闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1084話 敵を退ける

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氷河の視線は遠く虚空を踏む青衣の少女に鋭く注がれ、その驚愕は隠せない。

古族という謎めいた危険な勢力は中州で常に地味に活動するが、一定以上の実力を有する強者ならばその凄まじいエネルギーを知っているはずだ。

薰子の出現後、氷河は彼女の出自を推測したことはあったものの古族への関心を持たなかった。

なぜなら後者はあまりにも謎めいた存在であり、中州には類似の隠世勢力も少なくないからだ。

しかしいずれも氷河谷と同等の実力を誇る者もおり、宗門の規律により名を伏せているだけのこと。

もし彼らが本気で挑んできたなら氷河谷にも好都合な結果は約束されない。

「まさか古族の者とは」

氷河の顔色が微かに蒼白くなる。

斗破の勇猛さもここまで来れば、この謎めいた古族について多少の知識はある。

空間を開き自らを領域とするその条件だけでも他の頂点勢力は見劣りする。

今になってようやく悟った。

薰子が現れた時に出した言葉は虚言ではなかった。

古族の深遠な力を考慮すれば氷河谷を滅ぼすことも不可能ではないのだ。

白髪老者の視線は動かず、掌に染みる緑色の光が濃くなり続けた。

瞬間、雷鳴のような気配が掌に凝縮し、半尺ほどの緑色エネルギーの掌印となった。

その掌には無数の黒い痕跡が刻まれ、空間を支配する恐ろしい力が溢れ出している。

掌周辺の空間は一瞬で漆黒の亀裂へと変容した。

「ハハッ」

掌印完成を見た老者は鋭い眼光で氷河を睨みつけ、突然哄笑を上げた。

その瞬間、掌を猛勢で放ち、無数の奇妙な黒線が絡む異形の掌印は爆発的に前へ突進した。

掌印が現れた途端に天地のエネルギーが暴動し、天際の雲層までが翻弄されて渦巻き始めた。

帝印決の名を聞いた氷河の顔色は瞬時に引き締まった。

この時こそ言葉など無用だ。

まずはこの興に乗った老人の一撃を受け止めることだけが先決だ。

その考えが頭を駆け巡る中、氷河は牙を剥き眉心の黒い雪辱が不気味な輝きを放ち始めた。

体中に流れ込む無数の寒気が掌に凝縮され、次の瞬間には厚みのある黒い氷層が形成された。

その氷は特別な性質を持つわけでもないが異様な冷たさを感じさせる。

黒氷の掌を構えた氷河は足元を蹴り地面から跳躍し、一呼吸も待たずに異形の掌印へと突進した。

表情を引き締めながらその掌に全力の一撃を叩き込んだ。



掌随心动、その瞬間氷河の手が轟いた時、周囲の寒気が暴走し黒い氷の色は内包された深い闇と致死的な毒を連想させる。

人体に当たれば単なる**だけでなく体内の気力までも瞬時に凍結する。

「ドン!」

という巨響と共に、葉城の無数の視線が注がれる中で両大強者が天を駆ける星船のように空中で華麗に対決。

その衝突は驚異的な音響を生み出し天地に轟き渡った。

恐怖のエネルギー嵐が空から広がり百メートルにも及ぶ漆黒の亀裂が虚無空間の溝のように現れる。

その光景は天穹に開いた獰悪な口のようなもので見る者を凍えさせる。

エネルギー嵐の拡散と共に地獄の風が吹き荒れ街外側の森の巨木が根こそぎ引き抜かれ遠くへ飛ばされる。

末日の情景そのものだった。

「凄まじいエネルギー対決だ、斗尊級の戦闘はこんな光景になるのか…」

蕭炎も驚異の目で空上の空間亀裂を見つめながら呟いた。

ここでの空間は普段から安定しているがそれでもこの亀裂が生じるほど凄まじい衝突だった。

「ドン!」

とエネルギー嵐が広がり両者の身体が空中を蹴って後退する。

足の着地ごとに虚ろに黒い痕跡が残る。

白髪老者は十数歩後方で勢いを殺し氷河を見つめながら笑みを浮かべた。

「はは、この氷河谷の『氷尊勁』もなかなかのものだ」

遠くで氷河の身体が震えその動きを止めた。

掌がわずかに震える中で帝印決という古族秘術の威力に驚きの色が浮かぶ。

「どうぞお急ぎください、我々は時間がないのです」

薰子が言うと白髪老者は一瞬硬直し礼儀正しく応じた。

「その方、待ってください!」

氷河谷主の声で遠くから呼び止められた。

薰子は鼻を尖らせて冷ややかに笑った。

「どうせまた人質引き渡しを要求するのか?」

「天霜子、戻れ!」

氷河が叫ぶと苦闘中の天霜子が気を取り直して青海の傍から離れた。

氷河の前に現れた瞬間困惑した表情で尋ねた。

「今日のことは我が谷の過ちです。

何か申し訳ない点があればこの氷河に許してください」

氷河は天霜子を無視し古族秘術の威力に驚く白髪老者に向かって深々と頭を下げた。

その光景を見ていた天霜子は呆然と氷河を見つめた。

彼がこんな言葉を出すのは初めてだった。



「この人々は一体何者か?」

天霜子は一瞬で状況を読み取り、すぐに悟った。

もし相手がただの二名の斗尊強者だけなら、氷河谷にそのような反応は出ないはずだ。

明らかに、その謎めいた女性の背後に、氷河谷さえも忌み嫌う恐ろしい背景があると。

「氷河よ、貴様は何を企んでいる?この場を汚すつもりか」

天霜子が退避すると、青海は黒衣老者との対峙を諦め、慌てて逃げ出す。

氷河に向かって怒鳴った。

青海の怒声に反応せず、氷河は厄難毒休を得るためには最古族が必要だと悟り、躊躇なくその手を放棄した。

魂殿が古族を恐れるほどではないが、氷河谷にはその実力はないからだ。

薰子も氷河の急な態度変更に驚き、すぐに何かを考え始めた。

明らかに、相手は彼らの身分を知っているようだった。

「炎上さん?」

薰子は少し考えた後、顔を向けて炎上の目を見つめた。

その意思は明白だ。

炎上の決断を問うているのだ。

薰子の小さな動きも氷河たちには逃れられない視線で追われていた。

彼らは青衣の少女が最古族にしても炎上に従っていると悟った。

「この若者よ、厄難毒休のことだが、我々は勝手にやる」

氷河は目を合わせながら深々と頭を下げた。

炎上がちらりと見つめた後、笑みを浮かべた。

「谷主様の冗談でしょう。

そもそも誤解だったのですから、この通りです」

炎上の胸中では、氷河が優しくしているのは薰子のためだと分かっていた。

氷河谷の力は中州でも相当だが、薰子が最古族を動員するほどではない。

今日ここまで追い詰められたのは最高の結末だ。

いずれ実力を得たら、炎上自身で解決するつもりだった。

炎上の言葉に安堵した氷河は、しかし古族への警戒心は消えない。

薰子が現れたことで諦めるしかないのだ。

「葉城の教局は私が片付ける。

今日はこれで失礼します」

下方から注目される度に拳を握りしめながら、氷河は薰子を見つめた。

「この一件は些細な因縁でしょう。

今後の関係には影響しないよう願います」

薰子はその言葉の意味を理解し、笑みで応えた。

「私も同じことを願っています。

二度と起こらないように…次に訪ねるなら、氷河谷かもしれません」

氷河の顔が一瞬引き攣ったが、すぐに強がって笑いながら空間を歪ませた。

天霜子も後に続く。

青海は狼狽しながら逃げようとしたが、突然二つの影が現れ、肩を掴んだ。

「一体何をする気だ!」

青海の怒声に炎上は冷ややかに笑った。

「我々と氷河谷とは大きな因縁はない。

しかし魂殿との間には絶対に終わらない戦いがあるのだ」

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