオークションに出場するなら、おそらく黒皇閣に宿泊しているだろう」炎は心の中でつぶやいたが、すぐにその考えを断ち切った。

「今は黙って様子を見よう。

蕭門はまだ古参勢力には敵わないからこそ、控えめにしている方が得策だ。

もし何かあったら奇襲で助けることもできる」

聞き耳を立てているうちに最も多く聞こえてきたのは「菩提化体涎」に関する話だった。

今回のオークションではその秘宝が目玉の一つとして大々的に宣伝されていた。

ほとんど全員が知っているように、このオークションの最重要アイテムの一つだという。

炎は黙然と聞き流しながら、その情報を整理していた。



菩提化体涎という言葉が出た瞬間、人々の声は熱狂に満ちていた。

その理由は、後の天地霊物と呼ばれる菩薩心(ぼだんしん)を除けば、単なる菩提化体涎(ぼだいげたいせん)だけでも多くの人を誘惑するからだ。

この薬草を服用すれば身体の質が向上するという事実は、誰もが無視できない魅力だった。

人々は自らの身体が既に強大であると信じる者などほとんどいない。

「我々は本当に後手に回ったな。

ずっと探していたものが、ここでは誰でも知っているんだ」──そう言いながら、蕭炎(しょうえん)は小医仙(しょういせん)たちを見つめてため息をつく。

出雲帝国と黒角域を行き来する万里の道を半年かけて旅したにもかかわらず、その目的である菩提化体涎を見つけることはできなかったが、ここでは誰もがその存在を知っているのだ。

「小医仙は軽く笑い、『拍手会が始まるまであと三日だ。

この三日間でさらに多くの勢力や強者が集まるだろう。

黒角域の規模は出雲帝国や加瑪帝国とは比べ物にならない』と続けた。

黒角域は斗気大陸(とうきたいりく)の中心に近い場所であり、特殊な風土が数々の珍しい物資を引き寄せていた。

そこでは他国で換金できないような品も全て取引できるのだ。

「そうだ」──蕭炎が頷いた。

黒角域は偏僻地帯にある加瑪帝国とは比べものにならないほど活況だった。

彼は茶杯を置き、二人に笑顔を見せた。

「時間も遅いから今日は休もう。

明日こそ、手の込んだ薬草で何か作らなくちゃ。

あの拍手会ではそれなりの品を持っていかないと」

「うん」──小医仙が頷く。

三人は席を立ったが、その直後、ホールの反対側から大騒ぎが起こった。

十数人の凶暴そうな男たちが彼らのテーブルに近づいてくる。

彼らの腕には狼の紋様が刻まれていた──城門で偶然殺した連中も同じ紋様だった。

「ちょっと問題がありそうだな」──小医仙は軽く目を向けた。

「黒皇閣(こくおうかく)の強者が多いのは良いことだが、あまり隠れてばかりいると逆に危険になる。

今回は見せしめの機会かもしれない」

男たちがテーブルを蹴り飛ばすと、木片が飛び散った。

刀傷のある中年の男は鋭い目つきで蕭炎を見据えた。

「小 bastard(悪態)!城門で我がクイウオウバン(きゅうおうはん)の者を殺したのか?」



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