闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第0988話 再会!薬老!

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消痩した姿が天の涯に垂直に立つ。

動かないその体には、周囲を揺るがすような圧倒的な気魄が溢れている。

大陸の頂点と呼ばれる斗宗は、中州で活躍するための最低限の条件となる分かれ道だ。

現在の蕭炎がその域に達したことは、非常に強力な実績と言える。

空から降り注ぐ豪雨が天目山全体を包み込み、バリバリと音を立てながら連続する。

虚空中で背中を向けて立つ姿は、翼や骨の羽根を生えていない。

その様子こそが斗宗の象徴だ。

無数の視線が雨幕越しに空を見上げる。

天目山全体が静寂に包まれた時、雨滴が葉に当たる音だけが響く。

空高く、動かない姿は雨雲から半丈離れたところで霧散する。

その様子は、蕭炎の周囲に無形の壁があるかのように見える。

現在の蕭炎は目を閉じ、体全体に波紋のように広がる圧倒的な気魄で、彫像のように固まっている。

「どうしたんだろう?」

薬老が動かないことに金谷も驚きを隠せない。

金石はためらいながら言う。

「おそらく奇妙な状態に入ったのかもしれない…」

その言葉に金谷も一瞬硬直する。

彼の実力は蕭炎より上だが、今起こっている現象を見抜くことはできなかった。

「待てばすぐ終わるはずだ」

うんと頷いた二人が会話している間、空で目を閉じた蕭炎は眉根を寄せていた。

その眉心に長らく動きを見せていなかった火印から、ほのかな炎の輝きが滲み出していた。

この状態は初めてではない。

薬老が捕縛された際に残した痕跡だ。

かつて斗皇への突破時に、その記憶を辿って神秘的な大殿を見たことがある。

しかし当時は霊魂力が弱かったため、視界は曖昧だった。

過去の経験から、蕭炎は今起こっている現象を理解した。

彼は体内の霊魂力を凝縮し、火印の中へと突入した。

霊魂が火印に侵入すると、蕭炎眼前に黒々としたトンネルが出現した。

その先端を目指して、彼は霊魂力を集中させて駆け抜けた。

トンネルの長さは計り知れないが、過去の経験から焦ることなく慎重に進む。

霊魂を固めて次々と通過していく。



そのような行き来がどれほどの時間を要したのか、漆黒の通路の果てにようやく一種の圧迫感と陰気な波動が感じ取れるようになった。

その波動を感じ取り、蕭炎(しょうえん)の霊力は徐々に速度を落とし始め、間もなく慎重に通路の先端から飛び出した。

彼女の霊力が通路を抜けた瞬間、冷たい温度が周囲を包み込み、目に映じられたのは依然として巨大な漆黒の巨殿だった。

その規模は尋常ではなく、全体的に黒灰色で見るものを圧倒するような重苦しさがあった。

巨殿内には十数丈にも及ぶ黒石柱が無数に立ち並び、それぞれの柱面には奇妙な文字が刻まれており、微かな光を放ちながら陰気さを帯びた視線のように揺らいでいた。

蕭炎はその広大な空間を一瞬で見渡し、次の瞬間には別の方向に視線を向けた。

そこには無数の光球が輝いており、細かく観察するとそれぞれの光球内に閉じられた目を持った霊体(れいたい)が存在した。

以前にも見たことがあったが、その時は慌ただしく過ぎ去り、霊力も弱かったため詳細は不明だったが、今や鮮明に確認できた。

それらの光球外側には黒い鎖が首元を締め付けているのが判り、さらにその鎖の先端には巨大な異形石柱が連なり、それらの石柱は霊体から何かを取り込んでいるように見えた。

この光景に蕭炎は背筋が凍るような恐怖を感じた——魂殿(こんてん)はこれらの霊を何らかの養分として育成しているのか?

彼女は現在霊力のみで存在するにも関わらず、驚愕(きょうがく)という感情が込み上げてきた。

その衝動が一瞬続いた後、蕭炎は体内に残る火印(かんじ)の中に残された僅かな痕跡を探りつつ、慎重に巨殿内を探索し始めた。

この巨殿には魂殿の護衛すら存在せず、ただ陰気さと死の寂寥(じゃくりょう)だけが支配していた。

彼女は「奇妙で陰惨で死の地」という印象を与えられた。

思考が渦巻く中、蕭炎の視線は巨殿内の無数の光球を次々とスキャンし続けた。

すると突然霊力が僅かに震えた——その微かな変化が明確になった瞬間、彼女の心臓が一拍子早くなる。

意図的に速度を上げつつも過度な加速は避けながら、蕭炎は巨殿内へと向かった。

この場所にはかつて魂殿の尊老(しゅんろう)が警備に当たっていたはずだが、今はその存在すら感じられない——彼女は現在の自分ではあの斗尊級の強者と戦えるとは思えなかった。



霊魂の力が突然停止し、蕭廷は呆然と前方を見つめた。

そこには目立たない光球があり、その中で薄ぼんやりと浮かぶ老者の姿があった。

彼の顔は薬老そのものだった——皺だらけの面影が、確かに記憶に焼き付いていた。

首には黒い鎖が絡みつき、他の鎖よりも巨大で複雑な紋様を刻まれていた。

霊魂の力が激しく震え、蕭炎の胸中を駆ける昂ぶりを表していた。

より蒼白になった薬老の顔を見つめながら、彼は師匠が捕らわれた以来約三年間の苦難を思い出し、胸が締め付けられるような痛みと殺意に苛まれた。

自分が今日ここまで成し遂げられたのは薬老のおかげであり、師父のように慕う存在であることを改めて確信した。

霊魂の力は石台の上に浮かびながらも、慎重を期して蕭炎は姿勢を変えなかった。

彼は閉じた目を見つめ続け、薬老の生気を感じ取っていた——衰弱はあるものの深刻な状態ではないと判断できた。

その間、眠っている薬老が微かな感覚を得て、瞼がわずかに震えた。

苦闘した末にゆっくりと目を開き、呆然とした視線で虚ろな空間を見つめるようになった。

蕭廷の霊魂は歪み、光球の前に跪いた。

枯れ切った声で囁くように告げた。

「師匠、弟子は不孝です」

薬老が懸空する青年を見やると、涙が目尻に滲んだ。

彼の視線は光球越しに伝わる細い声を放ち、「小僧、お前はよくやった。

お前の弟子にしてよかった——この腐れ骨には最高の人生だった」

現在の状況にもかかわらず、薬老の目力は衰えていない。

彼は一瞬で蕭炎が霊魂のみであると見抜き、その一筋の霊魂が人形化できるほど凝縮されていることに驚いた——つまり、今や斗宗に昇級したと確信できた。

涙を滲ませながら低く告げた。

「師匠、安心してください。

すぐに助けます」

「お前にはその資格はない」

蕭炎の言葉が途切れた瞬間、冷たい老女の声が大殿に響き渡った。

同時に、圧倒的な威圧感が降り注いだ。

しかし蕭炎は動じず立ち上がり、後ろを振り返ると陰険な目つきで空間の揺らめきを見つめた。

そこには紫衣の老女が現れ、彼女の視線が一瞬だけ蕭炎に向けられた。

その時、彼女は懐かしい感覚を感じた——かつて見たあの霊魂の残滓と重ね合わせていた。

「あいつの霊魂だったのか……」

**紫衣老者**鋭い眼光を光の塊の中の**药老**に向け、冷ややかに笑みながら掌を上げた。

「お前はかつて本尊の**一筋の思念さえも受け付けられなかった**存在だ。

それが今やこの場所に戻ってきたとは…やはり成長したようだな」

「次回再来の際には、老師が過去に味わった苦しみを全て返すと約束する」**萧炎**は野獣のような眼光で紫衣老者を見据えながら言った。

その瞳孔に僅かに狂気の色が滲んでいた。

「希望してやる…」

紫衣老者の眉がわずかに動くと、掌を握りしめた瞬間、蕭炎の周囲空間が崩壊した。

彼の**思念**はその圧倒的な攻撃に飲み込まれて消滅した。

光の塊の中の**药老**は、蕭炎が強者たちに対しても怯まずにいることに安堵の色を浮かべた。

この数年の成長は確かに実りがあったようだ。

彼は弟子の次回の姿を想像し、今や思念ではなく本尊として再び現れるだろうと確信した。

紫衣老者の眉が険しくなった。

「蕭炎…」

静寂に包まれた大殿で、冷たい声が響き渡る。



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