闘破蒼穹(とうはそうきゅう)

きりしま つかさ

文字の大きさ
1,297 / 1,458
1300

第1343話 最後の試練

しおりを挟む
「あと五日ほどで三年の歳月が天墓の旅に幕を下ろす。

ようやく終わるんだな」

蕭炎の顔に沈思黙考の色を見た薰えは微笑んで言った。

「そうか……」と萧炎もため息をついた。

外界では半年しか経ていないのに、彼らは実質三年間の厳しい修行を積んできたのだ。

苦しい訓練にもかかわらず効果は予想外に良かった。

当時天墓に入ったばかりの蕭炎は六星斗尊の域に達していたが、今は八星斗尊の頂点にまで到達し、種族紋や様々な術を駆使すれば九星斗尊と戦えるほどになった。

三年という期間で彼は驚異的な進化を遂げていたのだ。

「ふん……そろそろ帰る時間だな。

この歳月も早いものだ」

一側の蕭玄が笑みを浮かべた。

その声には寂寥感と落寞が混ざっていた。

天墓は彼を別の形で生きていくことを許していたが、同時に無限の孤独を与えていた。

彼らはこの人気のない世界に囚われた囚人同然だったのだ。

「先祖……あなたもずっとこの姿で残るのですか?」

しばらく黙っていた蕭炎が問いかけると、蕭玄はため息をつきながら頷いた。

「これは別の形での生存の代償さ。

天墓から出ればたちまち消滅してしまう。

だからここにずっと留まるしかないんだよ」

萧玄の言葉に含まれる悲しみを聞き取った蕭炎の胸中は複雑だった。

たった三年でさえ耐えられないのに、蕭玄がその何百倍も長くこの地にいるのだ……

「他に完全な再生の方法はないのですか?」

彼は静かに尋ねた。

「ふーん……煉薬師なら死んだ人間を蘇らせる高級丹薬もあるさ。

だが私はすでに何千年も前の魂で、それさえも不完全なものなんだよ」

蕭玄は笑いながら肩を叩いた。

「小僧、まだ帝境に達していない今の君には無理だ。

そのくらいの実力になれば何か手が回るかもしれないけど……今は無駄なことさ」

「私は孤独を耐え、ここに残っているのは……ただ蕭族の血脈を継承するためなんだよ。

自分の死骸を天墓に埋めるわけにはいかないんだ」

蕭炎は深く息を吸い込み感情を抑え込んだ。

今の彼にはその言葉が真実だった。

「先祖さん、安心してください。

この天墓には必ずまた来ます。

次回訪れた時には帝境まで突破してきます!」

彼は静かに宣言した。

帝境への到達は極めて困難だが、どんな代償を払ってでも全力で挑むつもりだ。



しょうえんは、しょげんの真剣な表情を見つめながら、手を合わせて礼を述べた。

その瞬間、しょげんの掌が突然動いた。

しょうえんの納戒が軋み、巴掌大の光の塊が浮かび上がり、しょげんの前にとどまった。

「これは……」

その光の中に、拳サイズの玉の幼虫が浮遊していた。

その周囲から不思議な気配が滲み出ている。

「遠古の食虫族の王虫だよ。

この王虫は人間の半聖に匹敵する実力があるんだ。

今は休眠中だからこそ、エネルギー壁を突破できたんだろう」

しょげんは笑みを浮かべながら説明した。

「半聖級の王虫?」

その言葉にしょうえんが身震いした。

もしも当時この事実を知っていたら、絶対に触手を伸ばさなかっただろうと後悔する。

「そうなんだよ。

だからあの遠古の食虫族たちがここまで暴走していたんだ。

しょうえん兄貴が王虫を持ち出したからだ」

薰は玉の幼虫を見つめて笑った。

「もしもこの王虫を外に出したなら、目覚めたら無音で体の中に侵入し、あなたの斗気を暗中灯火のように吸い取るんだ。

それだけじゃなく、半聖級以上の強者がなければ体内から取り出すことはできない」

しょげんが笑って続けた。

「あーっ! 先祖様の鋭い眼力に感謝だよ。

もしもこの毒虫王を外に出してたら、間違いなく殺されていただろう」

しょうえんは冷や汗をかいた。

斗気消失体験は二度と繰り返したくない。

「さて、この王虫は遠古の蟲皇衣を作るのに最適な素材なんだよ。

こう見えてね、これは特殊な防御術で、甲冑のように身体に覆い、半聖級の攻撃を受けても破壊されないはずだ」

しょげんが説明した。

「ほーっ! お前の龍凰古甲と合わせたら、斗聖級の一撃でも生き延びられるかもしれないね」

しょうえんの目が輝いた。

確かにその可能性は十分に考えられた。

「安心してな。

この作製は私がやるからさ。

君が出発する前に完成させておくよ。

今はもう一つ重要なことをやってもらわないと」

しょげんが笑った。

「何だよ?」

しょうえんが驚いたように尋ねた。

「当然、魂族の二人を片付けることさ。

あの大敗は忘れちゃいけないんだから。

蕭族の人間はそんなに器用じゃないんだよ」

しょげんが淡々と続けた。

「魂崖と魂厉だな…… あいつらのことなど忘れていないさ。

ただ今は彼らの隠れ場所さえ分からないんだ」

炎の力が急激に増大した今や、再び魂崖二人と対面しても天妖傀を召喚しなくとも容易に片付けられる。

この天墓は生き物たちだけのもので、至る所に危険が潜んでいる。

彼らがここで死んだとしても誰にも知られることはないだろう。

まさに殺人滅人(せっにんめつじん)の最適な場所だ。

「彼らがこの天墓にいれば、私の感知から外れることはない」蕭玄は淡々と笑みを浮かべ、手を軽く振ると空間が波打った。

その隙間に広がる裂け目から百里先の彼らへと瞬時に移動できるのだ。

「ここを通れば彼らの近くに現れる。

それ以降はお任せだ。

口出しなどするつもりはない…問題ないか?」

炎は頷きもせずに冷ややかに笑った。

何も言わずにその空間裂け目へと足を踏み入れた。

その背後で薰(くん)も同じように追従した。

二人の姿が消えた後、蕭玄もまた笑みを浮かべた。

「これこそが炎が天墓を出る直前の最後の試練だ」

広大な大地に漂う薄いエネルギー霧。

時折現れるエネルギー体は鬼のように静かに移動する。

乱れた岩山の間で銀色の甲冑をまとった存在が空中に座っている。

その周囲からは九星級の強力なエネルギーが溢れ出ている。

その目は下方を見やるが誰もいない。

しかし長年の直感から危険を感じていた。

しばらく様子を見て何も見つからないと、その九星級エネルギー体はほんの少し緊張を解いた瞬間——周囲の空間が凝固し黒い鎖状の光線が虚空中を駆け抜けた。

その光線は彼の身体に突き刺さり、黒い霧の中で体を引き裂く。

すると虚無空間から黒い影が一瞬で現れた。

「これらのエネルギー体は大きな力を抱えているが戦闘力はない」

その影は九星級の核を納めた後顔を上げた。

蒼白で陰気な若者の顔——それが魂崖だった。

「天墓の奥深くには強いエネルギー体が多いが、あの男はあまりにも恐ろしい。

遠ざかっておいた方がいい」次の影も現れた。

その傷だらけの顔は魂厉だ。

「ふん、この天墓にまで蕭族の強者がいるとは驚きだ。

炎という奴は運が良すぎる。

すぐに出よう。

出てから空間玉簡で移動しないと古族に追われてしまう。

炎は……」魂崖は険しい表情で言った。

「うむ、ここでは炎に反撃されたのだから我らも負けた気分だ」魂厉は頷きながら冷たい殺意を湛えた。

「あの男が星陨閣(せいうんかく)と共に滅ぼされる日が楽しみだ」

しかし魂崖が頷いたその瞬間、空間に奇妙な波動が広がり軽い笑い声が響いた。

二人の影が虚空中を滑り、魂崖と魂厉の険しい視線を受けながら微笑んで現れた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...