闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,214 / 1,458
1200

第1258話 悲惨な末路

しおりを挟む
摘星老鬼の切実な叫びを聞いた瞬間、蕭炎は一瞬硬直したが、すぐに身震いしながら「やはり魂殿は準備万端だったか」と思った。

この人物の地位は、瑰殿天尊である摘星老鬼ですら「大人」と呼びかけるほどだ。

「嗤!」

新年快乐と言えるのか? その殺意を込めた視線で、黒光が急激に拡大し、近づく圧力に恐怖の叫び声はさらに鋭いものとなった。

「屑野郎! 小子にまでこんな姿を見せつけるか。

貴様が魂殿天尊として何を成し遂げたというのか」

光の輪が摘星老鬼の身体に迫る直前、淡々とした声が空を響かせた。

その瞬間、後方から青い影が現れ、周囲の空気が湿り気を帯び、細かい雨粒が降り始めた。

この異常な変化は蕭炎の注意を引きつけ、彼は「九天尊」と呼ばれる人物の実力に驚愕した。

その体から溢れる広大な斗気は天地のエネルギーまで動かすほどで、少なくとも七星乃至八星級と推測された。

淡々とした視線を蕭炎に向けていた青い影が、雨粒を高速で集め、摘星老鬼の前に回転する水幕を作り出した。

同時に彼は摘星老鬼の肩を掴み、光の輪から逃れるように後退した。

その姿を見た蕭炎は冷ややかに笑み、「ふん」と鼻を鳴らし、体中の斗気を解放させ、黒光がさらに加速する。

雨幕と衝突すると、水滴は全て光の中に吸い込まれ、摘星老鬼の足元まで迫った。

「あ!」

悲惨な叫び声と共に、その場に倒れ込む姿が見えた。

「哼!」

青い影は冷ややかに鼻を鳴らし、摘星老鬼の肩から手を離すと、さらに速く後退した。



青い影が速度を上げたその時、摘星老鬼の足元を見やった。

そこには完全に切断された両足があった。

断面は鏡のように滑らかで血の痕すらなかった。

先程接触した瞬間、その脚部の血が黒い光輪に吸収されてしまったように見えた。

顔を覗くと、摘星老鬼の顔色は雪のように白くなり息も荒くなっていた。

両足と一腕を失ったこの男はほぼ半身不随と言っていい。

「天階級の暴虐な武技か」

青い影が眉をひそめながらも瞬時に距離を置き、その実力でも正面から受け止めたくないと退いた。

大天造化掌など相手にする価値はない。

それだけでは自身にも負荷がかかる。

「逃げるなら老鬼は置いていかねば」

藍色の影が加速するのを見た蕭炎は冷笑を浮かべ、拳を握ると周囲に広がる斗気で光輪の速度を極限まで引き上げた。

瞬時にその光輪は青い影が摘星老鬼の肩を掴んだ直後に追及し、恐怖の目を見開いた相手の胸元へと到達した。

「チィ」

声もなく摘星老鬼の目が固まり血が口から流れ出て顔色は枯れ葉のように褪せた。

光輪はその胸部を飲み込み最後に範囲拡大限界で停止し、無数の驚愕視線の中でゆっくりと消えていった。

摘星老鬼の生命が絶えた瞬間青い影は動きを止めた。

冷たい目線で急速に縮小する光輪を見やり、その中心に立つ蕭炎に注目した。

「蕭玄の末裔か。

貴方のような実力を持つのは不思議だ。

廃絶した蕭家の血筋がどうして再び育てたのか?」

青い影は淡々と尋ねた。

蕭炎は答えず、藍袍老者の様子を警戒していた。

その人物の髪や眉も淡い藍色で目には無限に広がる水系エネルギーが感じられた。

見た目は普通だが太古虚龍族の黒擎と同等の実力を持つことは蕭炎も承知だった。

「廃絶した血筋から生まれたとは考えられない。

蕭玄のような強者を育むのは奇跡的だ。

もう一人いるはずがない…」

老者は自嘲気味に笑みながら独りごちた。



「廃棄された血脈?」

蕭炎は眉をひそめ、胸中で疑問が湧く。

この老人の言葉からは、かつての蕭家にも知られていない歴史があったようだ。

しかし何とやらの血脈之力といったものを感じたことはない。

彼が現在の地位に至ったのは、焚決で異火を食らう以外は、全て自身の努力によるものだった。

血脈之力などというものは関係なかった。

「疑問があるなら構わん。

魂殿へ行けば誰かが説明するだろう…」

九天尊は彼の疑いを見透かしたように淡々と笑み、摘星老鬼の胸以上の部分だけを手にした。

掌から濃厚な青色エネルギーが溢れ出し、その残された身体全体を包み込んだ。

最後には藍色の氷晶へと変化し、軽く弾かれた瞬間、ゆっくりと割れ始め、最終的に爆散して無数の破片となった。

摘星老鬼の体も粉々に砕けた。

「何度か失敗した任務にも関わらず、これほどの罰は当然だ。

だがその執行者はお前ではない。

だから、彼の死に対して…多少なりとも責任を負わねばならん」

九天尊が藍色の瞳で蕭炎を見やると、淡々と言い放った。

蕭炎は冷笑し、体内の斗気を駆動させた。

異火も体の中で凝縮され、次の戦いに備えていた。

彼の目には、この九天尊と再び全力で対決する覚悟が光っている。

「私は貴方の持つ天階級の炎蓮は知っているが、それだけでは不十分だ。

本尊の前ではそのような攻撃を行使する機会はない」

そこで九天尊は長い指先で袖を軽く叩き、無表情に続けた。

「信じないなら…」

蕭炎は目を開いて九天尊を見つめた。

確かに危険な気配を感じたが、それだけでは降伏するつもりはなかった。

彼の肩が震え、青紅色の骨翼が広がり、一振にするとその身体は爆発的に後方に跳ね返った。

残影が空を埋め、見る者を混乱させる。

九天尊がゆっくりと首を横向けた瞬間、彼の姿は空間歪みと共に消えた。

その直後、蕭炎の全身の毛が逆立つ。

目を開いた時、目の前二尺先に藍色の影があった。

「本尊は言っただろう。

これら…無駄だ」

九天尊の表情は変わらず、右掌を軽く動かすと、周囲から水気が集まり、極度に冷たい陰気を帯びたエネルギーが稲妻のように蕭炎に向かって襲いかかった。

その無煙の一撃を受け、蕭炎の顔色は急速に引き締まった。

紫褐色の炎が掌で渦巻き、巨龍のような形態になって九天尊の掌と衝突する。

「嗤」

二つのエネルギーがぶつかり合う際には驚異的な音も響かず、熱と冷が交錯し、濃厚な白煙が連続して発生した。

その中で軋み声が絶え間なく聞こえた。

「バキィ!」

衝撃波が広がる瞬間、九天尊の掌は依然として静かだった。



その等しい絡み合いは長く続かなかった。

重い声が白い霧の中から響き、次の瞬間には狼狽した人影が転々と後退し、最後に山壁に激しく打ち付けられた。

その凄まじい衝撃で頑丈な岩肌はたちまち腕の太さほどの亀裂を這い登り始めた。

「プ」…

蕭炎は唇から血を拭い、口の中の血沫も吐き捨てた。

顔色が暗く天高くに浮かぶ藍色の人影を見つめる。

摘星老鬼(**)との戦いならまだ勝負ありかもしれないが、この九天尊(**)の前に彼はほとんど抵抗できなかった。

「一緒に来なさい……」

空を舞う九天尊は蕭炎を一瞥し、その場に降り立った。

掌をゆっくりと伸ばす。

肩へ向けて掴みかかろうとするその瞬間、後ろから腕が伸びてきて彼の手首を静かに包んだ。

同時に蒼白い声が背後に響く。

「人を連れていくなら、貴方だけではまだ資格がない……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...