闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1176話 魂殿の援軍

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虚無空間に響き渡る細かな破片の音と共に、その場にあった全ての動きが一瞬で停止した。

激戦を繰り広げていた幕骨老人と丘陵大長老も例外ではなく、不約束にもろもろ十歩後退し、視線を三千炎炎火龍の所在する方向へ向けた。

その注目を集める巨体は、虚空中に身を横たえた炎龍だった。

彼の鱗に刻まれていた黒い線模様は全て消え去り、封印解けたことで目から放たれる炎の輝きが若干暗くなりつつも、その中に宿る破壊的な凶暴さは場にいる誰一人として軽視できなかった。

「くっ!」

丘陵は封印を脱した炎龍を見つめながら険しい表情で呟いた。

彼は今やこの状況が非常に厄介だと悟っていた。

封印から解放された炎龍に対し、三大頂点の力を持つ者たち以外には対抗できる存在などいないことを知り切っているのだ。

「ふん!」

幕骨老人はその険しい表情とは裏腹に笑みを浮かべ、足を前に踏み出した。

彼は声を弾ませた。

「おめでとうございます。

我々が先日話し合った約束を果たすことは可能でしょうか?安心していただきたい。

貴方様が我が魂殿で一年間過ごされれば、必ず自由の身に返します。

その点は私が保証いたします」

幕骨老人の口調は、炎龍を強大な存在として扱っていることが如実だった。

確かに人智を超えた知性を持つこの炎龍もまた、それだけの価値があった。

「あの老いたやつが三千炎炎火と取引をしているのか?」

幕骨老人の言葉に反応した蕭炎らは心臓を締め付けられるような感覚に陥った。

彼らはこの状況がさらに複雑になることを悟りつつあった。

炎龍の巨眼が幕骨老人を見やると、その中に人間らしい狡猾さが一瞬だけ浮かんだ。

低く重い声が炎の口から漏れた。

「ああ、約束は問題ない。

ただしまずはこの世界を散策させてくれるなら、その後貴方の魂殿へ行く」

幕骨老人の顔が引きつり、笑みも消えた。

「つまり反ほりたいのか?」

「ふん!人間どもは皆同じだ。

信じろとでも言うのか?夢想してないでよ」炎龍の巨眼に冷たさが滲んだ。

彼は人類から受けた数々の屈辱を忘れていなかった。

魂殿という存在の強大さは知らぬものの、彼らが求めているのはただ本源の炎だけだと悟っていた。

幕骨老人の顔は完全に曇り、予想外の早さで反ほられたことに驚いていた。

丘陵もその状況を察し、蕭炎たちと目配せを交わした。

彼らは少しずつ距離を離し始めた。

もし幕骨と炎龍が衝突すればそれは最高の光景だ。

幕骨の力では炎龍に勝てないことは明らかだった。

激戦が続く間、外側で発生していた問題も解決に向かうだろう。

その後丹塔の強者たちが登場すれば、二人を同時に討ち取ることは可能かもしれない。



慕骨老人の眉がわずかに寄り添う。

彼らの真意は容易に推測できたが、今やそのような思考も許されない。

三千焱炎火は確かに強大だが、今日は必ず魂殿へと引き戻す覚悟だ。

「敬酒を飲まぬなら、老夫も遠慮なく斬るわ。

丹塔がお前を制圧できぬのは、この魂殿がお前に『生不如死』の地獄を見せてくれるからよ」

袖の中の枯れた手がゆっくりと開く。

その瞬間、老人の気配は凍りつくような厳しさに変わった。

「嗤!」

言葉を放ち終わるや否や、黒い影が空間を裂き、灼熱の風圧と共に首元へと襲いかかる。

突然の奇襲に老人も驚き、身を翻して十数丈離れた。

その目は龍尾を振り回す三千焱炎火を見据え、掌を開くと銀色に輝く玉璽が現れる。

瞬間、それを握り潰した。

玉璽の砕けた途端、極めて強大な空間力が爆発的に溢れ出し、その歪みは次第に一条の亀裂へと変容する。

そこからゆっくりと三体の黒衣の人影が現れる。

彼らの周囲には嵐のような気配が広がり、巨眼の炎火もその重圧に眉をひそめた。

「魂殿尊老!」

突然現れた三人の姿を見て、蕭炎の顔色が変わった。

老人がこんな手駒を持っていたとは予想外だった。

特に彼らの実力は老人と並ぶもので、四名の斗尊という構成は中州でも一流勢力には到底及ばない。

「空間玉簡…この魂殿は三千焱炎火のために準備を怠らなかったな」

丘陵が険しい目つきで三人を見つめる。

その時、蕭炎は瞬きもせず視線を移す。

老人が捏碎した物体の正体は明らかだったが、現在はそのことに興味を持たない。

四名の強者に囲まれた今、炎火がどう対処するかが最大の関心事だ。

「三千焱炎火は確かに丹塔三巨頭と互角だが、それは『封印』ではなく『殺害』とは別の話よ」

炎火の巨眼からも緊張が滲み出る。

丘陵が牙を剥くように笑う。

「異火は煉薬師にとって至宝だ。

数千数万年の歳月をかけて成り立ったものに、簡単に滅ぼすなど暴挙とは言えぬ」



当然、丹タ三頭首が星域を築いて三千炎炎火を封じ込める苦労も辞さないのに魂殿はそうした好意には応じず彼らが手に入らぬ物は他人にも与えぬ性質だ。

「ムコク、お前は本当に遅いわね三人待たされてようやく空間印を受信した」

空間の亀裂から現れた三つの影の一人が嗄れた声で言った

「丹タが三脚猫とでも思ったのか?」

ムコク老人が眉をひそめ冷たく答える

「余計なことはいい。

時間がないんだ。

外乱が収まったらダンタの三頭首が這入ってくるだろう我々4人ではあの3人に勝てないからだ」

「早くやれよ。

この作戦は殿主様が重んじているんだ。

もし失敗すれば皆苦しみそうよ」

別の黒服男も淡々と言った

その言葉に他の三人は黙りムコク老人の顔が震え目から恐ろしさが滲む

「始めるぞ計画通りに動け三千炎炎火の本源の炎を取得すれば我々の任務は完了だ」

深呼吸してムコク老人が陰険な目つきで遠くの蕭炎らを見やる。

彼への殺意は強いけれど今は復讐の時ではないため胸中で抑え込む

「結界、三千炎炎火が星の力を取り込まないように阻絶せよ」

ムコク老人が冷たく叫び先に飛び出した他の三人も四方から広がり巨大な炎を包み込む

「万霊吞霊陣!」

四人の口から冷たい声が同時に響き広大な空間を覆う不気味な黒い霧が溢れ出すその中に異様な寒さと鋭利で悲惨な叫び声が聞こえる

その霧が周囲に広がるにつれ侵入していた星の力は完全に遮断された

「くっ!」

三千炎炎火が怒りを込めて咆哮する。

先ほど封印から解放されて初めての自由だったのにまた暗闇と睡眠に戻されるのかと抗う

「プッ!」

巨口を開き紫黒い炎の柱が噴出空間に歪みが生じる

「バシャーッ!」

その猛反撃を受けた四人は顔を引き締め手印を素早く変える冷たい霧の中から鈍い金属音が響く

「チィ、トゥッ!」

霧が揺らぐと太腿ほどの黒い鎖が100本以上暴れ出し炎の柱を貫き巨蟒のように広がって網を作り三千炎炎火に絡みつく

「畜生!道を選ばず死ぬ気で突っ込むとは老夫はお前に恩をやる」

鎖が暴走する中ムコク老人の目が鋭く光った冷たい叫びが響く

「万霊天鎖!」



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