闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

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第1268話 宗主の座

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百丈に及ぶ巨体が天地を支配するように立ちはだかり、その周囲には大海のような斗気(とうき)が渦巻いていた。

その動きは雲のように厚く、風雷の轟音と共に広がり続ける。

「にえっ!」

妖花邪君(ようかじゃくん)の顔色は蒼白になりながらも、目の中には闇が宿っていた。

彼女の視線は遠くの空を舞う蕭炎(しょうえん)に向けられ、喉から低く唸り声が漏れる。

「この儚き者め!」

妖花邪君の手印が変化すると、その巨体は一歩前に進み出した。

その一歩で天候すら狂わせ、雲が乱れ動きながらも天地が揺らぐほどの力場が生じた。

「ドン!」

という音と共に、巨人の一撃が放たれた。

彼の拳には天地を掴むようなエネルギーが凝縮され、その衝撃は空間すら引き裂くほどだった。

地面上の広場までその圧力が及び、腕一本分の幅を持つ亀裂が無数に生じる。

「六星斗尊(りくせいとうそん)という名にふさわしい一撃だ……」

花宗の長老たちが防御を強化しつつも、その光景を見つめていた。

蕭炎が二星斗尊の力でここまで追い詰めていることに驚きを隠せない様子だった。

雲間から覗く雲韻(うんいん)は心配そうな表情を作りながらも、彼女の信頼する弟子への確信に揺らぐことはなかった。

「ふん」

蕭炎の背中に翼が広がり、強風を遮る。

その風圧で衣装が身体に張り付き、雷鳴のような音が耳を震わせる中、彼は静かに息を吐いた。

「これが六星斗尊の全力の一撃なのか……」

掌(てのひら)を開き、巴掌大の破滅の蓮花(はんげ)がゆっくりと回転する。

その小さな花弁には真の破壊力が宿っていた。

「行け」

笑みを浮かべながら、蕭炎は手を上げた。

蓮花は尾を引いて巨体へ向けて駆け出した。

「この儚き者め!」

その蓮花を見ると、妖花邪君も慌てて手印を変えた。

巨人は天高く咆哮し、恐怖の波動が大規模な風圧となって広がり、それを掴んでさらに加速した。

巨体の一撃と小さな蓮花が衝突する瞬間、その光景は観る者を息を呑ませさせた。



「ふたつが衝突する」その瞬間、突然の静寂が訪れた。

まるで天地が一時停止したかのように。

静寂は短く、次に響き渡ったのは驚天動地の爆発音だった。

九天の雷鳴のような轟音と共に山脈全体が震えた。

その直後には天を裂く炎の嵐が現れた。

その猛威は百丈を超える巨人の体を引き裂き、彼の体内で沸き立つ斗気を水柱のように噴出させた。

しかし炎の嵐に触れるや、その高温で瞬時に蒸発してしまった。

「ドン!」

と巨岩が砕けるような音と共に、炎の嵐は巨人の体に衝突した。

彼の体内の斗気は急速に消散し始めた。

「バチッ!」

と新たな爆発が響く。

蕭炎が熱い空気を深呼吸しながら後退し、鋭い叫び声と共にその炎の嵐は完全に解放された。

「ドン!」

と凄まじい火の波が巨人の体に襲いかかった。

その圧力で巨人は連続して後退し、体も次第に透明になっていった。

「バチッ!バチッ!」

と連続した爆発音と共に炎の波紋が広がり、周囲の水分を瞬時に蒸発させた。

その度合いは巨人の体をさらに虚無へと近づけた。

「ドン!」

と最終的な衝撃で巨人は爆散し、完全に消滅した。

「プチッ!」

「まさか……」巨人が崩壊する瞬間、妖花邪君も血を吐きながら驚愕の表情を見せた。

しかし次の瞬間、炎の波紋が彼にも迫り始めた。

その衝撃で即座に消滅する危機だった。

恐怖を抑え、妖花邪君は体内の斗気を最大限に駆動させ、光速のように後退した。

一瞬で防御壁を突破し、炎の波紋もまた彼を追うように広がった。

「ドン!」

と巨大な衝撃で防御壁が震えたが崩壊しなかった。

しかし次の炎の波紋が再び襲い掛かり、今度こそ防御壁は限界を迎え、「バキッ」と音と共に破れてしまった。

その瞬間、炎の波紋は無制限に広がり始めた。

周囲の花宗弟子たちの顔色は白くなり、絶望的な雰囲気が漂った。

「あー……」

しかし次の瞬間に蒼老の嘆息声が響き、突然現れた人物が袖を振ると無形の波紋が炎と対峙し、徐々に消滅した。

「大長老!」



彼が突然現れた姿を見た花宗の長老たちの顔に驚きの表情が浮かんだ。

「蕭炎、貴方は我が花宗を滅ぼす気なのか?」

空高く白髪の老人は遠くで立つ蕭炎を見て苦々しく言った。

その言葉に頬が蒼白くなる蕭炎もまた困惑していた。

彼はこの白髪の老人の凄まじい実力を感じ取っていたため、無闇に動けなかった。

頭を下げて言う。

「やむを得ない事情があったからです。

老婆婆にはごめんなさい」

声が途切れた瞬間、彼は納戒から数粒の丹薬を取り出して口にした。

次いで花錦を見つめた。

その女性の顔は驚愕で歪んでいた。

彼女は蕭炎が妖花邪君さえも凌駕するような凄まじい攻撃を放ったことに気付いていなかったのだ……

「嗤!」

遠方から狼狽した妖花邪君の姿が再び現れた。

顔色が暗く空高く立つ彼は、自分が試合エリア外に出た時点で負け判定になったことを悟っていた。

つまり今日、六星斗尊である自分は四星斗尊の男に敗北を喫したのだ……

唇が引き攣るほど顔を引き締めながら妖花邪君は周囲からの視線を感じて身じろぎもできなかった。

空高く蕭炎は遠くの妖花邪君を見やらず、地面へと降り立った。

近くにいる花錦を見るだけだった。

掌で空間をなぞると四つの異火が浮かび上がった……

「認める」

その四つの炎を見て花錦の顔はさらに蒼白くなった。

妖花邪君六星斗尊ですら耐えられないほどの力だというのに、自分が逃げることもできないだろうと悟り、彼女は悲鳴を上げた。

それを聞いた蕭炎は笑みを浮かべて口を開いた。

「吞む」

四つの異火が彼の体内に吸い込まれる。

今の実力では二度連続して滅ぼし蓮を使うことはできないのだ。

この女性は妖花邪君の敗北で恐れ入ったようだ。

花錦が認めたことで長老たちもため息をついた。

四星斗尊と六星斗尊の試合が二星斗尊に負けたなんて笑い話だ……

「幸運だったね……」

蕭炎は云韻の方へ顔を向けた。

彼女は唇を開け、驚愕で歪んだ美しい顔を見つめていた。

軽く咳をしてから笑った。

「いつも強がりなんだよ……」

云韻は蕭炎の蒼白い顔を見て舌打ちしたように目を細めた。

その視線には少しだけ甘やかさも含まれていた。

花宗の大長老はため息をつき、花錦を見つめて言った。

「負けたなら云韻に宗主玉璽を渡せ」

その言葉に花錦の手が握りしめられたが、場所柄では無理だった。

彼女は牙を剥いて玉璽を取り出し云韻へ投げつけた。

大長老は云韻を見やると笑みを浮かべて言った。

「私は云韻さんの目を見て選んだ。

今後……花宗の新宗主だ」

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